2007年12月09日

転々 87点(100点満点中)07-340

帰る家なし 親もなし
公式サイト

藤田宜永の同名小説を原作とした、『図鑑に載ってない虫』に続く三木聡監督の最新作

一応は原作のストーリーや設定をベースとしてはいるが、三木聡が原作そのままに作るわけがない事は言うまでもなく、相変わらずな小ネタ満載の脱力シュールコメディに仕上げている。

岩松了とふせえりの三木作品レギュラーは当然として、主演がオダギリジョーな事から観客は当然ながら『時効警察』を連想させられるが、その期待に応えるかの様に麻生久美子演じるミニパト婦警がカメオ出演しているなど、観客のツボを程よく突く気の効いた小ネタが楽しい。

その三日月さん登場ネタは『時効警察』を知らないと意味不明となり、石原良純や岸部一徳などの出オチネタにしても、芸能人としての彼らの既存イメージがあって初めて成立するものだから、単体の作品としてそうしたネタを使うのは卑怯だとの観点もあるかもしれないが、ネタを配置、披露するタイミングやセンスの方こそが重要であり、本作においては観客の呼吸を読むかの様に絶妙に行われているのだから、結果として面白ければ勝ちだ。

主人公のファーストキスの相手が、現在ではコスプレイヤーとなっている平岩紙、というシチュエーションもまた、同様の出オチネタだが、これは平岩紙という女優の存在と、コスプレというオタク文化、および綾波レイというキャラクターと、面白がるために必要な事前認識が多岐にわたって必要とされる事が、三木作品における小ネタの特異性を高めている一要因である。

それらの小ネタの数々が、ただ単にその場限りの即物的な笑いを生むだけではなく、札束の一枚だけが落ちそうなのが気になるシチュエーションを小ネタとして見せておいて、それがラストの展開へ繋がっているなど、実はストーリー上の伏線として配置されており、後になってその事に気づかされていく脚本構成の巧みさもまた、小ネタ満載の作風という点では似ている堤幸彦などより高い次元での作品づくりを行えている、三木聡のセンスを表している。

「最後に食べたいのはカレー」など、特にオチのないあるある雑談でシュールな脱力感を醸しつつ、後からその言葉がドラマ展開の伏線となっているなども同様。

一応はロードムービーの体裁をとり、起点となる事件を用意して物語を始める事で、話をどこに持っていきたいのか、一応の帰結点こそ明確になっているものの、その本題はさして重要ではなく、主人公コンビの旅と平行して進行するスーパー三人組側のドラマなどは、事象的には何のオチもついておらず、小ネタを伏線として大オチにしまうなど、意図的に脱線させる三木節も相変わらず。

擬似家族の食事シーンでの中身のない会話や、出かける時は母親が一番モタモタしているなど、リアルな家族を表現するあるあるネタによる、ユルいコメディ描写によってほのぼのさせつつ、劇中の各人物が心の中で求めていた理想家族が形成されている様を見せられる事で、観客はそれぞれの気持ちになって共にこの場にいる事の喜びを抱かされる。と、ネタとストーリー展開と感動を相互に絡めた作り込みは秀逸。

そこから生じる感動を、見せる側としては殊更に強調して観客に押しつける様なクドい演出は行わず、敢えてサラリと流す事で観客の想像力を喚起し、より実感的な感動を起こさせておいて、いつまでもそこに留まらず、次なるネタでまた笑わせて安心させる、といった、安易なお涙頂戴に逃げない姿勢も大いに評価出来る。

ただ、三浦友和が妻の話をして、話だけで姿をなかなか見せてもらえない、とくれば、観客は間違いなく山口百恵を連想する事となるにも拘らず、その事はスルーして別のコメディ展開によって役の上での妻の姿を見せてしまうのには物足りなさを感じもする。

もっと言えば、妻が存在する"室内"の様子は最後まで見せないままの方が良かったのでは、とも思わされる。中がどうなっているのかを観客の想像のみに留めさせる事で、山口百恵の存在が名前を出さなくともネタとして成立しただろうし、スーパー三人組による会話もまたよりブラックな笑いとして活きただろう。室内の状況に特段のオチを設けず、あくまでも外側の話のみでサッと終わらせたのだから尚更だ。

と、贅沢を言えば引っかかる部分もあるにはあるが、脱力シュールコメディと寂寥感のバランスが程よく取れた、現時点での三木作品としては最高傑作と呼んで過言ではない完成度であり、それを支えているのは、実力と個性溢れる出演者達の、的確すぎるキャスティングにもある事も間違いない。

最初に挙げた面々以外にも、小泉今日子は"美人のオバサン"役がピッタリとハマり、ふふみ役の吉高由里子の強烈なキャラクターは、後半に道程としては停滞するドラマを加速する役割を必要以上に果たしている。彼女らの存在なくしては、後半を支配する"幸福感"は成し得なかっただろう。

大作と銘打って中身カラッポのメジャー作品が溢れる中、小品ながら娯楽性は格段に高く、現場でも楽しんで作られている事がよく伝わり、それが作り手のオナニーに終わらず観客もそれ以上に楽しむ事が出来る、三木聡や出演者のファンでなくとも、映画好きなら必見の一本。機会があれば是非。


tsubuanco at 16:17│Comments(10)TrackBack(23)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by sheep   2007年12月05日 18:13
 個人的にも文句無しの一本でした。自分内本年度第一位確定です。
 でも、三浦の妻話で山口百恵って思いつきませんでした。常識なんでしょうか。
2. Posted by zz   2007年12月06日 01:18
つぶあんこ氏、この記事には関係ないけど「点と線」の批評してください。どんな感想をもったのか聞いてみたい。俺は傑作だと思った。
3. Posted by つぶあんこ   2007年12月06日 17:37
わざわざ南の島で体操しなくても、東京にもこんなに素晴らしい"日常"があるんだ、と素直に感じ入らせる傑作ですこれは。

三浦友和は最近では個性派俳優としてのスタンスを確立してますが、結婚後の低迷してた時期は「山口百恵の旦那」という扱いでしたからねえ。
それを思うと最近の活躍は意外でもあり嬉しくもあります。


どの『点と線』ですか?
4. Posted by zz   2007年12月08日 00:08
失礼。この間テレ朝でやったビートたけし主演のやつです。
5. Posted by つぶあんこ   2007年12月09日 14:33
まだ未見です。
6. Posted by 爽泉   2007年12月14日 15:17
コビトカバはかわいいのです。
7. Posted by つぶあんこ   2007年12月14日 17:33
最近、生物の名前にまで言葉狩りが及びつつあるので心配です。
8. Posted by はっち   2007年12月15日 08:54
>彼女らの存在なくしては、後半を支配する"幸福感・・・
同感です。あの雲のようなつかみ所の無い設定、そしてその雰囲気を見事に演じた吉高さんの演技見事でしたね〜♪

ボクにはちょっとハマりませんでしたが、雰囲気のある映画でした〜♪
9. Posted by つぶあんこ   2007年12月17日 17:53
主演が決定している『蛇とピアス』では、どんな演技を見せてくれるのか楽しみです。
10. Posted by kimion20002000   2009年02月12日 17:05
>現時点での三木作品としては最高傑作と呼んで過言ではない完成度であり、

あんまりテレビは見ないので、小ネタで見落としているものもいくつかあるんだろうけど、まあそれでもロードムービー的内容は、おじさんでも十分、楽しめました。

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