2007年12月12日

タロットカード殺人事件 70点(100点満点中)

右側通行だから右から見るのだ
公式サイト

ウディ・アレン監督、スカーレット・ヨハンソン主演と、『マッチポイント』に続くコンビで作られたコメディ映画。

舞台はイギリスだが主人公達はユダヤ系アメリカ人である事を常に強調し、イギリスの階級社会を皮肉ったギャグ、コメディ描写と、イギリスとアメリカの文化の差異を用いた、アレン得意のギャグを重ねておいて、最後の最後にそれを前フリとしたブラックすぎるギャグを意外な大オチとする、コメディとしての伏線と収束の練り込みが秀逸。

その大オチも、ウォーターマン(ウディ・アレン)の車が事故る局面は音だけとし、一体どうなったのかはなかなか見せず、その後彼の姿を一切見せずに会話だけで流してまず笑わせ、更にそれが何故か"いい話"っぽく強引にまとめられる事でまた笑わせ、最後に"三途の川"に繋げる事で、最初と最後をループさせる構図を見せて感心させつつ、"死んでも治らない"描写で笑わせて終わる、と、とことん笑いの構成にこだわった作り込みは、老いて尚健在だ。

一方、一応のメインストーリーとなっている筈のミステリーとしては、ボートで漕ぎ出した途端に結末まで読めてしまうなど、こちらの伏線と収束は意図的におざなりにされており、それが主眼でない事を強調しベタな笑いを生んでいる。

事態が一段落、あるいは急展開するごとに、ウォーターマンか幽霊がこれまでの顛末をわかりやすく要約して説明し、今からどうすれば良いかも同じくわかりやすく口にするあたりからも、本作が殺人事件の謎を追うミステリーとして作られていない事は明白であり、本作は殺人事件の謎を追うボケジジイと尻軽爆乳メガネ女の凸凹コンビを描いた漫才コメディに他ならないのだ。

主人公であるジャーナリスト志望の女子大生を演じるスカーレット・ヨハンソンは、『マッチポイント』とは異なり、メガネ腐女子的な出で立ちで通され、わかりやすい外観的魅力は抑えられているが、それでも尚、全く隠せない爆乳と美貌は却って彼女の魅力を倒錯したかたちで表出させており、敢えてストレートな表現としなかったところに、アレンの文字通り老成した女性観を垣間見せられるものだ。

序盤の水着シーンは、それが通じない人に対する優しきサービスだろう。と思いきや、それがミステリー部のオチに繋がるのだから侮れない。そしてそれが、まずネタ振りとしてのプールシーンでの顛末がそもそも"その場の思いつき"だった事も含め、ミステリー要素をバカにしたシニカルな笑いへとしているところに、意地の悪さを感じる。

見た目は地味なのに、取材対象の男とはすぐ寝てしまう、外見と実情のギャップの段階から、キャラクターに笑いの要素を持たせているのも小憎い。

スカーレットのエロい魅力と、笑いのツボを心得たアレンのノンストップの話術を見ているだけでも、全く飽きずに最後まで見ていられるのだから、自分と女優の持ち味を充分に心得た、アレンの作劇と演出の巧みさがよくわかるというものだ。

だからと言っても、三途の川や幽霊が何の説明も無く登場し、主人公達もそれをすぐに受け入れてしまうなど、無理矢理な強引さが多々見られる事も確かで、そうした悪い意味でのツッコミどころに対しても、気の効いたフォローは欲しかった。

また、イギリス英語とアメリカ英語の差異によるウィットやユーモアを、日本語字幕では表現しきれていなかった事も、作品自体の責任ではないが残念だ。

邦題から連想される謎解きミステリーを期待すると肩すかしを食らうだろうが、監督名を見ればそれは期待する方に問題があると気づくべきだ。

ウディ・アレン作品およびスカーレット・ヨハンソン、あるいはヒュー・ジャックマンのファンなら必見。押しつけないコメディ映画が好きなら、充分に楽しめるだろう。機会があれば。


tsubuanco at 16:43│Comments(5)TrackBack(13)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by ノイズ   2007年12月23日 00:21
お久しぶりです。
今週から僕が住む地方でもこの作品が公開されたのですが、ウディ・アレン監督作品を恥ずかしながら未だに1本も観たことが無いのです。
その記念すべき1本目に、本作を選んでも満足に楽しむ事が出来るでしょうか?
2. Posted by つぶあんこ   2007年12月23日 15:25
好みが別れるタイプなんで観て判別してくださいとしか言えませんが、もし合わないと感じたら、スカーレットの巨乳に注目していれば何とか最後まで保つかもです。
3. Posted by ノイズ   2007年12月24日 00:35
御返事ありがとうございました。近日中に観に行ってみます。
今年も残りわずかとなりましたが、つぶあんこさんが思う、「2007年最も面白かった・完成度の高かった映画」は何でしたか?そんな記事も是非見てみたいです、1クール毎に書いておられるドラマの記事の様な。
4. Posted by つぶあんこ   2007年12月25日 17:32
今年はそういう事が言えるくらいの量を観たと思いますので、年末年始あたりにやろうかと考えてます。
5. Posted by わとそん   2008年10月19日 21:23
 WOWOWで見ました。
 最近のウディ・アレンらしく肩の力のいい具合に抜けた作品でした。そういう意味ではつぶあんこさんの不満とされている三途の川の説明なしでの登場や、幽霊を主人公達がすぐに受け入れてしまう点などもああいったレベルでの描写にとどめるのが自然で正解だと思いました。
 スカーレットのエロさについては全く同意であり、前作「マッチポイント」以上にウディ・アレンのそっち系の才能が際立ってましたね。

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