2007年12月13日

僕のピアノコンチェルト 77点(100点満点中)

わざと答えを間違えて書いてるんだ
公式サイト

『のだめカンタービレ』などの影響か、日本ではクラシック音楽に集客力があると思われており、実際にその通りなのだろう。本作の邦題は『死霊の盆踊り』並に原題とは無縁の創作タイトルであり、この邦題から受ける印象で、天才ピアニスト少年を描いた音楽映画であるといった前印象を抱いてしまうと、そうはいかない実際の内容に対して違和感を抱いてしまうかもしれない。原題は主人公名の『Vitus』

もちろんピアノもメイン題材の一つにはされているが、主人公はそれだけではなく、知能面でも著しく突出した超天才児として設定され、ピアノは彼の"多才"を表現する一要素である。

天才ゆえの孤独や苦悩を主人公視点で描き、それと平行して親側の視点で"我が子への期待"を"天才への期待"にディフォルメさせた心情を描き、両者の齟齬と乖離を描いて物語をネガティブな方向へ持ち上げていく前半の展開は、観客の興味を充分に惹き付けるもの。

その対立が頂点に達した時に、主人公に起こる事件を、まず主人公視点で”直前”までを見せ、続いて親視点で"直後"を観客に見せる事で、無意識下による観客の視点の転換がスムーズに行われ、事の真相を親だけでなく観客の目から逸らす事にも成功している、この場面の構成は、真相が明らかになった時に、意図された秀逸な仕掛けであると気づかされ、感心させられる。

親との関係よりも祖父との関係を重く扱っているのは、直接の当事者である親よりも責任感が軽いため、却って主人公に対し真摯に接する事が出来る存在を置き、その祖父との関係性が、ストーリー展開の主軸を構成している事に注視すれば、子供を追い込んでいく展開に対する、主人公にとっても観客にとっても救いの存在としているのだろうと、作り手の優しい視点が感じられる。

その祖父との関係性の集大成であり、同時に関係性にケリをつける"儀式"でもあった、主人公の飛行シーンを、映画の最初に先に見せておく事で、その場面に再び帰結する終盤にて、最初に見せられた謎の場面の意味を観客に伝えて安心させると共に、主人公にとっての重要性をあらためて認識させ、飛ぶ前と着陸後の主人公の内面変化を明確に伝える事に成功している。

その上で、最終的に"ピアノ"へと回帰するラストシーンに、主人公の"成長"の意味をより強く与え、また、幼年期にピアノ教師に言われた言葉が収束された構成でもあるなど、人物配置もストーリー構成も、かなり考えられたものである事がよくわかる。

ベビーシッターの少女に対する主人公への想いの、子供心天才ゆえの早熟な観点とのギャップが、外見と内面とのギャップに現われ、想いが伝わらない、といった顛末に、もう一段の突っ込んだ葛藤や解消があれば、よりリアルな天才児像を描けていただろうが、あれもこれもとエピソードを詰め込みすぎたため、中途半端に終わってしまった嫌いはある。

もう少し方向性を絞ってまとめ上げれば、より完成度の高い物語となっていただろうから、あるいはピアノに関する要素をバッサリ削除しても良かったのかもしれない(笑

とは言え、"天才"を多面的な視点で捉え、観客の子供時代の思いと親(大人)としての思いの双方を想起させて感動させる、良質の一本である事は間違いなく、観て損したと思う事はまず無いだろう。機会があれば。


tsubuanco at 17:27│Comments(0)TrackBack(5)clip!映画 

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