2007年12月18日
ふみ子の海 32点(100点満点中)
「からい」と思わなかったものですから
公式サイト
市川信夫の同名児童文学を映画化。一応実在の人物をモデルとして書かれた原作だが、主人公が按摩になるなど大幅に創作が加えられており、"実話"とは呼べない物語となっているところから、今回の映画版では更に登場人物が大きく整理されるなど、もはや元となった人物の原型を留めていない状態となっている。
その事自体は問題ではないが、創作として加えられた部分が殊更に、不幸や苦労や泣かせ、あるいは感動をこれでもかと前面に押し出したものに終始し、主人公が都合よく追い込まれて都合よく救われる、決めつけられたストーリー展開は安易すぎる。
主人公(鈴木理子)都合良く水に落ち、都合良く親切な紳士が通りがかって助けられ、その人の家は実は好都合な事に盲学校の先生の家だった、と、それなんて一本道ゲーム?な、作為が見え見えの展開は、いくら元が子供向けとは言え考えが無さ過ぎる。
サダ(尾崎千瑛)の最期にまつわるエピソード展開などは、創作のあざとさが浮き彫りとなった頂点だろう。
師匠タカ(高橋恵子)は自分から主人公を追い出しておいて、朝になったら何故か心配している、この流れは本来なら、そこに至るまでにタカの口ぶりと本心のギャップをある程度匂わせておいて、追い出したのは「ついカッとなってやった」に過ぎず、「今では後悔している」描写を追い出した直後から初めておくべきなのが、それを行わず、雪に埋もれている少女の正体を観客に勘違いさせる事を優先して、夜間の描写を省略してしまっているため、変転の推移が描かれず、ために客の「お前が追い出したのに何言ってんだ」とのツッコミを受けてしまう事となるのだ。
その行き倒れ場面にしても、人間が雪に埋まって倒れているのを発見したら、何よりもまず雪の中から助け出そうとするのが、雪国に済む人間ならずとも当然の行為と誰もが思うのに、発見した男は埋まっているのを放ったまま、大声で人を呼びに行ってしまうのだ。これもまた、埋まっているのが誰かという、観客に対するミスリード要素を引張りたいだけの都合が見え見えで、「ああ、隠してるんだな、主人公じゃないんだな」と逆に気づかされる結果となっている。
ために、その後の按摩屋の土間に人が出入りする場面での、展開の二転三転には少しも意外性が無くなり、わかりきっている事をダラダラ引張られる事でどんどんシラケていき、しかも何故かコメディタッチでこの場面を演出している事で、余計に画面内の盛り上がりと観客のテンションは反比例してしまう。
最期の悲劇を強調するための、前段としてのコメディタッチだったのかもしれないが、そのもくろみは完全に失敗し、深刻な事態なのに何故笑わそうとしているのかと引っかかるだけで、局面の締めである悲劇場面で本来生まれる筈だった感動が、大きく損なわれてしまっている。
馴れない方言を使って芝居が行われている事で、却って台詞回しに自然さが無くなり、創作、お芝居であると事あるごとに気づかされてしまうのも、作り手の意図とは異なりマイナス点となっている。特に本作は子供に演技させる事が重要な作品なのだから、馴れた標準語で演技させた方が不自然さは軽減された筈だ。
主人公の周囲の人物造形が、作り手の思惑を表現するために、極めて恣意的にカテゴライズされている事もまた、作為をありありと感じて感情移入を阻んでいる。
大旦那(中村敦夫)や師匠の言う通り、障害者が自力で仕事をし金を稼いで生きていける様に、特別な技術を身につける努力をするべきとの意見は全くの正論にも拘らず、何故か彼らは"無理解で頭の固い人間"との印象で描かれ、一方で何の具体的ビジョンも無く、資金の当ても無く、無責任に主人公を盲学校へ行かせたがる人間達は、"優しい人々"として描かれる、こんなあからさまな偽善的偏向を、"いい話"として子供に見せるのは問題がある。
これではまるで按摩はマトモな人間が就いてはいけない卑しい職業か何かの様な印象すら与えてしまう畏れもあり、却って差別や偏見を生み出していると言われても仕方ない状態であり、こうした近視眼的な偽善に酔いしれ、実は自分が一番弱者を見下して自分の利益のために利用している自覚すらない、悪い意味での左翼的な思想には辟易するばかりだ。
眼は見えなくなっても海は見えた、という、母親とのつながりを表すビジョンが、後の展開に何ら活かされていないのも肩透かしだ。"海"の要素は辛うじて貝殻によって持続していたが、それより重要な"見えた"事が何の伏線にもなっていないのでは、タイトルの意味すら曖昧になってしまう。
題材は非常に興味深く、主人公を始めとする子役達が頑張って盲目の演技をしている事もよく伝わるだけに、主張の甘さと脚本の弱さが残念でならない。
興味があれば原作本に眼を通しておく程度で充分だろう。出演者のファン以外は特段に鑑賞の必要は無い。自己責任で。
公式サイト
市川信夫の同名児童文学を映画化。一応実在の人物をモデルとして書かれた原作だが、主人公が按摩になるなど大幅に創作が加えられており、"実話"とは呼べない物語となっているところから、今回の映画版では更に登場人物が大きく整理されるなど、もはや元となった人物の原型を留めていない状態となっている。
その事自体は問題ではないが、創作として加えられた部分が殊更に、不幸や苦労や泣かせ、あるいは感動をこれでもかと前面に押し出したものに終始し、主人公が都合よく追い込まれて都合よく救われる、決めつけられたストーリー展開は安易すぎる。
主人公(鈴木理子)都合良く水に落ち、都合良く親切な紳士が通りがかって助けられ、その人の家は実は好都合な事に盲学校の先生の家だった、と、それなんて一本道ゲーム?な、作為が見え見えの展開は、いくら元が子供向けとは言え考えが無さ過ぎる。
サダ(尾崎千瑛)の最期にまつわるエピソード展開などは、創作のあざとさが浮き彫りとなった頂点だろう。
師匠タカ(高橋恵子)は自分から主人公を追い出しておいて、朝になったら何故か心配している、この流れは本来なら、そこに至るまでにタカの口ぶりと本心のギャップをある程度匂わせておいて、追い出したのは「ついカッとなってやった」に過ぎず、「今では後悔している」描写を追い出した直後から初めておくべきなのが、それを行わず、雪に埋もれている少女の正体を観客に勘違いさせる事を優先して、夜間の描写を省略してしまっているため、変転の推移が描かれず、ために客の「お前が追い出したのに何言ってんだ」とのツッコミを受けてしまう事となるのだ。
その行き倒れ場面にしても、人間が雪に埋まって倒れているのを発見したら、何よりもまず雪の中から助け出そうとするのが、雪国に済む人間ならずとも当然の行為と誰もが思うのに、発見した男は埋まっているのを放ったまま、大声で人を呼びに行ってしまうのだ。これもまた、埋まっているのが誰かという、観客に対するミスリード要素を引張りたいだけの都合が見え見えで、「ああ、隠してるんだな、主人公じゃないんだな」と逆に気づかされる結果となっている。
ために、その後の按摩屋の土間に人が出入りする場面での、展開の二転三転には少しも意外性が無くなり、わかりきっている事をダラダラ引張られる事でどんどんシラケていき、しかも何故かコメディタッチでこの場面を演出している事で、余計に画面内の盛り上がりと観客のテンションは反比例してしまう。
最期の悲劇を強調するための、前段としてのコメディタッチだったのかもしれないが、そのもくろみは完全に失敗し、深刻な事態なのに何故笑わそうとしているのかと引っかかるだけで、局面の締めである悲劇場面で本来生まれる筈だった感動が、大きく損なわれてしまっている。
馴れない方言を使って芝居が行われている事で、却って台詞回しに自然さが無くなり、創作、お芝居であると事あるごとに気づかされてしまうのも、作り手の意図とは異なりマイナス点となっている。特に本作は子供に演技させる事が重要な作品なのだから、馴れた標準語で演技させた方が不自然さは軽減された筈だ。
主人公の周囲の人物造形が、作り手の思惑を表現するために、極めて恣意的にカテゴライズされている事もまた、作為をありありと感じて感情移入を阻んでいる。
大旦那(中村敦夫)や師匠の言う通り、障害者が自力で仕事をし金を稼いで生きていける様に、特別な技術を身につける努力をするべきとの意見は全くの正論にも拘らず、何故か彼らは"無理解で頭の固い人間"との印象で描かれ、一方で何の具体的ビジョンも無く、資金の当ても無く、無責任に主人公を盲学校へ行かせたがる人間達は、"優しい人々"として描かれる、こんなあからさまな偽善的偏向を、"いい話"として子供に見せるのは問題がある。
これではまるで按摩はマトモな人間が就いてはいけない卑しい職業か何かの様な印象すら与えてしまう畏れもあり、却って差別や偏見を生み出していると言われても仕方ない状態であり、こうした近視眼的な偽善に酔いしれ、実は自分が一番弱者を見下して自分の利益のために利用している自覚すらない、悪い意味での左翼的な思想には辟易するばかりだ。
眼は見えなくなっても海は見えた、という、母親とのつながりを表すビジョンが、後の展開に何ら活かされていないのも肩透かしだ。"海"の要素は辛うじて貝殻によって持続していたが、それより重要な"見えた"事が何の伏線にもなっていないのでは、タイトルの意味すら曖昧になってしまう。
題材は非常に興味深く、主人公を始めとする子役達が頑張って盲目の演技をしている事もよく伝わるだけに、主張の甘さと脚本の弱さが残念でならない。
興味があれば原作本に眼を通しておく程度で充分だろう。出演者のファン以外は特段に鑑賞の必要は無い。自己責任で。
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1. 【2007-178】ふみ子の海 [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ] 2007年12月17日 19:56
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盲目の少女ふみ子が見た海は──
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