2007年12月23日

ザ・シンプソンズ MOVIE 88点(100点満点中)

ドーナツには意味がある
公式サイト

日本でも10年以上前から放送されている、アメリカの人気TVアニメシリーズの劇場版。

アメリカの架空の街スプリングフィールドに住むシンプソン一家を中心とした、時事ネタや社会風刺、タブーを笑いものにするブラックネタなど、子供向けっぽい絵柄とは相反して大人でないと楽しめない作品が、アニメ=子供向けという一般認識が日本以上に強いアメリカにおいて大受けしている、その事だけでも、本シリーズのクオリティの高さは充分すぎる程に保障されている。

今回の劇場版でも、日本のドラえもんやクレしんの様に殊更に物語のスケールをアップしてしまう様な事はないにせよ、普段のキャラクター達が普段より少しだけ大袈裟な事態にて繰り広げる、ハイテンションでノンストップなドタバタは息つく暇もなく楽しく、画面のあちこちに配置された小ネタや、笑うのに前知識を必要とされるパロディが次々に押し寄せる快感を、劇場の観客達と共有出来る分も加味し、娯楽性の高さは万全だ。

冒頭からホーマーがいきなり観客に対して言っちゃいけない正論で悪態をつき、映画館で始まり映画館で終わる全体の構成は、これが映画版である事を強調して観客の鑑賞体制をコントロールする事に成功している。

続いて始まる本編では、グリーンデイをタイタニックパロディで死なせてしまう、いきなり子供置いてけぼりの社会派とブラックとパロディが混成されたギャグで笑わせ、それがその場限りでなく物語の導入部として有意に配置されていると、ストーリーとキャラクターとギャグ、全てがバランスよく構築された物語構成は上手い。

アニメーションとしての映像で笑わせる仕掛けにしても、例えば全裸で疾走するバートのシーンでは、まずバートの手前に常に何かを配置し、素早くスクロールする画面で常にチンコをあの手この手で隠し続ける映像を長々と見せて笑わせておいて、続いて画面手前の壁によってバートの全身が隠された時には、逆に唯一隠れていないチンコのみを延々と見せつけ、先程まで隠していた事が前フリとなって更に大きな笑いを生むなど、低俗なギャグを手を尽くして入念に描く、作り手のセンスと能力の高さが見て取れるものだ。

色トレス風に描かれたディズニー風動物キャラを使ってまた下品なオチへ持ち込むなど、パロディとタブー破りにとことんこだわった姿勢は気持ちいい。

と、この作品の面白さは声が変わったくらいで揺らぐものではないと、吹替版を鑑賞してあらためて認識した次第だが、それにしても、ベッキー演じるリサの声に関しては、TV版とは別物ながらこれはこれでよく演じていると感じられるものの、ホーマーとマージに関しては、危惧していた程にヒドくはなかったにせよ、やはりどう聞いてもキャラにも合っておらず上手いとも思えない

オリジナル新作なら、キャラクターに合ってさえいればアイドルだろうが芸人だろうが構わないし、今までのシリーズと変えたなら変えたで、ドラえもんの様に今後はそのキャストで通すのなら、そういうものとして受け入れる事は出来る。

だが、TVシリーズの映画版で、キャラクターに合ってもいない、演技も上手くないタレントに主人公の声を当てさせて、しかもその時限りで後はお構いなしとは、作品に対する尊重も、ファンに対する心配りも到底あるとは思えない。

サザエさんの映画を作るにあたって、一家の声を有名タレントに総取っ替えして一体誰が喜ぶというのか。話題づくりをしたいなら、脇のゲストキャラ(今回なら大統領など)の声を当てさせればそれで済む話だ。何を勘違いしているのだろう。

これでは、新規の客層を開拓するどころか却って敵を増やしている始末だ。味方を増やすより先に敵を減らせとは田中角栄の言だが、完全に逆を行っている。

『ロード・オブ・ザ・リング』によって戸田奈津子の字幕の質が取沙汰された事例にも似た、今回のタレント吹替え騒動だが、これは指輪同様に、一つの作品に限らず、これまでの配給会社による観客をバカにした全ての仕事に対し、積もりに積もった消費者の不満が、ちょっとしたきっかけで爆発した現象であり、決して「特定作品の熱狂的マニアが、オリジナルと違うとゴネている」といった、矮小化された問題ではない事こそが問題なのだ。

本気で「一部のマニアが〜」と思っているのであれば、事の本質を全く理解出来ていない低能極まりないバカであり、そうでないとわかっていながら敢えてそう言って逃げているのなら、自分の誤りを認めようともせず、あまつさえ客の悪口を言って責任を押しつける、社会人として最低のクズでしかない。どちらにせよ、その言葉を口にした時点で終わっているのだ。

そんな消費者無視の仕事しか出来ないから、いくらたまごっちに客を取られたとは言え、字幕版は満員御礼で吹替版のみ初日に全国的にガラガラの惨状と相成ってしまうのだ。ちなみに上映前に流れたミスドのコラボCMも、音声は英語オリジナル版だ(笑

というわけで、劇場版ならではの、観客全員で笑いを共有する楽しみはあまり得られない残念な状態になってはいるが、作品そのものが面白い事は間違いなく、声が違ってもガマン出来るなら、観ておいて損はない出来である事も確かだ。自己責任で。



tsubuanco at 18:02│Comments(4)TrackBack(0)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by ハンゾウ   2007年12月19日 09:03
5 シンプソンズ大ゴケだとか。
土日で800万円の興行成績だそうです。
シンプソンズファンとしては正直悲しい。あれだけ前々から、声優へのタレントの起用についての批判を浴びながら強行突破した結果です。
日本ではまだまだマイナーなシンプソンズを起用してくれたミスドには申し訳ないですね。

公開打ち切りになる前に見ないと・・・もちろん字幕版を
2. Posted by つぶあんこ   2007年12月19日 17:52
字幕版のフィルムだけ全国を持ち回しで上映されてロングランになったりすればいんですけどねえ。

でも声優騒動で話題にならなければ、もっと世間に認知されないまま終わってた気も。
3. Posted by 力薬   2007年12月19日 21:26
一応DVDで「いつもの吹替メンバー」で収録し直すみたいなのでとりあえずはサウスパーク映画版と同じ道をたどらずに済みそうですね。私もDVD待ちに回ります。

正直言って、最近ではこれに限ったことでないのですが、悪評や騒動での売名行為が横行している(それが話題を集めて質が及ばぬ物で成功しているならなお)というのは何とも悲しい限りです。この作品のように良質であることを掲示して勝負できる題材なら尚更です。
4. Posted by つぶあんこ   2007年12月21日 17:34
客ではなく上役の方を見て仕事をしないと成立しない、日本の社会構造にも問題はあるんですよね。

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