2008年01月15日

ジェシー・ジェームズの暗殺 43点(100点満点中)

相手の力を利用しない技など、クリープを入れないコーヒーと同じだ
公式サイト

南北戦争後のアメリカにて英雄的な存在となった実在のアウトロー、ジェシー・ジェームズを題材とした、ロン・ハンセンによる同名小説の映画化。

日本で言えば石川五右衛門や国定忠治の様に、反体制アウトローを美化して英雄視する現象は決して珍しい事ではなく、それを通り一遍の英雄物語ではなく、人間的な側面を浮き彫りにすべく、ジェシーの暗殺者として名を残したロバート・フォードとの関係および双方の動向、内面を丹念に追って入る事が、原作の特徴といえる。

米国史の流れの中での両者の位置づけあるいは社会、大衆の反応といった面においても克明に記し、ために作り上げられた像と本人の本質とのギャップをシニカルに対比させ、作品に無常感を持たせていた原作だったが、それをそのまま2〜3時間の映画に収めるのは到底不可能だ。

そして今回の映画版では、ダイジェスト的になりながらも、要点となる、特に"末路"に至るくだりの場面描写に重点を置き、そこに向けて盛り上がるために必要な説明や展開を前段として用意しておく、といった手法がとられている。

のだが、単独の物語映画として観た場合に、その意図が充分に伝わるべく作られていたかと言えば少し厳しいのが実情。

確かに映像的な面においては、近年のハリウッド映画として最上質とも言える出来栄えであり、人物の表情を的確以上に捉えるカメラワークと、空気感を表現する照明の設計はほぼ完璧と言っていいレベルだ。

だからこそ、アップの切り返しによる対話が延々と続く様な局面においても、退屈を感じる事なく心理劇の緊張を感じ取る事が出来、ブラッド・ピットによる狂気と孤独が共存するジェシーの演技、ケイシー・アフレックによる見るからに気持ち悪いヘタレ変質者の演技共に、役者が演じているのではなく本当にそんな人物なのかと勘違いしてしまう真に迫る人物像が突きつけられる事となる。

のだが、全体的な物語構成において、各局面における二人の主人公の描写というミクロ視点の緻密さに反し、世界観や歴史の対極的な流れ、あるいは大衆の反応といったマクロ視点でのお膳立てが極めて弱い事で、まず基盤となる"世間での英雄像"が希薄となり、ゆえに実際にはキチガイであるギャップによって生じる違和感が、作り手の狙いとしている方向には働かず、そのため終盤の展開が拙速に、逆にそこまでの展開が冗長と感じられてしまうのだ。

これは、先述した様な会話劇の巧みさ、緻密さが裏目に出て、場面場面の盛り上がりが全体としての有機的なつながりに結びつかず、ダイジェスト感を強めてしまっている事態にも波及している。

もちろんアメリカ人と日本人との原典に対する認識の差異もあるがが、それ以上に、本作内においての各人物のキャラクター設定や行動理念を描写しきれていたとは到底感じられず、それでは映画作品としては不備だ。

原典を知らずになんとなく観に来た観客にとっては、全くもって共感しがたいキチガイの断片的な動向をリアルに見せ付けられてしまうせいで、世界にも人物にも全く魅力を感じることが出来ず、もはや誰が何故どうしているのかを把握する事すら放棄してしまい、グッスリと爆睡するハメに落ちいてしまう事は容易に想像出来、せっかく丁寧に作られた映像も、これでは台無しである。

意図的に説明臭さを廃した演出と、やたらと説明臭いナレーションの、悪い意味でのギャップも気にかかるところだ。観る者の興味よりも作り手の自己満足を優先させた結果、こうしたバランスの悪さが全編を支配し、作品の完成度を大きく落としている。

「英雄を後ろから撃った卑怯者」なる暗殺者像を基点とし、その前段にジェシー自身が相手を背後から射殺する描写を印象的に見せておき、更には事後に、ロバートの"背後から"「卑怯者」の罵声と共にものを投げつける"大衆"を描写する、といった様に、既存イメージを踏まえて独自の像を描こうとする狙いは伝わってくるだけに、それを表現しきれなかった事が勿体ない。

興味があるなら、事前に人間関係や歴史背景などを予習してからの方が、心理劇を楽しむ方向に意識を集中出来るだろうが、残念ながらそこまでして観る程の作品ではない、意欲的な失敗作。自己責任で。


tsubuanco at 19:33│Comments(0)TrackBack(15)clip!映画 

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19世紀アメリカの伝説的強盗をブラッド・ピットがプロデュース、主演。ジェシー・ジェームズもロバート・フォード(ケイシー・アフレック)も実在で、当時のテロリストの半生。「地獄への道」などで映画化されているが、リメイクではない。
2. ジェシー・ジェームズの暗殺  [ 描きたいアレコレ・やや甘口 ]   2008年01月15日 08:49
ブラピの黒髪のように、地味。知らずに観たら...長〜〜い...うぐうぐ。 2時間40分、あったのね〜。 あまり長くて、いささか眠くなったので??.
3. ジェシー・ジェームズの暗殺  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年01月15日 20:27
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4. ジェシー・ジェームズの暗殺  [ 映画鑑賞★日記・・・ ]   2008年01月16日 00:24
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原題の長さに負けず劣らず、作品自体も長〜っ{/atten/} ほんとはこのあとにby the Coward Robert Ford がつきます{/ase/} ここ数年プロデュース業にも意欲的で、今回も製作を務めるブラッド・ピットが、 伝説の無法者ジェシーを怪演してヴェネチア国際映画祭では主演男優...
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14. 映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』を観て  [ KINTYRE’SDIARY ]   2008年03月16日 08:49
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15. 「ジェシー・ジェームズの暗殺」  [ 心の栄養♪映画と英語のジョーク ]   2008年08月11日 09:03
南北戦争後、仲間を率いて強盗や殺人など無法の限りを尽くしたジェシー・ジェームズ(ブラッド・ピット)。 南部州民からは抵抗の象徴として次第に英雄視されていく。そして、最初の強盗から15年あまりが 過ぎた1881年、長い逃亡生活で神経をすり減らすジェシーだったが、兄...

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