2008年01月04日

ユゴ 大統領有故 45点(100点満点中)

歴代大統領が殺されたり逮捕されたりばかりの国
公式サイト

1979年10月26日に起こった、韓国の朴正煕大統領暗殺事件を題材に、関わった人物の実名を変え想像や新解釈によるストーリーで構成された、ノンフィクション風映画。

シネスコサイズで見せられる重厚な映像がまず印象となる本作、事が起こる直前直後などは特に、"現場"となる部屋からカメラを引き、そのまま建物外を移動して窓越しに内部の様子を順に見せていく長回しカットによってまず、邸内の構造および人物配置、それらがこの後の騒動の舞台となっていく事を提示し、各部屋や場所で同時平行する事象への理解を促すべく用意されており、事後においては天井からの俯瞰視点によって同じく各部屋を順に移動し、先の長回しで見せられた浮かれた空気とは正対する、無惨な有様を次々に見せていく事によって、取り返しのつかない事が起こってしまったと殊更に突きつけ、効果を最大としている。

そうした巧みなカメラワークによる視点誘導と印象操作によって、そして何より題材からも、本作がシリアスな政治ドラマであるかの様に勘違いしがちながら、一方で特に事後の顛末における、暗殺犯も含めた役人や軍人の有りようなどから、政治批判的な視点におけるアイロニカルな社会派コメディである事が少しずつ判明していくのだが、その事に気づかず真面目に観てしまうと、斜め上を行くボケの連続に呆れ返ってしまうだろう。

大体にして韓国人のボケは日本人にとって非常にわかりにくく、それは普段の通常行動自体が日本人から見ればボケとしか思えないものが多い事と同様、ものの見方、考え方の根本的な差異なのだから、特に感情的な面においては理解は困難と諦めた方がいいのだろう。

それでも、金日成の事をどうこう言いながら当の大統領が喜び組を侍らせて悦に入っていたり、聞かれるとマズい事は日本語で話したり(併合時代の名残)、日本の歌を禁止している当の権力者達が、日本の歌で盛り上がっていたりと、権力、体制をことごとく貶めてコケにし、とるに足らない愚か者ばかりだと決めつけてのける姿勢はよくわかり、いちいちマヌケな行動に終始して誰も突っ込まない状況の連続は、シュールコメディとしての観点では笑えこそしないが意味は通じる

だが、あらゆる登場人物が極めて考えの浅い俗物ばかりで、大統領の暗殺なる大事でさえもその場の思いつきでいきなり決行し、当然ながら事前の根回しも事後のビジョンも全くなく、あまつさえ味方以外の現場目撃者を消しもせず、自らも逃げもせず堂々と会議に出席し案の定目撃者にチクられて逮捕、とはあまりに頭が悪すぎ、作品そのもののリアリティのバランスを崩してしまっては、現実を皮肉る肝心の意図が台無しになってしまうだろう。

心情や事象においては「そう言う事もありえるだろう」と納得出来るべく描いておかない事には、現実からズレた、あるいはディフォルメした部分の基盤としてのリアルが存在し得ず、全てがウソとしか感じられなくなってしまうのだ。

本作はあまりにも対象者をバカにする事に懸命になってしまったのか、そのウソとリアルのバランスが大きく崩れ、せっかくの出来のいい映像も上滑りに終わっているのだから勿体ない限りだ。

そうした政治的な顛末とは少し離れた、病院内における死体を使った一連のボケや、その周囲でのボケによるギャグは問題なく面白く感じられたのは、そこは先述のバランスとは無縁の位置にあったからだろう。

終盤に唐突に挿入される、教育ビデオの様なナレーションも、狙いとしては無常感や皮肉を意図してのものだろうが、これは説明の押し付けがましさを感じる結果となっており、テロップのみで表示した方が、空虚な現実を表現出来たのではないか、とも思わされる。

ただし、ドラマ本編での大統領の徹底したバカ殿ぶりに対するオチとして、ラストでは現実の報道映像によって大統領の葬列が映し出され、沿道に群がる泣き女達の見苦しい様が殊更にピックアップされるに至って、全ての虚しさ、愚かしさが集約され、観客としてはもうどうでもよくなってしまう、秀逸かつ強烈な締めとして完結しているため、鑑賞後感は決して悪くはなく、主人公格であるKCIA部長の顔が菅直人に似ているなどと思いを巡らしてニヤニヤと楽しむ事も可能だ。

事件の謎を真面目に追う作品ではなく、ブラックでアイロニカルな創作コメディだと認識した上で臨めば、それなりにはボケを探す楽しみは得られるだろうが、やはりバランスの悪いチグハグさは否めないだろう。自己責任で。



tsubuanco at 16:47│Comments(1)TrackBack(3)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 健太郎   2008年02月14日 20:19
4 こんばんは。
はじめまして。ですよね?
今月になってからの公開だったので待ち遠しかったです。
『シュリ』で始めて観たハン・ソッキュの復活作ですし、『シルミド』や『KT』と並ぶ史実ベースの作品なので楽しみにしてました。
KCIAの下っ端や陸軍本部の衛兵のお馬鹿ぶりや、警護室長の馬鹿さ加減がギャグでしたが、トータルで楽しめました。

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