2008年01月05日

once ダブリンの街角で 62点(100点満点中)

『はげ山の一夜』をバックに登場する巨大な手
公式サイト

タイトル通りアイルランドのダブリンを舞台に、音楽によって出会う男女を描くアイルランド映画

ストーリーは極めて平凡な(年齢は高いが)仄かな恋物語と音楽サクセスストーリーに過ぎないが、そのベタをリアルとディフォルメをバランスよく交えて丁寧に、かつ過剰にならない様に描いている事で、誰が観ても好感が持てて優しい気持ちになるべく作られているのは評価出来る。

それを支えているのは、ビデオ撮り丸出しの映像とアナログな演奏と歌という、手作り感溢れるオーディオとビジュアルによるところが大きく、予算的な問題もあっただろうが、それを踏まえた上で敢えてチープやアナクロを隠さずに前面に押し出す選択をしたと思われる。

家庭用DVで撮影した様な粗い画質に、自然光や現場光ばかりの文字通り"飾りのない"照明、および手持ちによるブレやズームのぎこちなさなど、まるで素人のホームビデオのごとき作りに徹する事で、リアル、ライブ感は充分に伝わってくる。

ファーストシーンにおける、とある街角をフラットに捉える画角にて、主人公とコソ泥とのやりとりを客観的に見せられ、観客はどこかの街角で現実に起こった出来事かの様に作品世界へと誘われる、極めて自然な導入からそれは顕著であり、その後もまるで現実のミュージシャンを追うドキュメントと錯覚してしまう様な映像が頻出し、どんどん自身と主人公が重ね合わされていく事となる。

だからこそレコーディングシーンでの歌による衝撃や感動は、より真に迫るものとして観客に伝えられ、劇中でミキサーが感じた戸惑いと感動が観客のそれとシンクロしていき、その効果を最大としている。

そこから歌をバックに見せられる、ダラダラしながらも楽しげなレコーディング光景のリアル感、およびその後のドライブシーンでの、いい歳をした大人達が浮かれて遊ぶ様による開放感、などもドキュメントの様に提示され、興味を引き続けられていく。

音響的にも、序盤から前半にかけての音響設計、演出が、例えばカフェのガラス越しに、中にいる二人の会話を外から映すショットにて、二人の声とバックの現場音のバランスがやたらと不自然であるなど、殊更にチープ感がありありと感じられるものでありながら、先述のレコーディングシーンでは演奏と歌声が自然な迫力で観客を魅了し、低い位置から始まる事で生じる意図的なギャップによって、マンマと音楽に感動させられてしまう。

そうした技術的な仕掛けの中で、さりげなくコミカルなボケがそこかしこに配置され、作品の空気を更に楽しげなものとし、独自性を醸している、そうした演出、作劇も見逃せない。

特にヒロイン関係の描写にそれは顕著で、銀行員とのやりとりにおいては、まずヒロインの天然ボケ的言動にてクスリとさせ、それに対する銀行員の意外な反応をこの場のオチとする、ボケにボケを重ねてストーリーを展開させる狙いが、この場面に象徴されていると言える。

資金の調達も、仲間集めも、そもそも二人の出会いも全て、ヒロインの天然キャラによる人間性から進行しているのだと気づかされるに至り、まさに彼女が主人公にとっての女神、マドンナに他ならず、だからこそ主人公がヒロインにプレゼントするラストの展開が、能動と受動が入れ替わった意外性として活きてくるのだ。ベタな物語ながらキャラクターを特異なものとして立たせる事により、独自性を出して観客の興味を持続させる狙いが果たされている。

それにしてもこのヒロイン、主人公ならずとも一度出会えば忘れようとしても思い出せなくなってしまう、絶妙なビジュアルとキャラクターが描かれ、街中にて掃除機を引きずって歩く様など、不思議キャラ的な可愛らしさが満点であり秀逸。

のだがその一方で、主人公の側はあまりに平凡、無個性に尽き、そのギャップを狙った意図的な配置とは言えやはり物足りなく、平凡なストーリー展開からの脱却に至っていないのが残念。他の仲間達なども同様に、いくら通りすがりで適当に集められたからといって、そのキャラクターまでもが新ワイルド7の補充メンバー並に適当では面白味が無さすぎるだろう。

様々な面での意図的あるいは意図外でのチープさが概ね良い方向に効果を上げ、身の丈にあった小品としては程よくまとまっており、観ている間は楽しめる事受け合いではあるが、やはりもうひと捻り欲しかった感が強い。興味があれば。


tsubuanco at 17:45│Comments(2)TrackBack(7)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. once ダブリンの街角で  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年01月16日 20:38
 『ふたりをつなぐ、愛より強いメロディ 人生でたった一度、心が通じる相手に出会えたら…ストリートから始まるラブストーリー』  コチラの「once ダブリンの街角で」は、音楽を通したたった一度の出逢いを描いた11/3公開となったアイルランド映画なのですが、観て来ち...
2. ONCE ダブリンの街角で  [ 映画鑑賞★日記・・・ ]   2008年01月18日 12:56
【ONCE】2007/11/03年公開(2008/01/17鑑賞)製作国:アイルランド 監督・脚本:ジョン・カーニー出演:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ、ビル・ホドネット、ダヌシュ・クトレストヴァ ギターは身体の一部です。セリフはギターのメロディにのせて語ります。....
3. [映画]once ダブリンの街角で  [ お父さん、すいませんしてるかねえ ]   2008年03月31日 12:45
ハンディーカムの映像を見ると、酔いそうになりません? あらすじを簡単に ストリートミュージシャンとチェコから移住してきた花売りの女性が、ダブリンの街角で出会う。 昼間と打って変わり、ミュージシャンがかき鳴らすオリジナルソングに、女性は好感を抱く。 チェコで彼
4. 「ONCE ダブリンの街角で」  [ 心の栄養♪映画と英語のジョーク ]   2008年06月05日 17:36
ONCE ダブリンの街角で デラックス版ジェネオン エンタテインメントこのアイテムの詳細を見る 男(グレン・ハンサード)はギターで毎日のように街角に立ち、歌を歌うストリート・ミュージシャン。 そんな男の前に現われ、あれやこれやと話しかける花売りの若い女(マルケタ・...
5. ONCE ダブリンの街角で。  [ この世界の憂鬱と気紛れ ]   2008年06月21日 22:41
 監督ジョン・カーニー、出演グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ、『ONCE ダブリンの街角で』、DVDにて鑑賞。  というわけで(どういうわけなのかは昨日の日記を参照のこと)『ONCE ダブリンの街角で』を鑑賞しました。  自分は鑑賞する前はこの映画、[ダブ...
6. mini review 08309「ONCE ダブリンの街角で」★★★★★★★★☆☆  [ サーカスな日々 ]   2008年07月07日 15:45
アメリカでわずか2館の公開から口コミで動員数を増やし、最終的には140館での上映となった話題のラブストーリー。ダブリンの街角で出会ったストリート・ミュージシャンと音楽の才能を持つチェコ移民の女性が、音楽を通して惹(ひ)かれ合っていく様を描く。アイルランドの実...
7. 『onceダブリンの街角で』を観たぞ〜!  [ おきらく楽天 映画生活 ]   2009年03月11日 07:55
『onceダブリンの街角で』を観ましたアメリカでわずか2館の公開から口コミで動員数を増やし、最終的には140館での上映となった話題のラブストーリーです>>『onceダブリンの街角で』関連原題: ONCEジャンル: ロマンス/音楽製作年・製作国: 2006年・アイルラ...

この記事へのコメント

1. Posted by sheep   2008年01月15日 23:47
「シン・リジィ」ネタの数々が好きです。音楽活動(ってか、レコーディング)経験者向けの「あるある」ネタはツボでした。
が、何より音楽の充実度がハンパじゃない点は個人的には特筆物でした。昨年度自分内二位です。
2. Posted by つぶあんこ   2008年01月17日 20:30
ボケとリアルのさりげない小ネタは満載でしたからね。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments