2008年01月09日

エンジェル 80点(100点満点中)

嫌われ天使の一生
公式サイト

エリザベス・テイラーによる同名小説を原作に、フランソワ・オゾン監督にて製作された、20世紀初頭を生きたイギリス人女流作家の一代記。

様々に異なるタイプの女性像を描き続けるオゾン監督、今回は死ぬまで現実から眼を背け続けた成り上がり女性である主人公を入念に造形し、原作に込められたアイロニーやテーマを映像として表現しきっているのが特徴だろうか。

主人公エンジェルが辿る栄光への道を描く前半においては、己の世界に固執する主人公の視点を基調とした、現実を舞台としながら現実から少しずつ乖離していき、彼女の持つ世界像をファンタジックに表現して観客を世界に誘いつつ、一方で彼女不在の場面においては、"現実"としての視点に立って彼女に対する他者の反応を見せて、そのギャップにてニヤリとさせるべく構成されている。

栄耀栄華の頂点に至るまででの、移動や旅行場面におけるバレバレなブルーバック合成の多用にその意図は象徴されており、意図的にチープさを強調してカリカチュアライズされた寓話であると提示する事で、却って観客に作品世界の有りようと作品の方向性を認識させ、観点を操作する狙いがここで果たされている。

これを単に「特撮がショボイ」としか見れないのは誤りであり、それは特撮の粗が見えないレベルのエフェクトが、劇的で印象的なキスシーンなどそこかしこに使われている事からも明白だ。

そのキスシーン、殊更に劇的に盛り上がる音楽や、都合良く降り始める雨、そしてワンカット内でのアングル移動で、感情の高まり、昇天といった内面描写を視覚的に表現する映像など、彼女の内面世界からの視点によって映像が作られている事が顕著となる象徴的な場面であり、その後屋内に戻ってきた際には、華やかな会場内におけるズブ濡れの彼女の浮き具合や、肖像画を見た彼女の反応と周囲の反応のギャップなど、やはりギャップによって主人公の内面と現実を対比、混淆させていく方向性が如実に伝わってきて面白い。

そうして彼女が勝ち続けた頂点までを、彼女の世界を前面に出して描いておいて、一転して現実が彼女を追い詰めて転落させていく後半においては、彼女を取り巻く現実サイドを前に出し、それでも自分の世界から出ようとしない主人公を客観視させ、皮肉な悲哀が強調されていく、これが全体として大きなギャップを持たせる仕掛けとなっている。

その転機を、現実において最大級の非常事態である戦争とし、頂点からの転落の基点として充分かつ誰にでもその意味が理解出来るべく用意され、主人公と世間の乖離を現実視点でどんどん強調すべく描かれていく後半は、前半の展開が夢見心地だっただけに、夢から醒めていく、あるいは自分だけが取り残されていく苛立ちと恐怖がリアルに突きつけられるものとなっている。

そうした対比やギャップ、逆転によるあアイロニーとしてのクライマックスとなるのが、夫の愛人との対決シーンだろう。パラダイス御殿を得た"勝ち組"である筈の主人公が夫の愛を失い、御殿を追われた"負け組"である筈の愛人に夫の心を奪われた現実と、対決時における両者の態度のあからさまな差によって、真の勝敗を観客だけでなく主人公までも痛感してしまい、ここで主人公は遂に現実への敗北を認めざるを得なくなってしまうだけでなく、帰り際には更なる追い討ちをかけられてしまい、とことんまでに彼女を痛めつけながらも、それでも観客は主人公側に感情移入して彼女に同情するべく作劇、演出がなされているのは、愛すべきヒロイン像を的確に描いたオゾン監督の意図したものだろう。

その監督の優しさが象徴されているかの様な、主人公の最期の場面では、彼女は幸せだったのかと問いかけるよりも、彼女の存在によって幸福を得た人物に焦点を振る事で、逆説的に主人公の人生の意味を表現しており、観客はずっと主人公に寄り添っていた人物・ノラの立場としてこの場面を見る事となり、その感情を共有出来る様なされている。

それでもやはり、前半で見せられた主人公作による舞台劇での台詞と全く同じ言葉で最期を迎えさせたり、存命中と死後の評価の差を主人公と夫の双方で逆転させるなど、最後の最後までもアイロニカルな構図を徹底させながらも、世間的には無意味かもしれないがそれが全てではないのだと、主人公を父親の様に見守ってきた編集者によって締めさせる事で、単なる悲劇ではなく終わらせるあたりからも、作り手の主人公と観客に対する優しさは見て取れる。

理想や空想と現実のギャップに苦悩するのは主人公だけではなく、特に夫の描写や顛末においては主人公との対称画の様にそれが用いられ、ために悲劇や皮肉がより強調されているなど、あらゆる観点からのこだわったキャラクター設定と作劇は、一見単純なストーリーながら奥が深い。

単なるオシャレ系ガーリッシュムービーと侮ると、いろんな意味での容赦のなさに面食らってしまう本作、フランソワ・オゾンのファンならずとも、映画好きなら観ておく価値はある。機会があれば。


tsubuanco at 17:57│Comments(0)TrackBack(7)clip!映画 

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