2008年01月16日

ここに幸あり 86点(100点満点中)

「こんにちは、幸うす子です。呼びましたよね」
公式サイト

『月曜日に乾杯!』などで知られるオタール・イオセリアーニ監督の最新作。初老の男を主人公とし、まったりとした幸福感を紡いだコメディ映画。

画面内に表れる情報のいちいちに、ネタとして振りやオチとなる役割が担わされており、常に画面から目が離せず、細かい所に気づけば気づく程に面白くなる、小ネタコメディとしての一面がまずあり、あるいは時にシニカルに斜めから、時に温かく正面から見据えた人生模様をペーソス溢れる詩情にて描く、ハートフルコメディとも両立させているのは、監督の得意とするところであり、今回もそれは存分に発揮されている。

小ネタではあるがその場限りに終わらず、全体の構成にも関わってくる要素が多い事も特徴の一つであり、本作においては例えば、公館を追われる際に持ち帰るものと捨てるもののチョイスによってクスリと笑わせる場面にて、やたらと家畜の絵画にこだわる(でも立体物は捨てる)主人公を印象的に見せておき、続いてアパートの隠し部屋にも家畜の絵が大量にあると背景にさりげなく見せ、そこから発展してバーの"壁画"へとネタを発展させ、最終的にはラストシーンにおける、長テーブルに並んで座る女性達を正面から捉えた『最後の晩餐』のパロディへと収束させると、"絵画"の小ネタを裏ストーリーとも言えるファクターに発展させている。"壁画"が塗りつぶされる事で世界が一変し、今度はリアルとして絵画が再現される、二次元から三次元への発展によって明るい未来を示す狙いも見て取れる。

その家畜の絵にこだわる様に疑問を抱かせておいて、後に主人公の生家の描写にて納得させるなど、フリとオチ、伏線と収束の練り込みは尋常ではない。

後にストーリーに絡んでくる人物を、それより以前にその時点では無関係な存在としてさりげなく通りすがらせておいて、後から主人公と絡む事で、登場時点における存在意義に改めて気づかせる、といった手法も用いられている。

隠し部屋の窓から見える向かいの建物の窓際に佇む女性の姿を、当初は手前側にいる主人公達の動向をメインとした場面にて、画面奥の背景としてさりげなく配置しておいて、かなり時間が経って再び同じ場所に話が帰ってきた時に初めて主人公と女性を絡ませたり、楽譜を買う女性との絡み場面のはるか以前に、その店の前の道路を自転車で横切る同女性を、エキストラ的に先に見せておく、といった具合だ。

これによって、主人公中心に主人公に都合良く進むストーリーながら、その周囲にいる人物達が、主人公のためだけに存在しているフィクションとしての都合のいい存在には終わらず、普段は普通に自分の人生を送っている、生きたキャラクターとして存在しているのだと印象づけ、浮世離れした物語ながら決して現実から乖離しない様、リアルさを観客に自然と感じさせる役割となっている。

冒頭、棺桶屋のシーンでは、客が背を向ける度にメジャーを広げてサイズを測る店主といった小ネタを交え、その"サイズ"をお題としたシュールコメディに発展していく様を、カットを割らずに店主を中心にカメラでフォローし続ける映像によって、同時多発的に各所で各人物が行っている動作にそれぞれ注視させられ、現実に存在する現場であるとのリアル感が強まって笑いへと誘われる、リアルとシュール、そしてブラックを巧みに組み合わせた映像構成、演出の徹底が秀逸。

大臣時代の主人公のエピソードとして、アフリカ某国のVIPと友好を結ぶ場面においては、主人公が贈るのが銃で、対する相手側が贈るのは希少な鳥、それが「友情、友好」の名のもとに行われていると、ヨーロッパとアフリカとの関係を戯画化し皮肉った一コマ漫画の様なネタも用意されており、"人間"の有りようをミクロとマクロ様々な視点からシニカルに見据えて笑わせる、引き出しの多さが頼もしく、気づけば気づく程に笑える様に作られているのだ。

先述した様な1シチュエーション1カットに近い長めのショットが多用されている事で、臨場感あるいは舞台劇を眺めている様な感覚が同時に味わえ、それによって場の空気がより観客に伝わりやすくなり、状況、背景、行動、らが渾然一体となって的確な間とタイミングで笑いを生み出す、全てが計算され尽くした作劇は素晴らしいの一言。

ツッコミの一切ない、観客自身がボケを拾って笑いどころを探さなければいけない、欧米タイプのコメディだけに、ツッコミはおろか笑いどころをテロップで表示してもらわないと自発的に笑う事すら出来ないタイプの人種にとっては、何が面白いのやら全く意味不明のお話となってしまうだろうが、笑いに真摯な大人であれば、問題なく作り手との真剣勝負に応じられ、最初から最期まで存分に楽しめる筈だ。

映画好きなら必見の傑作。機会があれば是非。


tsubuanco at 16:25│Comments(3)TrackBack(1)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 幸うす江   2008年01月23日 18:24
5 最初から最後までクライマックスでした。
2. Posted by つぶあんこ   2008年01月24日 17:19
女性を釣りまくりだったりホロリと泣かされたり答えを聞いてなかったりと、満を持してのゴチャ混ぜでした。
3. Posted by 天の道を往き総てを司る男   2008年01月25日 12:00
ほとんどの映画・ドラマを見ている上に
ハロモニまで見ているのは凄いですね

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