2008年01月24日

再会の街で 80点(100点満点中)

アーアー聞こえなーい
公式サイト

アダム・サンドラーとドン・チードル主演にて、ニューヨークに生活する病める人々を描いた、『ママが泣いた日』で知られるマイク・バインダー監督の最新作。

その『ママが泣いた日』が、普通にハートフルな感動ものと思わせておいて実際にはコメディを基調としてクライマックスで感動させる作品であり、アダム・サンドラーがこれまで出演してきた諸作品もまた、彼のキャラクターで散々笑わせておいて感動になだれ込ませるタイプであるのと同様、本作もまた、一見シリアスな悲劇を扱ったヒューマンドラマと思わせておいて、その実シュールなサイココメディとして描かれている、意外性がまず面白い。

サンドラー演じるチャーリーが頭のおかしい男である事から生まれる、あたかも四万十川料理教室のキャシィ塚本先生のごとく、いきなりキレ出したと思ったらすぐ元に戻るなど様々な奇行は、彼の壊れた心を表現するだけでなく、チードル演じるアランとの噛み合っているのかいないのかよくわからない掛け合いの妙から生じるシュールな笑いを、更に過激な方向に押し進めたものだ。

そんなキチガイであるチャーリーに寄り添い、同様に頭のおかしいフェラ女ドナ(サフロン・バロウズ)への対応に戸惑っているアランもまた、カウンセラーをストーキングするなどの"奇行"を最初から見せているなど、決して"普通"ではない事が明らかであり、そんな彼らが関わり合って生じる"ズレ"が"考えさせるボケ"となって単純ではない笑いを作り出し、ドラマが展開されていく。

お前も奴らの仲間かと問いつめるチャーリーに対し、「そうそう、俺は実はCIAのエージェントで…っておい!」といったノリツッコミまで駆使したり、どこにでもタイミングよく顔を出す神出鬼没なドナの存在が、途中からは完全に出オチとして成立していたりと、普段のサンドラー作品ほどにベタでわかりやすい笑いではないながら、キャラクターの異常性をボケの積み重ねで説明していく、キャラクターコメディとしての語り口は秀逸。

そうして、チャーリーが背負っている傷の正体を少しずつどことなく匂わせ続け、それが明らかになる時が来る事に興味を引かせておいて、いざ彼の口から真相が語られた時には、殊更に回想あるいは本物の現場映像などにて悲劇を盛り上げる様な真似をせず、あくまでもその現場の会話描写としてのみ映像をとどめ、二人(プラス一人)の表情にて思いを伝える演出、作劇が見事。(予算の都合もあろうが)

のだが、本国ではどうかは知らないが日本での宣伝などではその真相の正体を観る前から明かしてしまっている。スクーターでNYを走るチャーリーを、背後からローアングルでフォローし続けるファーストシーンの映像の意味が、後半の告白によって明らかとなるなどの構成意図が台無しになっており、何とも無粋なネタバレにはガッカリだ。(某映画批評サイトなど、ネタバレなしを謳っている筈ながら思いっきりバラしてしかもそれメインで文章を書き殴っており、どうやら作品の意味を理解出来ていなかったのだろうと推察され苦笑ものだ)

ヘッドフォンにて視覚的に心を閉ざしていると象徴させるなどわかりやすい描写から、彼がプレイし続けるゲーム『ワンダと巨像』の内容が彼の心の傷とシンクロしているなど、様々な部分でチャーリーの心象を有象無象に表現するキャラクター造形の的確さと、台所をリフォームし続ける奇行の意味が後に明らかになるなど、興味を引いておいて真相で泣かせる狙いの上手さがドラマを支えている。

アランの側においても、カウンセリングではなく雑談と言いきって、自分が病んでいないと思いたがる描写、妻とのやりとりにて彼もまた心を閉ざしていると表現、あるいは『キャプテンアメリカ』の黒人パートナー・ファルコンが登場する回のコミックを、アメリカの正義の象徴やそれに従する黒人といったメタファーとしてテーマをさりげなく見せるなど、チャーリー同様にキャラクター説明とドラマ展開を絡み合わせた造形が見て取れる。

そうして双方共に心を閉ざし逃避している者同士が相対する事で、マイナス×マイナスがプラスになるかのごとく、互いに癒しを見つけ合って救いを見出していく、変化球のバディ・ムービーとしてもよく出来ており、むしろそれこそが本作の主眼なのではと思わされる程だ。

一方で、現代のアメリカ、特にNY住民の中に確かに存在する苦悩や傷痕を題材として扱い、そこから作品世界への導入や共感を生むべく設定されている意図は理解出来るものの、メイン人物の誰もが金銭的には特に不自由していないあたりに、感動の方向を誘導する作為が感じられてしまうのが残念だ。

実際には同様の傷に苦しむだけでなく日々の生活にも事欠いている、更に救いのない人もいるであろう事を考えれば、もちろん悩み苦しみというものは当人の心の問題でありあくまでも相対的なものなのだから、そんな比較論は無意味だとはわかっていつつも、描かれている彼らはまだマシではなどと、作品を楽しむ上での障壁となってしまいがちではある。これが惜しい。

などと気にかかる部分もあるものの、リアルに切実な問題をコメディとして扱い、現実における題材の過剰にデリケートな扱われ方を揶揄する様な描写も挿むなど、いかにもアメリカらしい方向性をとりつつも、最終的には現実的な一結論に収束させ、尚フィクションあるいはコメディとしての着地点ともするバランスのいい構成によって、鑑賞後感は決して悪くはならない良作である事は間違いない。

サンドラーファンならずとも、映画好きなら観ておいて損はない。


tsubuanco at 17:23│Comments(0)TrackBack(9)clip!映画 

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