2008年02月04日

ラスト、コーション 55点(100点満点中)

SMぽいの好き
公式サイト

日中戦争期の上海を舞台に一人の女性の運命が描かれる、チャン・アイリンの自伝的小説『色|戒』を原作に、『ブロークバック・マウンテン』のアン・リー監督により映画化。

エモーションに重点を置いた丹念な人間描写と、即物的な視覚娯楽性が共存しているのが、アン・リー作品の特色の一つだが、『ブロークバック〜』や本作など、リアルな舞台設定にて少し特殊な人間関係を用意し、その上で普遍的な人情や愛情を描くタイプの作品においては、一方でインパクトや客寄せ効果をも狙っている即物性表現が、悪い意味で漫画的なものとして突きつけられてしまい、違和感の元になっているのが問題だ。

同監督の『ハルク』や『グリーン・デスティニー』であれば、わかりやすくディフォルメされた漫画的な即物表現はむしろ効果的であり実際に見どころとして成立していたが、リアルなヒューマンドラマにおいてのそれは、その後の心情変化や表現を素直に受け入れられなくなる要因となっており、ましてや本作の様に全てをひっくり返す衝撃のカタストロフならば尚更、それが必然の帰結であると観客に認識させない事にはドッチラケな鑑賞後感としかならず、それが本作最大のマイナス点だろうか。

何度か用意されているセックスシーンにて、前戯なしにいきなり挿入してそれが行為として成立してしまうのが具体的なツッコミどころの一つだが、『ブロークバック〜』にても何の準備もなくいきなりケツに挿入して何ともないなど、監督のセックス観がそのまま現われているのだろうと思わされて更に作品に入り込めなくなってしまう事となる。

演じ手の表情を入念に捉え続け、微妙な変化を見せるタイミングや組合せによって、言葉にせずともエモーションを伝えるリアルな人間演出も、その前提となる行為にリアリティがない事には、せっかくの表現も活かしきれない結果となるのだ。

何せヒロインが憎むべき敵のチンポに調教されて仲間を裏切り全員処刑され、結局プラトニックな純愛よりも肉欲が勝ってしまうという、まるで向正義のエロ漫画そのままの救いが無さすぎる展開である。エロ漫画ならむしろ救いがない方が背徳的で興奮するため有為だが、残念ながら本作はエロ漫画でもエロ映画でもないのだから、感情の誘導に失敗していると受け止めざるを得ない。

そうした意味では似た展開を見せる『ブラックブック』の、娯楽性に特化しつつ根源的な人間表現をも踏まえていた完成度の高さには、やはり到達出来ていないと評せざるを得ない。

ただし、作中における"現在(1942年)"から物語を開始し、いきなり途中から始まったかの様な印象を観客に与えて、細かいカット割りと早口の会話で見せられる麻雀場面のスピードについていくのが精一杯の状況に観客を陥らせて自然に作品世界へと導入し、そして何やら状況が動き始めてこれから本筋が始まるのかと思った途端に話が過去に遡り、"現在"に至るまでの顛末が開始される、とする事でまず、思わせぶりに中断されたままの"現在"に一体いつ回帰するのかと長いドラマに興味を持続させ、回帰の瞬間に至ると「ああ、ここで繋がるのか」と安堵させて観客の緊張感に緩急を与えて飽きさせず、続く展開へと期待させる、時系列を操作する全体の展開構成は極めて秀逸で、これがあるからこそ長尺のドラマに退屈しないのだ。

『ブロークバック〜』でアン・ハサウェイの巨乳を披露させて濡れ場を演じさせたのに続き、今回は西村理香似のヒロイン(タン・ウェイ)の裸体や濡れ場の披露に長く尺を割き、先述の即物的な視覚娯楽性たる見せ場としている。

このタン・ウェイ、西村理香似と評した通りの童顔ながら、脱ぐと脇毛フサフサで色素の濃い長乳首が自己主張する、"脱ぐと凄い"を地で行くエロティズムだけでなく、サザエさんの様な髪型でセレブ奥様に偽装している時のミステリアスな色気と、素顔の学生時のナチュラルな可愛さの、裏と表の二面性をわかりやすく表現して、心が裏返ってしまうストーリー展開の前提ともしているなど、無名新人とは思えない存在感と表現力には目を奪われる。(関係ないが学生リーダーは津田寛治に似ている)

直接的なセックスシーンの話題性が先行しており、それは決して間違いではないものの、むしろそこに至るまで、あるいはその後のドラマ展開にて描かれる、人間の愚かしさこそが本作の主目であろうから、中途半端にAV紛い(しかも大した実用性はない)が浮いてしまっている感が強い本作、エロではない題材に興味があるなら観て損はしないだろうが、全体的な完成度には残念ながら疑問が残るものだ。

ただしトニー・レオンが車にダイブインする衝撃のカットは必見。



tsubuanco at 17:15│Comments(6)TrackBack(24)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 力薬   2008年02月14日 19:07
期待を持たずなんとなく見てしまいました。
ヒロインが映画を見るシーンが何度もありますが、あれはヒロインの心情表現と受け止めて宜しいでしょうか…

ラストのトニーが車へダイブするシーンは個人的にツボにきてしまい、ごみごみした劇場ながら唇が震えて仕方ありませんでした。笑っていいですか…
2. Posted by 松井の天井直撃ホームラン   2008年02月15日 23:51
『レジェント・オブ・ゾロ』共々『汚名』を宜しく。
3. Posted by つぶあんこ   2008年02月16日 11:41
国策報道フィルムにブーイングのシーンなんかも印象的ですし、世相の表現を兼ねつつ、スクリーンを見る登場人物の視点によって、観客と劇中との距離感を操作する意図もあったかと。

まあ、女スパイが情にほだされて的な話はいっぱいありますからね。
4. Posted by パルチ   2008年02月28日 19:55
「銀竜の黎明」の4巻はいつでるのですか
5. Posted by つぶあんこ   2008年03月03日 13:04
山文京伝の新刊も出た事ですし、年内には出るんじゃないですか。
6. Posted by kimion20002000   2009年03月26日 14:07
ああいう色香漂うマダムたちと麻雀したら、メロメロにやられちゃうだろうなぁ、と思いました(笑)

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