2008年02月05日

歓喜の歌 36点(100点満点中)

安田成美が歌わない理由
公式サイト

立川志の輔の創作落語を原作に、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』の松岡錠司監督にて映画化。

落語は当然ながら一人で座って喋るものだけに、時間も登場人物も限定され、それをマイナスではなくプラスに利用して面白さへと転化するのが、優れた噺家たる条件だろう。それを映画化するにおいて、題材が合唱団な事も併せて群像劇としてのボリュームアップを図るのもまた当然ではあるが、その移行が成功していたかと言えば厳しい。

本作と同じくシネカノン製作の『フラガール』の大ヒットにより、構造的に似ている本作にても同様の感動や泣かせを強調したい狙いは理解出来、そもそも同社作品は押し並べてベタな泣かせを押しつける類いの作品ばかりなのだから、必然と言えば必然なのだろう。

とはいえ、本作の原作はあくまでも落語であって、『一杯のかけそば』のごときお涙頂戴の講演会ではない。本作に観客が求めているのは、発表会が成功するに至るまでにおける、落語的な洒落の利いた笑いの数々と、それと有機的に作用する優しい人情劇、およびそれらの集大成としての合唱シーンの達成感などであり、それらを的確に配置、構成していけば、ベタなお話だからこその安心感で観客を存分に楽しませる事は可能な、鉄板的な題材だった筈だ。

が、本作の作り手、特に脚色、演出、編集において、そうした理解が本当にあったのか、かなり疑わしい。

元が落語なだけに、各人物の掛け合いで見せられる落語的ギャグは確かに面白く、クスリと笑わせてくれる。だが、そうした笑いがその場その場の単発的なものに留まり、更にはそれが持続、連続せずにブツ切りに散在しているために、テンションが盛り上がらないまま停滞、冗長と感じさせがちな結果となっている。

これは、ストーリー展開部分や泣かせ部分と笑い部分がほとんど乖離し、相互に絡み合っていない事も理由の一つであり、また、ゆったりしたロシア民謡調のBGMが逆にテンポの悪さを助長しているなども同様。一つ一つのネタが面白いだけに、見せ方の下手さが大いに勿体ない。

基本的にはダメ公務員(小林薫)を主人公としているが、彼の家族や同僚、あるいは合唱団員それぞれの家族にまで役割を振り、群像劇が最終的にコーラスに収束する狙いで作られてはいるものの、結果としてはどの人物の描写も中途半端なブツ切りの羅列に終わり、クライマックスにて収束どころか合唱と公務員のドラマが二つに別れてしまうに至っては、やはり観客が見たがっているものを取り違えていると受け止めざるを得ない。

中途半端さが顕著になっているのが、スーパーで働くガールズ団員の描写だろうか。スーパーのオーナーであるレディース側のリーダー(由紀さおり)との確執といったドラマ面での人物構図も、一番の歌唱力でソロパートを任されている合唱サイドでの役割も、途中でフェードアウトして最終的な合唱シーンには活かされないのでは、作品の印象を散漫にしているだけだ。

そうしたネタの食い散らかしがあまりにも多い、本作の構成はとても褒められたものではない。

確かにダメ役人が再起するコメディドラマも面白くはあるが、何より観客が求めているのは、発表会が如何に成功して合唱を披露し感動させてくれるかに尽きる筈で、そもそもこの種のドラマでは、多少ストーリーに無理があっても最後の披露シーンさえしっかり見せてくれれば、細かい事は抜きにして力づくで感動、感激させられて、高いテンションのままで鑑賞を終える事が出来るのが普通であり、だからこそ同種の作品が多く作られる現状ともなっているのだが、本作ではその最後の合唱シーンすら、先述の通り役人側のドラマと交互に展開させて、観客が聞きたがっている歌を途中で無粋にもブツ切りにしてしまっており、これではテンションが高まるどころかイライラするだけだ。(アニメ版キン肉マンにて、バトルが盛り上がっている途中でいきなりキン骨マン側のギャグパートに話が振られてイライラさせられるのと同じだ)

ギャグよりも泣かせを優先し始める中盤以降の展開も、特に前後の脈絡無く唐突に挿入される、幼子に先立たれた母親の話などはあまりにあからさまな泣かせの強要であり、その話が続く間は一切笑いの要素がなく、ここでも観客が求めているものとは完全に乖離し、冗長感を強めているだけだ。ストーリー的には、レディース側が単なるセレブ気取りのお高くとまった集団ではなく、人情もあるのだと説明するための描写だとはわかるものの、その脈絡のなさ故に説明臭さと泣かせの押しつけしか感じられない結果となっている。

ニート(波岡一喜と)母親(根岸季衣)のドラマも上っ面をなぞっただけ、文句ばかり言う役人(田中哲司)の存在も特段の意味合いもなく、出オチでしかないタクシー場面に無駄に時間を割いてまた印象を散漫にするなど、あれもこれもと盛り込みすぎて全てがバラバラのブツ切りで肝心の観客が望んでいるものが中途半端では、あまりに本末転倒にすぎる。

終盤でも、カーテンコールを匂わせ、二つに別れていたドラマが最後の最後でやっと一つになり、本当の大団円を見せてくれるのかと期待させただけでそのまま終わるなど、これは余韻や想像の余地を狙っているのだろうが、そこまでで期待外れに終始してきた観客に対しては、最後くらいベタに達成感を突きつけるべきだろう。本当に最後まで、何を見せるべきなのかを全く理解していなかったとしか思えない。

結局、落語的な言葉遊びや小ネタの面白さこそあれど、それ以外のドラマ展開も肝心の合唱も、全てが中途半端なブツ切りの羅列に終始した、残念な失敗作であり、これまたコンテンツの無駄遣いでしかない。興味があるなら元となっている落語を鑑賞する方がいいだろう(CDやDVDでもリリースされている模様)。自己責任で。


余談;
演目に『赤とんぼ』や『トルコ行進曲』があるのは由紀さおり繋がりの小ネタだったり、タクシー運転手宅に映画『タクシードライバー』のポスターが貼られていたりと、本筋と関係ない小ネタは充実している。だが本筋がダメでは死にネタだ。

中年以上のオッサンオバサンばかりが画面一杯に登場して胸焼けする作品において、於保佐代子演じるダメ役人の娘と、朝倉あき演じるラーメン屋の娘が、清涼剤としての役割を存分に果たしていた事が救いか。安田成美の年齢不詳な美しさも同じく。



tsubuanco at 11:57│Comments(2)TrackBack(9)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by めた   2008年02月11日 10:00
冒頭、ラーメンを食べながら「今年もあと10日だなぁ」という台詞がありました。
タンメンを食べた日とラーメンを食べた日は違います。
このレビューを読んでから観たので気づけました。
2. Posted by つぶあんこ   2008年02月11日 10:33
ご指摘ありがとうございます。修正しました。
当ブログがお役に立って何よりです(笑

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