2008年02月06日

結婚しようよ 79点(100点満点中)

うちの父ちゃんはサラリーマン 満員電車が我が人生
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言わずと知れた吉田拓郎の名曲『結婚しようよ』を筆頭に全編を拓郎ソングで溢れさせ、現代日本を舞台としながら昭和ノスタルジーに満ちた作品とした、佐々部清監督作品。

"結婚"を主軸とし、主人公(三宅裕司)の団塊世代、その娘達の"現代の若者"世代、松方弘樹と入江若葉演じる老夫婦のリタイア世代と、三世代を絡ませて描き、各所に配される拓郎ソングが叙情を膨らませノスタルジーを抱かせる構成により、何一つ特別なことが起こらないベタなストーリーながら娯楽性は高い

最大の娯楽性は当然ながら次々に繰り出される拓郎ソングだが、当時のオリジナルをただ垂れ流すのではなく、登場人物が演奏、歌唱する現実音楽として劇中に盛り込む事で、曲だけが浮いている違和感も無く、単純なストーリーだからこそ名曲に耳を傾けて楽しむべく設定されている狙いが良く果たされている。

主人公が帰宅時に毎日通りがかるストリートバンド(ガガガSP)が演奏する『落陽』をまずじっくり聞かせ、現代の若者が拓郎ソングをリスペクトし演奏している、劇中世界での音楽の有りようを最初に見せると共に、その曲に聞き惚れて歌い始めてしまう主人公の描写によって、観客はその様を見ている蕎麦屋青年(金井勇太)の視点として主人公を見る事となり、作品世界への導入とされているなど、最初から拓郎ソングを用いた演出と作劇が有為に活きている。

主人公の次女・歌織役に中ノ森BANDのボーカルAYAKOを配して、劇中でもバンド活動をさせる事で更に音楽をストーリー展開の必然とし、世代を超えて支持される音楽としての拓郎ソングをまた聴かせる、と、何から何まで拓郎ソングを聴かせるために仕掛けられている周到さからは、作り手の強いリスペクトが感じられる。

同様に、いわゆるフォークソングばかりではなくキャンディーズの『優しい悪魔』や森進一の『襟裳岬』など、吉田拓郎プレゼンツの歌謡曲や演歌なども披露する事で、特定層のみならず広いジャンルにて名曲を送り出している吉田拓郎を更にリスペクトしつつ、世代間の差異と変わってはいけないものをテーマとするストーリーにもリンクさせている。

現実における中ノ森BANDの名前の由来と被せるかの様な、劇中での歌織のバンド名を適当に決めるシーンを用意するなど、パロディ的な小ネタが様々に配置されているなど、ラジオ放送作家の寺崎要が脚本に参加した意義が活かされた、単純なストーリーながらディテールのくすぐりが楽しく、決して70年代フォークソング世代だけに向けた作品でない心配りもある。

"結婚"に結びつく、長女・詩織(藤澤恵麻)と蕎麦屋青年の恋愛ストーリーが、大した前提も無く拙速に相思相愛になってしまうなど、明らかな描写不足、御都合主義が目立つ部分が多い事も確かだが、あくまでも拓郎ソングを聴かせるためのシチュエーションを用意する事が大命題であって、ストーリーはそれに付随するものに過ぎず、だからこそ予想外の事が起こらない、単純で普遍的、記号的なストーリーとされているのだから、本作においてそれは特段のマイナス点には当たらず、むしろダラダラとドラマを続けられて肝心の音楽が減らされるよりは正しい選択と言える。あくまでも主題は拓郎ソングなのだ。藤澤恵麻が可愛すぎて許される、という面もあるが(笑)

演奏、歌唱シーンは総じて見どころ、感動どころとして存在し、オーディション場面にて歌織のバンド演奏中にモト冬樹が参入してセッションを始め(岩城滉一も参加しているが演奏出来ないのでほとんど映らないのが笑える)、ミュージシャンをミュージシャン役として起用している意味が活かされている仕掛けにより、現実としても珍しい共演を聴かされるなど、ストーリー的シチュエーションと音楽としての娯楽性は常にシンクロされている。

ファーストシーンにて夕日に照らされる東京の街並映像で、カリートの巨大広告が目立って目につき、「何年前に撮影したんだ? それまでお蔵入りしてたのか?」などと思わせつつ、最後の最後で年代設定の意味が判明し感激させられる、ラストシーンのコンサート場面はその究極だろう。最初と最後が同じ曲なのも同様の構成意図によるものだ。

ストーリーにおいてもベタながら、父の仕事、長女の恋愛、老夫婦の余生と、各世代の"結婚"と、それまで用意されてきたキャラクター設定やストーリーの流れが場所も人物も全てが一箇所に収束し、大団円へとなだれ込む物語構成は、極めて座りのいいもので、それで終わらせずに少しだけサプライズを用意するサービス精神も小憎い。

吉田拓郎ソングをリスペクトするために作られた、音楽が主でそれ以外は従である前提さえ踏まえておけば、古臭いながらも普遍的でベタなストーリーとシンクロする音楽を存分に楽しめ、夢の様に理想的な家族愛ドラマが却って気持ちよくなる事請け合いの本作、メインターゲットとなる団塊前後の世代でなくとも、半田健人の様に70年代の邦楽が好きなら間違いなく必見。興味があるなら観て損はない筈だ。

余談:
主人行の妻(真野響子)の、70年代当時の若い頃の姿が、まるで南沙織のごとく70年代を体現するノスタルジックな美女で、よくこんなビジュアルの女優を見つけてきたもんだと目を奪われ感心させられたが、クレジットでは名前が確認出来ず悔しい限り。


tsubuanco at 17:18│Comments(2)TrackBack(10)clip!映画 

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1. 結婚しようよ  [ 八ちゃんの日常空間 ]   2008年02月07日 20:14
史上初のR-45指定…嘘です。R-45推奨(笑)まぁ、タイトルからしてズバリそのままでしょう。団塊の世代、いや拓郎世代の人のための映画のようなものですから…。とは言っても昭和のあの頃のノスタルジーでも青春の回想でもなく、現代の話です。つまりは年頃の娘を持つお父さ....
2. 映画「結婚しようよ」  [ 茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり?? ]   2008年02月09日 13:51
『洛陽』に始まり『今日までそして明日から』で終わる、全編に吉田拓郎やキャンディーズの1970年代の名曲を散りばめ・・人間賛歌の人情話に泣かされる・・ ♪しぼったばかりのー夕陽の赤がぁ水平線からぁもれているー苫小牧発、仙台行きフェリー、あのじいさんとき...
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この記事へのコメント

1. Posted by 泉谷しげる?   2008年02月06日 18:33
いつも拝見しております
私は50のジジイでして
たいそう面白く見ることが出来ました

エンドロールの撮影助手のところに
「泉谷しげる」となっておったのですが
あの「泉谷しげる」なのでしょうか?
3. Posted by つぶあんこ   2008年02月07日 10:10
撮影助手じゃなくて照明助手と思いますが、同名ミュージシャンとは別人の照明マンです。邦画のクレジットには頻出されてますよ。

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