2008年02月13日

君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956 95点(100点満点中)

アニメではラインX1
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1956年に起こったハンガリー動乱およびメルボルンオリンピック水球競技におけるソ連vsハンガリー戦での流血事件の、二つの史実をベースに、若きハンガリー人男女を主軸としたエモーショナルなドラマを描く、ハンガリー映画。

実際に起こった史実を用いながら、それを戯画化、象徴化の手段としてディフォルメ、縮図化し、ミクロ視点とマクロの視点を近似させて対比する、フィクションを史実と絡めたドラマ構成が秀逸。

冒頭のソ連国内での水球試合シーンにおいて、傍若無人なソ連チームとそれを応援するソ連人観客や、それを心では憎々しく思っていても反抗出来ず、笑顔で握手する事を求められるなど、ソ連とハンガリーの国家間における、支配、抑圧、差別の図式を投影させる手法により、本作が史実ベースながらもわかりやすく縮図化された寓話スタイルをとっている、作品の方向性をも的確に観客に伝えつつ、スポーツ試合の描写という、日常テレビでも目にするものに類した光景を用いる事で、映画の観客の視点をその試合を観ている観戦客のそれに滑り込ませ、作品世界への移行を自然としているなど、あらゆる面で導入部として完璧と評せられるものだ。

最初に挙げた二つの歴史的事件を背景とし、そのハンガリー代表水球選手の一人である青年男性と、ソ連からの解放に人生をかける運動家女性との、二人の出会いと別れを物語の主軸とする事で、その二事件それぞれの描写の中心に二人を配置し、双方を平行描写および二人が交わる事で双方が絡み、水球パートを国際的観点のメタファーとして、国民の代表として世界が見守る場で試合を戦う男を描き、対して革命パートを国内における一観点とし、国民の一人として自主独立を求め戦う女を描き、ともに象徴化させる事で、比較、対比、相似、逆転をわかりやすく描写する、戦争などの大局を題材とするヒューマンドラマとして最適の手法をとり、それが有為に活用されているのが素晴らしい。

離れていながらも精神的つながりを堅持する主人公カップルとの対比として、革命リーダーカップルの顛末をそれに反するもうひとつの悲劇として描き、主人公達の絆を強調したり、主人公カップル単独でも、男は国際的舞台で勝利を掴むも、女は国内の"裏切者"の手で敗北するといった逆転構造を見せ、ソ連のハンガリー侵攻が国際世論から非難を受けるも、現実としては誰一人助けにこずに鎮圧されてしまう、世界視点の皮肉な動向とシンクロさせ、ことごとく皮肉と悲劇を突きつけるなど、周到されつくした構成、作劇の完成度は高い。

ソ連が一面的に悪の権化として描かれすぎだとの声もあるだろうが、実際にソ連が東欧諸国を支配、抑圧していた悪の帝国であった事は既に歴史が証明しており、かつてソ連を支持し心酔していたリベラル(笑)層までもが手のひら返した様にそれを認めているのだから、その事実を認めないのは事実の見えないメクラか、自分が信じていたものが間違っていた事を認めたくない、自分大好きオナニーマンくらいのもので、とても程度がよろしいとは思えない。

また作中で怒りの対象として描かれているのは、ソ連あるいはロシアそのものというより、独裁や恐怖政治、監視社会によって人間の自由や誇りが奪われている事に対してであって、それが間違い、恣意的なプロパガンダと言うのなら、そんな人間に「自由」という言葉を標榜する資格はない。

そしてこの映画を国策映画だのプロパガンダだの右傾化だの軍靴の響きだのと騒ぎ立てる輩に限って、戦前戦中の日本を悪と断定する恣意的な作品を素晴らしいと讃えるのだから失笑する他ない。

本作ではソ連軍やAVO(ハンガリー国家保安部)を憎むべき自由の敵として描きつつも、自由と民主主義を掲げる大国・アメリカが、同情を寄せるフリをしつつソ連非難の材料に利用するために見捨てた事実も描き、その国際的観点との相似として、国内の革命描写でもリーダーが同志を見捨てて一人で逃げる場面を用意するなど、人間の自己中心な身勝手さをも冷酷に突きつけ、決して一面的な善悪二元論に陥らないべく構成、設定されている事を見逃しては、作品を観た意味すらないと断じて過言ではない。この映画を右だ左だのという単純な観点で観る事がそもそも、底の浅い誤ったものの見方と気づくべきだ。

特定の史実を用いながらも、男女のドラマとして象徴化を図る事により、自由を求めて戦う事の尊さ(これはむしろ左巻きの連中が普段口にしている事なのも皮肉だ)を普遍的な価値観として共有させ、歴史を知らない人間でも理解、感動出来る様に作られている、娯楽作品としての狙いが充分に果たされている事が何よりも大きい。

支配や抑圧、暴力の理不尽さを強調すべく、手足が吹き飛び血が飛び散り、民家が砲撃で爆発四散瓦解する凄惨な描写を、実物と実景、特撮を交えた真に迫る映像で突きつけるなども、ショッキングな視覚的娯楽性とエモーションの誘導を両立させたもので、遠景の俯瞰映像における爆発CGに違和感がある以外は、極めて出来が良い。

革命の高揚と滅びの美学という、闘争ものの王道を忠実且つ丁寧に踏襲しつつ、人間のリアル、世界の有りようのリアルをも戯画化して盛り込んだ、上質のヒューマンドラマと評価出来る。

映画好きなら間違いなく楽しめる一作。機会があれば是非。


tsubuanco at 10:46│Comments(3)TrackBack(4)clip!映画 

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ソ連の弾圧支配から自由を求める民衆が、武装蜂起した1956年のハンガリー革命を背景に、過酷な運命に翻ろうされるカップルの愛を描く歴史感動大作。祖国のために立ち上がる恋人たちを、ハリウッドでも活躍するハンガリーの若手スター、イヴァン・フェニェーとカタ・ドボーが...

この記事へのコメント

1. Posted by やま   2008年02月17日 14:30
半年ほど前に、時間つぶしに観た作品でしたが、文句なしにアタリと思えましたね。
人の評価が高かろうが低かろうがおもしろさには関係ないはずですが、あんこさんの点数が高いとうれしかったりします。
2. Posted by つぶあんこ   2008年02月18日 19:30
ヒロインの顔のデキモノが気になるのが文句といえば文句ですかね。
3. Posted by kimion20002000   2008年12月24日 19:46
これは僕も好きな映画でしたし、完成度が高いと思います。

>かつてソ連を支持し心酔していたリベラル(笑)層までもが手のひら返した様にそれを認めているのだから、その事実を認めないのは事実の見えないメクラか、自分が信じていたものが間違っていた事を認めたくない、自分大好きオナニーマンくらいのもので、

そのとおりだと思います。
座布団3枚!

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