2008年02月14日

東京少年 74点(100点満点中)

岩井俊二監督に非ず
公式サイト

数多くのアイドル作品を手がけ続けるBS-iのドラマプロデューサー・丹羽多聞アンドリウ主導による、『0093 女王陛下の草刈正雄』に次いでのCINEMA Drive企画作品であり、同プロデューサーによるオムニバスドラマ企画『東京少女』シリーズの劇場版として製作された二本の映画作品の、これが一作目にあたる。

監督はTBSのドラマディレクターとして『ケータイ刑事』など丹羽作品も手がけてきた平野俊一で、本作がオムニバスではない単独劇場映画として初監督作品となる。脚本は同じく丹羽作品に多く関わり、映画では昨年大ヒットした青春映画『恋空』も手がけた渡邉睦月

TV局主導による映画とは言え、それこそ『恋空』の様に大規模公開される企画ではなく、あくまでもドラマの延長線上に位置するのが丹羽作品の常であり、今回は特に規模の小ささが顕著となっているものの、それを欠点ではなく作品の方向性として前向きに用いるべく企画が練られている事は評価出来る。

主演の一人二役を単なるインパクトや小手先のネタ要素だけでなく、ストーリーとテーマの根幹に置く事で、ほんの数人しか人物が登場しないこじんまりとしたお話ながら、ドラマティックさとエモーションを殊更に増幅させる様に活用され、作品そのものを支配するギミック足り得ている、一発ネタ的でありがちなアイディアを丁寧に追求した意図は、ある程度果たされていると言える。

とは言え、主人公みなと(堀北真希)の文通相手の名前がナイト、すなわち姫を守る騎士あるいは夜=影を意味している事と、みなとが出す手紙とナイトから来る手紙が、同じ封筒、同じ便箋であると提示している序盤の段階で、どんな映画か全く知らずに観てもどういう事なのか簡単に気づけてしまうのは、これが意図的なものかどうかは不明だが、仮に意図的とすればドラマ展開において延々とその真相を引張り続けるのはクドく、意図外であれば少し安易すぎる。

また、最初はみなとの視点による物語として、彼女の記憶にない事項やシュウ(石田卓也)側の事情や心情など、彼女にとってわからない事を観客のそれと同期させて謎としておき、続いてシュウのモノローグと共に視点が彼の側に切り替わり、みなとに出会う以前の段階に時間も戻るのだが、視点の移行はすぐにわかるものの、時間が戻った事を認識するのにある程度の時間を要求されるのは、構成意図としては不備だろう。

また、みなとおよびナイトとシュウの間に起こった出来事を、視点を都合三回変えて三回同じシチュエーションを繰り返しているが、これは『羅生門』に類する作品スタイルとして、同シチュエーションに対する観客の印象と認識情報を少しずつ変容させていく狙いであり、その効果はある程度は果たされているものの、視点が異なっていると視覚的に提示するための映像構成が、男女二人で繰り広げる掛け合いを切り換えすカット割りを、単にカメラ位置を逆にして繰り返しているだけでは、結局のところ映像的にはどちらもが客観視点であり、主観と視点の表現および観客がどちらに主眼を置いて状況を追うのかを操作する狙いが、完全に成されていたとは考え辛い。

同じく、どこまでを繰り返しどこまでを省略すれば、繰り返す事によるダレをなくし、新情報の判明による興味の持続を維持出来るかの、取捨選択のバランスもまた、時間稼ぎと受け止められがちな無駄な重複が気にかかるものであり、難易度の高い手法に挑戦した意気は良しとするが、結果として扱いきれなかったのが残念だ。

一方でそうした技術的、構成的な不満点を払拭すべく画面を支配している、与えられた難しい役どころを理解、解釈し演じきった堀北真希の存在こそが、本作における最大の見どころおよび評価点と言えるだろう。

みなと視点の展開における、シュウとの淡い恋物語での浮かれ模様は、可愛さを単純なビジュアルだけでなく仕草や口調などを最大活用して表現された、リアルな少女像としてファンならずとも観客の心を捉え、中盤からの波乱における苦悩に落差を持たせる前段として大いに有用であり、シュウとナイトの二人の男性に対する苦悩と葛藤に対し、その実情を知っている観客視点から大いに同情させられる事となる。

ナイト視点での演技においても、みなとを好きになる事が彼女も自分も苦しめている、逃避が生んだ自縄自縛と、みなとを奪おうとしているシュウに対する嫉妬と怒りとの、愛から生じる負の感情に醜く苦しみあがき、同じく愛ゆえの結論に達するまでの、文字通りの"ひとり芝居"の表現は極めて秀逸。

TVドラマ『花ざかりの君たちへ イケメン♂パラダイス』にて、恋する少女が男に扮して男子校に潜入する役どころに近似している、本作における堀北の演技スタイルだが、その二役を自身が自覚して演じ分けている設定である『イケメン〜』と、一方の自覚がない状態として演じ分けなければいけない本作では、当然今回の方がより深い解釈と高い表現が要求される事は間違いなく、それに見事応えた堀北の女優としてのスペックは、さすが一時期どの映画を観ても彼女が出ていたと(最近の波岡一喜のごとく)感じさせられる程に経験を積んだだけの事はあると評せられ、もはやアイドルの域は優に超えていると見て問題ないだろう。

その堀北の渾身の演技が、映像、シチュエーションとして収束しシンボライズされるのが、割れた鏡にナイトがキスする場面だろう。ここではナイトのみなとに対する思慕と、人格と肉体の矛盾から生じる歪みのメタファーとして割れた鏡を用い、苦悩が深みに嵌っていく絶望を、ありありと観客に伝える、わかりやすさとエモーショナルな表現を両立させた名シーンと言える。

その鏡と同じく、同時に存在し得ない二人を同時に存在させるためのギミックとして、カメラ、写真が印象的に用いられていた事も、手法としては定番ではあるが見逃してはいけない。

彼女以外のメイン出演者、石田卓也、草村礼子、平田満らの演技が殊更に記号的、無個性であった事も、堀北の演技と存在感を最大限にクローズアップするための意図的な配慮であると好意的に解釈するならば、それは充分に成功していると断言出来る。

兎にも角にも堀北真希の存在が作品を支配しており、トリッキーな設定も構成ギミックも他の登場人物も、彼女を引き立てるための材料と考えて決して過言ではない本作、堀北ファンなら何を差し置いても必見なのは言うまでもなく、そうでなくとも彼女の女優としての魅力を大いに体感出来る事は間違いない。興味があれば観ておいて損はない筈だ。



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この記事へのコメント

1. Posted by 埼玉の孤狼   2008年02月18日 00:07
つぶあんこ様、2度目まして。

小生別段堀北真希嬢のファンでもないのですが、この作品は思わぬ拾い物でしたネ。
ど〜して『東京少年』ってなタイトルになったのか?て、手紙の宛て先が東京都八王子市だからか・・・と見終わった後勝手に理由付けしてみたのですが、もともとこの作品、TV局主体の企画モノだったのですか。知りませんでした。ご教授感謝致します。

少し意外?だったのは、既にプログラムが売り切れになってしまっていたこと。再入荷の予定も皆無、だそうでして。
“そ、そんなにお客さんが観に来ているのですか・・す、座れるの?”
と訊ねた処、苦笑いされてしまいましたョ。
2. Posted by つぶあんこ   2008年02月18日 19:31
上映館が極端に少ないですから、パンフも大して刷ってないのでは。
3. Posted by Skywalker   2008年02月22日 00:36
5 堀北真希の演技に圧倒されました。ワンシーンで人格変換が起こる場面も違和感を感じず。2人格の演じ分けが少しでもうまくいかなければ、作品として成立していなかったでしょうね。撮影期間は実質2週間程度?ということになりますが、もう少し時間をかけて作られていたらと考えるのは、贅沢というものでしょうか。
4. Posted by つぶあんこ   2008年02月22日 16:42
時間よりセンスや解釈の方が求められたかと。

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