2008年02月22日

マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋 70点(100点満点中)

母さん、僕の帽子どうしたんでせうね
公式サイト

『主人公は僕だった』の脚本家として大いに評価を受けたザック・ヘルムが、脚本だけでなく自ら監督を務めたファンタジー映画。

前作『主人公〜』の主人公であった税務署員と、本作に登場する会計士のキャラクターが酷似しているあたり、前作を鑑賞した者だけが気づいてニヤニヤ出来るサービス的なお遊びとして嬉しく、その会計士が、『主人公〜』と同様、数字にこだわる堅物で、常識を超える事象を受け入れられない人物として当初紹介され、自分の理解を超えた人物および不思議な現象との出会いによって、その信条が瓦解して"真理"を受け入れ、仕事よりも人情を優先させていく、と、顛末に至るまで同じなのは明らかに意図的な仕込みだろう。それを主人公ではなく主人公と対を成す存在として配置しているのは、前作を踏まえた上での更なる進化だと捉える事も可能だ。

それに限らず、むしろいろいろと知識や経験を蓄えている大人の方が、作り手の意図を理解して楽しめるべく作られているのだとは、あらゆる描写や展開から明白であり、玩具屋が舞台だからといって子供向けだと安易に考えている様では、そもそも本作を語るに値しない。

ヒロイン(ナタリー・ポートマン)は最初から店と店主マゴリアム(ダスティン・ホフマン)の魔法を受け入れ信じてはいるが、音楽に象徴される自身の能力には挫折を感じて信じきれておらず現実から目を背け続け、その不信が店主の消失によって一気に表出してしまう、との変遷を描き、一方の会計士は、仕事にも自分にも迷いなく明確に指針を掲げ現実を生きており、魔法の存在に目も向けないながら、店や少年との関わりから魔法を現実として受け入れていき、逆にヒロインを説得する、相似と逆転の図式が二人の間に用いられ、二人の表裏一体を主軸として展開していく構成は、ベタな再起物語を単純化しないものとして評価出来る。

木製の謎のキューブの存在が、"自分にあるもの、そこにあるものを信じ受け入れる"メインテーマの具現化として用意され、それを象徴としてヒロインが抱える音楽に対する悩みの解消に繋げる、メタファーを視覚的に且つファンタジックに表現する手法も前作同様であり、単なる荒唐無稽の絵空事ではなく、人間の真理を描こうとするザック・ヘルムの姿勢が見て取れるものだ。

場面転換の直後にまずマゴリアムの墓標を大きく映し、彼の自称通りに生年と没年が刻まれているボケとして笑わせておき、そこからカメラを引いて全景が映されると、子供だけでなく多くの大人達が葬儀(墓参?)に駆けつけている事が判明し、彼が残したものが、街の人々の思い出として生き続けていると、量だけでなく時間、歴史をも表現し涙を誘うなど、笑いと感動を巧みに操作するセンスおよび映像構成テクニックも秀逸。

笑いの側面を大きく担わされている孤独な少年に代表される、ツッコミを一切行わないボケの連続をどれだけ拾えるかも、本作をどれだけ楽しめるかを左右する挑戦的ファクターだろう。

初登場時における店の前の場面では、絶対に届かない場所に帽子が引っかかっている事を強く印象づけておいて、ヒロインが店内に入った後は、彼女が開店作業をしている描写をメインとしながら、背景にてさりげなく帽子のあった場所にぶら下がっている少年のシルエットを映し、どうやって飛んだのかすら一切説明せずにスルーしてしまうなど、意味や経緯を敢えて省略して発見と考えの楽しみを観客に与えるボケやオチの構成は、ツボにハマるとニヤニヤが止まらなくなる上質な笑いセンスによるものだ。

登場する度に帽子が変わっているといった簡単なボケが、後半ではストーリー展開に関わってくるなど、単なるその場限りの小ネタに終わらずに意味を持たせる作劇も上手く、母親に「友達を作れ、知らない子に話しかけろ」と言われた次には、店に来ている子供達ではなく会計士に話しかけて「そっちかよ!」と観客に突っ込ませるだけでなく、会計士の変化のきっかけとするなども同様。何の説明もなくチャッカリと留守番店員をこなしてたり、遂には会計士をビジネスの提案のために尋ねたりと、突っ込みたいウズウズが止まらなくなり、完全に作り手の意図通りに操られてしまう事となる。

実は帽子コレクターだったなる、ひとまずのオチに際して、「帽子は冠るものだ」と言わせるなど、この少年に限らずところどころに真理を提示する台詞を配置している小憎い仕掛けなど、前作『主人公は〜』とも併せ、藤子・F・不二雄によるSF(すこしふしぎ)作品にも似たカラーが強く感じられもする。(そう言えば全体的な構成が『さようならドラえもん』に似ていなくもない)

作中での貴重なツッコミ描写である「パジャマのままですよ」も、ボケが始まってから突っ込むまでの異様な時間の長さによってそれ自体がボケと化し、観客を焦らして興味を引張る意図が成功していると言える。

ジブリアニメへのオマージュが感じられる、店内風景の色彩や物量、動きの、実写映像として全く違和感なく且つ現実離れした映像・デザイン的な魅力も有用で、会計士の変化および店の変化を象徴させるべく配置されているサルのヌイグルミにおいては、当初の物悲しい表情がそのまま変わらないながらラストでは正対する感情として観客に感じられる様になるなど、人格があって動くものの、あくまでも作り物の玩具である設定を活用して、ビジュアルとストーリーとエモーションを相乗させる狙いも良く果たされている。(そのサルのヌイグルミ、楳図かずおの裏人気キャラクター・モクメにどことなく似ており夢に出そうだが)

水前寺清子のごとき七三分けショートカットのヒロインは、その化粧けの無いビジュアルによって、良くも悪くも精神的な未熟さを視覚的に表現する一方で、"魔法からの現実逃避"を行った彼女のアルバイト姿として、女を強調する髪型やメイク、服装をさせる事で、現実と魔法が逆転し融合する作品の有りようをも表現しているだけでなく、ナタリー・ポートマンが一級の美女である事をも再認識させてくれるものだ。彼女でなければ七三は単なるギャグにしか見えなかっただろうし、演奏バイト時も単にケバイだけにしか見えなかっただろう。

マゴリアムが消える"現実"を受け入れる事が、"魔法"を信じる事に繋がる、大きな転換点の仕組みもまた、その現実と魔法の逆転融合の図式を用いたものだ。

ただ、中盤での死ぬ死なないの問答が無駄に冗長で、一方で終盤の畳みかけが文字通り畳み掛ける様に拙速に終わりすぎてあまりに呆気ないのは、脚本の面白さを活かしきれているとは思えず、構成や編集にバランスの悪さを感じてしまうのが残念だ。

現実を見る事と夢を見る事は決して相反せずむしろ両立させるべきだとし、大人に対して童心を失わない大切さを訴えかけてくる本作、表層的な見方ではなく真理を見出せるなら、ザック・ヘルムの遊び心と計算を楽しめる筈だ。

余談:
玩具屋の店内描写、パワーレンジャーやトランスフォーマー、スターウォーズなどのマスコミキャラクター玩具は無いものの(一瞬見切れたものもあったが)、ホットウィールやマッチボックス、プレイモービルなどの既存の市販品は普通に陳列されており、それが自律して動いている様は玩具好きにも楽しめる一面か。



tsubuanco at 16:50│Comments(1)TrackBack(17)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. ★「マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋」  [ ひらりん的映画ブログ ]   2008年02月21日 01:11
今月は地味に「ファンタジー特集」に突入してる感のあるひらりん。 ナタリー・ポートマンのカジュアルな服装はキュートだし・・・ 木村カエラちゃんが歌ってるテーマソングはポップだし・・・ ダスティン・ホフマンは、オチャメだし・・・ こりゃーーーー、観るしかない...
2. 『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』  [ 唐揚げ大好き! ]   2008年02月21日 05:08
『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』   信じてください。   信じる心だけに見える、宝もの。   ■オーナーのマゴリアムおじさんのもと、支配人として働く25歳のモリーも、世界でただひとつのこの特別なおもちゃ屋をこよなく愛してる。そんなある日、
3. マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋  [ 映画鑑賞★日記・・・ ]   2008年02月21日 12:53
【MR. MAGORIUM'S WONDER EMPORIUM】2008/02/16年公開(02/20鑑賞)製作国:アメリカ 監督・脚本:ザック・ヘルム出演:ダスティン・ホフマン、ナタリー・ポートマン、ジェイソン・ベイトマン、ザック・ミルズ ホフマン、ポートマン、ベイトマン・・・不思議な?マンつなが...
4. 【マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋】  [ 日々のつぶやき ]   2008年02月21日 12:59
監督:ザック・ヘルム 出演:ダスティン・ホフマン、ナタリー・ポートマン 「マゴリアムおじさんのおもちゃ屋は、大人には普通でも、信じる子供たちには魔法のおもちゃ屋。店長をしているモリーは、243歳を迎えたマゴリアムおじさんから突然店を譲り受けた。おじさんは
5. マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋  [ 空想俳人日記 ]   2008年02月21日 18:19
摩訶不思議 磁場に踊る キュービック  マルゴリアル? マゴリアムズ? マリゴアムル? おじさんなんだけど、おじさんの名前がきちんと覚えられない。なんでおじさんの名前は、マルゴリズムなんだろう? アルゴリズム?   ということで、劇場のチケットカウン...
6. マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋 MR.MAGORIUM\'S WONDER EMPORIUM  [ シネマログ  映画レビュー・クチコミ 映画レビュー ]   2008年02月21日 20:24
自分のことを信じれば、道は開かれる■ストーリー開店して113年にもなるマゴリアムおじさん(ダスティン・ホフマン)のおもちゃ屋は、マジックワールド。いろんなおもちゃがひとりでに動き、子供たちを大喜びさせてくれる。それは243歳のマゴリアムおじさんの魔法によるもの...
7. 「マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋」  [ かいコ。の気ままに生活 ]   2008年02月22日 19:19
試写会で 観てきました。「マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋」公式サイトあらすじ:まるで魔法にかけられたように、商品が勝手に動き出すマゴリアムおじさん(ダスティン・ホフマン)のおもちゃ屋。大盛況の折、マゴリアムおじさんは雇われ支配人のモリー(ナタリ...
8. ★マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋(2007)★  [ CinemaCollection ]   2008年02月24日 00:14
MR.MAGORIUM'SWONDEREMPORIUMようこそ、誰も見たことのない世界初の映像ワンダーランドへ!【解説】ナタリー・ポートマンとダスティン・ホフマン共演によるファンタジック・コメディ。摩訶不思議なおもちゃ屋のオーナーが突然の引退宣言、若き女性支配人が引き継ぎを任さ...
9. マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋  [ アートの片隅で ]   2008年02月24日 10:47
「マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋」の試写会に行って来ました。 監督&脚本のザック・ヘルムは、去年観た「主人公は僕だった」の脚本家です。 ある日突然、魔法使いのマゴリアムおじさん(ダスティン・ホフマン)が、おもちゃ屋の後継者に支配人のモリー(ナタリ...
10. 【2008-39】マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋(MR. MAGORIUM'S WONDER EMPORIUM)  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2008年02月27日 22:35
2 人気ブログランキングの順位は? 夢と興奮!! 世界でただひとつの・・・ マジカル・ワールドへ!
11. マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋■ビジネスマン向けの啓...  [ 映画と出会う・世界が変わる ]   2008年03月01日 22:26
この映画は予想外に楽しめる。まず、アニメによるクレジットタイトルが秀逸。かってピーター・セラーズ主演、ブレーク・エドワーズ監督の「ピンクパンサー・シリーズ」のタイトルが非常に楽しめたがこれも同じような趣向である。冒頭のタイトルだけではなく、エンドタイト...
12. マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋。  [ この世界の憂鬱と気紛れ ]   2008年03月02日 23:21
 ザック・ヘルム監督・脚本、ダスティン・ホフマン、ナタリー・ポートマン主演、『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』、3/1、Tジョイ久留米にて鑑賞。2008年10本目。  先に難点を挙げておくと登場人物の描写が薄っぺらいような気がしました。  結局マゴ...
13. マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋 観てきました。  [ よしなしごと ]   2008年03月09日 13:44
 予告編を見た時に、美しく、楽しそうな映像に一目惚れ、しかもキャストはダスティン・ホフマンとナタリー・ポートマンと、僕の好きな俳優が主演。これは観に行かなければ!マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋を観に行くことにしました。
14. 映画『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』を観て  [ KINTYRE’SDIARY ]   2008年04月09日 07:11
27.マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋■原題:Mr.Magorium'sWonderEmporium■製作年・国:2007年、アメリカ■字幕:戸田奈津子■上映時間:95分■鑑賞日:3月2日、渋東シネタワー(渋谷)■公式HP:ここをクリックしてください□監督・脚本:ザック・ヘルム...
15. マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年10月09日 20:31
 『夢と興奮!世界でただひとつのマジカル・ワールド、ついにオープン!』  コチラの「マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋」は、ナタリー・ポートマンとダスティン・ホフマン共演で”世界でただひとつの特別なおもちゃ屋を継いで欲しいと頼まれたモリーの冒険を描....
16. 【映画】マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋…SWフィギュアなんかは取り扱ってない感じの店だね  [ ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画 ]   2008年12月21日 14:19
{/kaeru_fine/} 明日もお仕事なピロEKです{/face_ase2/} 一つ前の映画記事「魍魎の匣」 サブタイトルが(本文同様に)あまりにもダラダラ長かった{/face_ase2/}ので後で変更しました{/ase/} (そんなこと言いながら今日も長いなぁ{/face_ase2/}) ちなみに元々は… 「【映...
監督・脚本、ザック=ヘルム。2007年米。原題『MR. MAGORIUM'S W

この記事へのコメント

1. Posted by shisyun   2008年02月21日 18:25
出だしの帽子から、私の視点はのっけなくジャンプしてものにしたエリックでありました。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments