2008年02月29日

いつか眠りにつく前に 32点(100点満点中)08-060

何もかも懐かしい…。
公式サイト

アメリカの作家スーザン・マイノットの小説『EVENING』を、ジュゼッペ・トルナトーレ作品などの欧州映画の撮影監督を務めてきたラホス・コルタイ監督により映画化。今回の日本公開を機に、原作も日本語版が刊行された。

現代と50年前のアメリカを舞台としたハリウッド映画らしからぬ、原題に沿った光色の用い方や空間構成など、欧州映画を彷彿とさせる叙情ある映像が紡がれているのは、監督の経歴によるものが大きいのだろう。

丘の上から海を見下ろす風景の美しさと、そこに配置されている人物とボートの奇妙な構図によって興味を惹く、導入部の映像演出は良くしたものだ。同じ海を見下ろす光景をラストにも用い、落陽によって幕引きとするのも、世界観とエモーションの描写を両立させた秀逸な映像演出と言える。

のだが、女性の視点から女性による恋愛観や結婚観の露呈あるいは母性の継承を描く作品において、その女性を美しく魅力的に見せられていたか、あるいは逆に、ディフォルメされたリアルとしての生活感などを醸し出せていたか、との点では、かつてイタリア映画などで女優を本来以上に美しく映像に捉えていた監督とは思えない、ひどい有様だ。

老いて病床に付く主人公アン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の回想(幻想?)として展開される、50年前の若き日のアンをクレア・デインズが演じているが、『ロミオとジュリエット』や最近では『スターダスト』などでの美しきヒロイン像とは程遠く、眼だけがギョロギョロデカく、アゴがゴツゴツしてニューハーフにしか見えない、メイクが濃すぎる気持ち悪いオバサンにしか見えず、正視するのも辛くなる。

この時点で、彼女を中心にネチッコい三角関係が繰り広げられる回想シーンの説得力も興味も、大幅に薄れてしまうのだから致命的だ。自分自身の思い出を美化・正当化しようとする物語において、その自分の見た目が美化されていないのは問題だろう。ローアングルやアップ、または目を殊更に見開く様な演出が多用される事で、その気持ち悪さが強調されている。そんな顔で本命とのラブラブや"友達"に対する"気づかないフリ"を見せられても、感情移入も共感も同情も何も出来ずむしろ逆効果だ。

主人公の次女役のトニ・コレットが、現代パートでの悩めるヒロインとしてウエイトを大きく置かれているが、彼女もまた何故か額の長さや口元の汚さ、それに反しての目のギョロデカさを強調する様なメイク、髪型、撮影がなされ、劇中で言われる「キレイ」 とは程遠く、脳が異常発達したミュータントにしか見えず、同様に全く入り込めないのだから困る。

よりによって出番が多く感情描写の主となる二人に限っての事だけに、ワザと気持ち悪くブサイクにしているのかと邪推させられてしまうが、そんな事をしても誰も得をしないだろうから、いろいろと間違いが重なった結果なのだろう。

一方で、主人公の人生、歴史の対称の様に配置されている、親友のライラの側は、対称を意図したのか柔らかい印象を抱かせる顔立ち(メイク)となっており、むしろこちらの方に感情移入したくなるくらいである。当初は回想シーンにのみ彼女を登場させ、演じるメイミー・ガマーのビジュアルを充分に印象づけておいた上で、後半になって現代パートに颯爽と登場するメリル・ストリープの姿に、一瞬で「お、ライラだ」と観客に認識させて驚かせ、50年の歳月の流れをもスムーズに受け入れさせる、実の母娘であるキャスティングの意義を最大限に活かした構成は面白い。

主人公とライラがベッドで添い寝状態となり、一方が一方を慰めるシチュエーションを、過去と現在の両方に印象的に繰り返し、その立場を逆転させる事で、歳月の流れによる人生の悲喜こもごもを一気に表現するなども、本作のギミックを上手く用いた構成と言える。ライラの結婚を回想のメイン舞台としておきながら、当の新郎がほとんど画面に映らずないがしろな映像、演出もシニカルで痛烈だ。

その様な、ライラ絡みの描写、展開においては、演じるメリル・ストリープ母娘の一人勝ち的な存在感や表現によって、リアルかつドラマティックな人生を感じさせられもする。だがそれはあくまでもサブファクターであり、肝心の主人公母娘側のドラマに、それに勝る効果が見られないのでは本末転倒だ。

娘達からの母に対する思いは通り一遍ながら描かれているものの、それと相似を成すべき主人公から自身の母親に対する思いは特に描かれず、登場すらしないのでは、受け継がれていく、繋がっていく女心や母性というメインテーマを扱いきれていないのではないか。姉が理想的な主婦で妹が奔放という、あまりにありがちで類型的な人物配置も安易だ。

そもそも、自分が親になって初めて親の気持ちを理解する、との定番ネタを感動あるいは共感どころとして用意しているが、そんな事は言うまでもない当たり前の事で、むしろ親になって尚、自分が子供だった時に親に対して抱いていた気持ちを忘れず、それを踏まえて子供を育てていく事こそが肝要であり、そこまでの言及がないのでは通俗的にすぎ底が浅い

物語の"謎"として描かれていく、ライラの弟バディ(ヒュー・ダンシー)との関係も、ありがちな片思いの友達関係を悲劇として描く狙いは悪くないとしても、実際には相手を傷つけないためとしつつ、自分がワルモノになりたくないだけの、自分本位な計算による保身に過ぎないものを、「過ちではない」と正当化するのはあまりに利己的にすぎ、本当はとっくに気づいていながらギリギリの状況まで"知らないフリ"をして相手を追い込んだズルい有様を、鬱々たる演出によってネチネチと見せられては、とても共感出来よう筈もない。

相手のバディの側もまた、煮え切らずストーカーめいた演技、演出に徹底されているのだから、どちらも気持ち悪く共感も同情も出来ないのでは、楽しめるわけがない。確かによくある話だが、だからこそ映画として人が観る意味がある様に作劇、演出すべきだろうに、それを放棄して不快にさせる事に徹したとしか思えず、狙いである筈の美化や正当化にそぐうものではない。

母と娘をテーマに、過ちを過ちと認めたくない、浅ましい自己正当化に終始する内容は、松嶋菜々子主演の『眉山』に似ていなくもないが、傍流となるライラの存在に救われているだけ、こちらの方がマシだろうか。

自分は間違っていないと思いたくて、誰かにそう言ってもらいたくて仕方のないタイプであれば、「そうそう、アタシは間違ってない!」と、極めて後ろ向きな共感を見出せるかもしれないが、理性と常識をわきまえた分別ある大人には、到底ついて行けないシロモノだ。


tsubuanco at 18:41│Comments(0)TrackBack(16)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. いつか眠りにつく前に  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年02月27日 21:03
 『すべての女性の人生が、 美しい一瞬を持っている。』  コチラの「いつか眠りにつく前に」は、スーザン・マイノットのベストセラー同名小説を豪華女優陣の競演で映画化した2/23となった感動作なのですが、早速観て来ちゃいましたぁ〜♪  死の床に伏したアン(ヴァ....
2. いつか眠りにつく前に(Evening)  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2008年02月28日 00:04
英語タイトルEvening、スーザン・マイノット原作、ラホス・コルタイ監督、ヴァネッサ・レッドグレーブ、クレア・デインズ、パトリック・ウィルソン、メリル・ストリープ。親子二代のシーンが交互し、似たような顔の人が出て来て混乱する。
3. 【いつか眠りにつく前に】  [ 日々のつぶやき ]   2008年02月28日 10:53
監督:ラホス・コルタイ 出演:クレア・デインズ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、メリル・ストリープ、トニ・コレット、グレン・クローズ、ナターシャ・リチャードソン、メイミー・ガマー 「間もなく永遠の眠りにつくアンを、枕もとで見守る二人の娘。アンは娘達の知ら
4. 『いつか眠りにつく前に』  [ Sweet*Days** ]   2008年02月28日 11:36
監督:ラホス・コルタイ  CAST:ヴァネッサ・レッドグレーブ、クレア・デインズ、トニー・コレット パトリック・ウィルソン 他 死...
5. 思い出は美しすぎて。『いつか眠りにつく前に』  [ 水曜日のシネマ日記 ]   2008年02月28日 23:23
死の床で自身の人生を振り返るひとりの女性を中心に人間模様を描いた作品です。
6. いつか眠りにつく前に  [ ★YUKAの気ままな有閑日記★ ]   2008年02月29日 09:14
アン役ヴァネッサ・レッドグレーヴの娘役を実の娘ナターシャ・リチャードソンが、ライラ役メリル・ストリープの40年前を実の娘のメイミー・ガマーが演じ、二組の母娘共演を果たした本作。感動作だということだが・・・【story】死の床にある老婦人アン(ヴァネッサ・レッドグ...
7. 映画「いつか眠りにつく前に」  [ 茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり?? ]   2008年03月01日 19:00
原題:Evening いつか眠りにつく前に、人生に過ちなんてなかった、と開き直る気持ちはよく分かる・・後悔は先に立たず、人生は長いようで短い、夢と希望を繋ぐものは・・ イブニング、輝くように美しい、まるで絵に描いたような、いや、絵にも描けない美しさという...
8. いつか眠りにつく前に  [ 八ちゃんの日常空間 ]   2008年03月01日 20:58
女性の映画ですね、完全に。
9. 真・映画日記(2)『いつか眠りにつく前に』  [            ]   2008年03月04日 18:16
JUGEMテーマ:映画 (1から) 「シネマロサ」2階の劇場を出て、 今度は地下の劇場で『いつか眠りにつく前に』を見る。 病床の60代の母親アンが娘二人に「ハリス」という男性の名をうわごとのように口にする。娘のコリーとニーナは母からそんな男性の名前を聞く...
10. 『いつか眠りにつく前に』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2008年03月11日 12:25
□作品オフィシャルサイト 「いつか眠りにつく前に」□監督 ラホス・コルタイ □原作・脚本 スーザン・マイノット □脚本 マイケル・カニンガム □キャスト クレア・デインズ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、メリル・ストリープ、トニ・コレット、パトリック・ウィルソン...
11. いつか眠りにつく前に  [ パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ ]   2008年03月12日 11:42
3 死の床にある母が語った物語は、娘たちが知らない40年前の愛の記憶__。 あなたが最期に呼ぶのは、誰の名前ですか?・・・。 老女アン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は、ベッドに横たわり、うなされたように、たびたび「ハリス」という名前を口にする。二人の娘がそば...
12. いつか眠りにつく前に  [ 愛情いっぱい!家族ブロ! ]   2008年03月15日 10:36
これはまっさらな状態で観にいきました。 とにかく豪華な女優陣にひかれて・・・ ??EVENING?? とても思い病状で床にふせっているアン婦人(バネッサ・レッドグレイヴ) はうわごとのようにつぶやく。 「ハリス・・・ハリス・・・」 それは娘たち...
13. いつか眠りにつく前に☆母の隠された40年前の愛  [ 銅版画制作の日々 ]   2008年03月23日 00:39
 死の床にある母が語った物語は、娘たちが知らない40年前の愛の記憶     2月26日、東宝シネマズ二条にて鑑賞。キャストの顔ぶれは、凄い親子で共演という女優さんもいます。その一人がメリル・ストリープのお嬢さん、メイミー・ガマー。メリル演じるライ...
14. 映画『いつか眠りにつく前に』を観て  [ KINTYRE’SDIARY ]   2008年04月04日 23:55
25.いつか眠りにつく前に■原題:Evening■製作年・国:2007年、アメリカ■上映時間:117分■鑑賞日:3月1日、武蔵野館(新宿)■公式HP:ここをクリックしてください□監督:ラホス・コルタイ□脚本・原作・製作総指揮:スーザン・マイノット□脚本・製作総指揮...
15. いつか眠りにつく前に■メリル・ストリープの一人勝ち  [ 映画と出会う・世界が変わる ]   2008年04月24日 07:27
現代と50年代をまたぐ物語。死期迫る病床の主人公アンにヴァネッサ・レッドグレイヴその親友ライラにメリル・ストリープ50年代と若き日のアンをクレア・デインズ。若き日ライラはメリル・ストリープの実の娘メイミー・ガマーアンの長女にヴァネッサ・レッドグレイヴの実の...
16. 「いつか眠りにつく前に」  [ 心の栄養♪映画と英語のジョーク ]   2008年10月15日 23:14
病に倒れ、人生の最期を迎えようとしていたアン(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)。長女のコンスタンス (ナターシャ・リチャードソン)と次女のニナ(トニ・コレット)に見守られる彼女は、混濁する意識の中、 “ハリス”(パトリック・ウィルソン)という男性の名を何度も口...

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments