2008年02月29日

君のためなら千回でも 63点(100点満点中)

怒りのアフガン
公式サイト

アメリカ在住のアフガニスタン人作家、カーレド・ホッセイニのデビュー作である自伝的小説『カイト・ランナー』を、マーク・フォースター監督により映画化。日本公開を機に発売された文庫版より、邦題と同じタイトルに改題されている。

主人公の少年期であるアフガン激動の1970年代後半と、青年期の"現在"として描かれる2000年代との二部構成の体を成しているストーリーは、おおむね原作に沿って進むものの、前半部における描写の入念さに比して、後半となる現代パートの展開、描写に拙速あるいは大味な感が強くなっているのが、まず大きな問題だろうか。

"永遠の友情"がテーマであるかのごとき邦題の印象とは異なり、生涯をかけた贖罪こそが本作のメインテーマとなっている事は、原作を読むなり本作を鑑賞すれば明白だ。その罪の原点を観客にとってもリアルに体感させるべく、言葉による説明を一切行わない状態で、主人公の心理を浮き彫りとし、誰もが"過去の愚行"に思い至らせられるであろう、痛々しく愚かしい行動のいちいちの作劇、演出は極めて秀逸。そこに至るまでの二人の関係と父子関係を、その前段として丁寧に描写していた事も、破綻が訪れる瞬間に観客が抱かされる感情の基盤となるべく大いに有効だ。

主人公と使用人の子ハッサンとの関係だけでなく、繰り返される愛や情あるいは罪とその償いが展開されていく、双方の父子間に発生する、皮肉に交錯する人物構図を主軸とし、また、主人公以外の主要人物において、誇りや信念を基調とした人物描写を重ねて魅力を引き出し、物語の伏線ともしているなど、物語展開と人間描写を絡み合わせてテーマを主張する、ストーリー構成は良くしたものだ。

当時のアフガニスタンを襲ったソ連侵略の悲劇と、それに立ち向かったタリバンの台頭によるまた別の悲劇という、作品の独自性を醸すと共に現実と地続きなリアルを感じさせる歴史的な事実を背景として用意している事も、その扱いに恣意性が感じられるとは言え、事実それを我が身で経験した作者だからこそ描き得るものとして興味深い。

劇中で描かれている悪逆非道な行為は、一面的ではあれど紛れもない事実であり、アフガンで戦ったソ連とタリバンの両方が"悪役"となる側面を持っている、その皮肉を強調していると取れば、原作者の故郷に対する思いを感じ取る事が出来る筈だ。アメリカの"自由"や"平和"を強調せず、あくまでも在米同胞コミュニティの描写にのみほぼ留めているあたりにも、配慮は感じられる。

主人公の父が逃亡時、他人の妻を救うために身を挺する場面を、その場としては芯の通った人間性描写として用い、後に全ての真相が明らかになった時に、あの行為こそがかつて犯した過ちに対する贖罪の一環であったと気づかせるなど、尊敬すべき人物であるとの印象を崩さずに、内実の露呈によって更に奥深い人物像となってくるといった仕掛けが、ことごとく周到されている、原作を踏襲した人物描写も見事だ。

だからこそ、後半のクライマックスとなる、タリバンアジトにおける顛末の、あまりに安易な展開のお粗末さが、残念な落差として浮き上がってしまう事はおおいなる皮肉か。たとえ尺が長くなっても、やはり原作に沿って丁寧な人間描写を行い、説得力のある展開にすべきだったろうに勿体ない。

その前段での孤児院のエピソードにて、一人を犠牲にして大勢を救う、逆に一人を救うために大勢を見捨てる、相反する二つの行いを、主人公と院長の二人に象徴的に投影させ、"善意"や"善行"の不確かさを痛烈に突きつける場面が印象的に描かれている事や、大人になった主人公とハッサンを感動的に再会させて泣かせを押しつける様な、安っぽいお涙頂戴劇とはしない事で、決して単純なハッピーエンドとはなり得ず、主人公の贖罪はまだ終わったわけではないとする締めこそが、本作の持つ奥深さのひとつだろう。

父と子が近似する災厄に見舞われてしまう、ハッサン父子の連鎖はともかく、その元凶となる人間が同一という、あまりに作為的な展開を、そのまま安易に且つ拙速に用いてしまっては、まるで大映ドラマを観ているかと勘違いしていしまう程に、それまでのリアルの蓄積は一気に瓦解してしまう。あまつさえその後の逃亡描写の安っぽさは致命的だ。

少年時代の凧揚げ大会において、上空の凧を映していると単純に見せかけて、その背景として映っている、まだ平和な時代のアフガンの街の光景を印象的に焼き付けておいて、現代パートで主人公がアフガンに戻った時の、荒涼とした廃墟から受ける精神的ダメージを最大とするなど、CGや特撮をそうと気づかせずにドラマティックな効果に活かしているのは、現実と幻想を絡ませてきた監督得意の作風によるものだ。その様に、過去と現在の双方のリアルを対比させる事で、寓話とも言える物語を紡いでいながら、どうしてアジト場面だけがお粗末に尽きたのか、大いに疑問ではある。

ソ連のアフガン侵攻やタリバンの存在などは、日本人でも常識として知っているだろうし、被差別民族ハザラ人の実情を知らずとも、劇中における描写から簡単に想像がつくものだから、史実が背景ではあるが特段の事前知識は必要なく、むしろ主人公とハッサンおよびその父親達の、相似、対称として繰り広げられる人物構図に注視すれば、深い感慨を得られる筈だ。

マーク・フォースター作品にしては、原作つきな事を制約と感じたのか幾分落ちる気もするが、興味があるなら観ておいて損はないだろう。より描写が真に迫る原作小説は更にオススメだ。




tsubuanco at 19:54│Comments(0)TrackBack(13)clip!映画 

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