2008年03月07日

レンブラントの夜警 67点(100点満点中)

「13か…聞いただけで勃起するわい」
公式サイト

17世紀のオランダを代表する画家の一人、レンブラントが遺した名画『夜警』に隠された真相に、イギリスのアーティスト、ピーター・グリーナウェイ監督が独自の解釈で迫った、ヨーロッパ製コスチューム・プレイ映画。

名画に秘められた謎を追う物語、と聞いてまず浮かぶのは『ダ・ヴィンチ・コード』だろうが、本作はそうしたオカルトミステリーではなく、かと言って99年の『レンブラントへの贈り物』の様な伝記映画でもない、天才を紙一重突破したグリーナウェイ監督による、偉大なる先達レンブラントに対する挑戦状とも言うべき、シュール且つアーティスティックな"芸術作品"となっている。

そして、これまでにも狂気が底流にある"芸術作品"としての映画を数多く発表してきたグリーナウェイだが、『夜警』を描いた意図、描きあげられた『夜警』の意味、などが徐々に明らかになり、それを主軸としてレンブラント自身の人生や、背景としての当時のオランダの世相をも切り取っており、過去作と比べればストーリーの筋は通っている。

『夜警』を描くまでのレンブラントの趨勢と、書き上げた後の凋落の原因が、絵画の意味として結びいていく謎の解釈は、創作とはいえ興味深い。

とは言え、その背景となる当時のオランダの世相や、レンブラントの生涯や作品についての事前知識がない事には、最初からあって当然のものとして不親切に描かれている本作の世界に、まず入り込む事すら困難であり、何がどうなっているのかわけがわからないまま2時間超を過ごすハメに陥ってしまう事も確かで、一般向けの娯楽作とは到底呼べない代物だ。

スペインの支配から脱した直後、市民政治によって市場経済が急速に発展(江戸時代の日本との交易もその一端)し、商業によって得た金がすなわち権力と化したオランダにて、『夜警』のモデルとなる市警団(民兵)とはどの様な位置づけなのか、何故レンブラントな彼らを忌み嫌ったのか、など、レンブラント側の論理は一応語られるものの、彼のエキセントリックな人格によりそれが本当に正しいのか疑わしくなってしまうものでしかなく、深い知識や認識が試される事となる。

ファーストシーンの争乱や受難が、レンブラントが見ている夢の表現である事は誰にでもわかるだろうが、それが彼が描いた『ペリシテ人に目を潰されるサムソン』を演劇化したものだとは、元となる絵を知っていない事には理解出来るわけがない。最初から観客は試されているのだ。

ただし、その夢から醒めていながらも、場面どころかカットすら切り替わらずそのままの構図で現実パートに移行するに至って、この映画が絵画を舞台化し、それを映画としての体裁にまとめあげているのだとは、知識と関係なく気づく筈だ。この事は終盤になって、『夜警』の絵に対し「これは絵画ではなく舞台の一場面だ!」との批判がなされるに至り、監督の意図するところであると確定する。

それに留まらず、屋内の場面にも拘らず、カメラが据えてある側(画面手前)には壁というものが存在しないかの様に人物が出入りするなど、舞台劇というスタイルすら凌駕して"スタジオ撮影"をも匂わせていくなど、様々な手法にてスクリーンに映る光景をメタファーとして提示する手法は、極めて慌ただしく休む暇を与えられない。唐突に人物がカメラ目線で語り始めるなどはその究極だろう。

だが、序盤の食事場面にて、食卓の全景を見せながらそこでの会話を聞かせ、各所に話している人物のアップを同ポジションの画角で挿入するという手法が用いられているが、この時、当のレンブラントが観客に対し背中を向けたままなる底意地の悪さは狙いとして面白いものの、アップに切り替わる各人物と、ロングで配置されている人物が結びつかず、結局誰がどこにいるのかが伝わらない有様なのは、基本的な理解すら損ねるものとして、あまり上手いとは言えない。

一方で、その最初の食事場面では背を向けていた人物が配されながら、その後多用される食事、宴会場面においては、登場人物達はことごとく真正面を向いて配置されており、より絵画的な構図に近づいていくといった、作品の方向性としての狙いは興味深く効果的なため、一概にダメとは断じられないのだが。

口パクと台詞がズレており、会話に違和感が生じている事も、そのわかり辛さの一因と見られる。オランダが舞台のコスチュームプレイながら英語の台詞が用いられ、「Fuck」などのスラングも連呼されるなど、明らかに現実に呼び戻される様なダイアローグは、狙いかもしれないが失敗だろう。

女好きとして知られるレンブラントを描くだけに、彼と関わる美しき女性達が多数配され、時に生々しい裸身を披露してくれるのはありがたいが、"少女"として設定されている人物が、どう見ても立派な大人の女性でしかないキャスティングは、たとえ10年の歳月を描いた物語としても、違和感どころの話ではなく、話している言葉と見せられている姿が違いすぎて意味がわからなくなってしまう。

屋根の上の少女など、初登場時は10歳であり、だからこそ、まだ母乳がでないから子供を育てられないという台詞や、彼女の姉が、初潮がまだなのにナイフで性器を傷つけられる事で大人と見立てられ、娼婦とされるといった境遇、彼女らを性的に虐待しているのが他ならぬ聖職者であるなどから、レンブラントの怒りが更に加速されて『夜警』による告発に至る、ストーリーのメインとなる流れすら掴み難くなるのでは無意味だ。

使用人の少女ヘンドリッケも、銃の暴発で痛んだレンブラントの目をその舌で舐めるエロティックな場面が印象的ながら、その時点での彼女の設定は13歳である。子供がするのと大人がするのとでは。視覚的に生じるエロティズムに大きな差異があるとは言うまでもない。その後の、男達が彼女にセクハラや強姦未遂を行う場面から受ける印象もまた、大人と子供とでは全く異なるものだ。どう見ても大人でしかないキャスティングは、明らかな誤りとしか考えられない。

一流の美術家ならではの、ビジュアルに込められた芸術性は確たるものだが、一方でこれまた芸術家特有の独りよがりが暴走し、様々な理解の困難を生じさせてしまっているのは、これは改善を求めるのは芸術性の否定にも繋がるのだから野暮ではある。とは言え、他人に見せる作品として、それでいいのかとの疑問は絶えないが。

興味があるが題材をよく知らないのなら、冒頭で挙げた『レンブラントへの贈り物』を先に鑑賞してからの方が、理解は易くなるだろう。それでもわからなければ、監督自身が記したストーリーブックの日本語訳版が刊行されているので、それで補えば問題ない筈。(本当は、そうした映画外の補完は反則だが)



tsubuanco at 17:01│Comments(0)TrackBack(6)clip!映画 

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