2008年03月07日

ゼロ時間の謎 50点(100点満点中)

に…人間の顔で笑った!?
公式サイト

アガサ・クリスティのミステリー小説『ゼロ時間へ』を原作に、同氏の『親指のうずき』の映画化である2005年の『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』に続き、パスカル・トマ監督によりフランスにて映画化

まるで等々力警部の様に「よし、わかった!」と安易な証拠で容疑者を逮捕しては実は違った、を繰り返し、最後は金田一耕助の様に全員の前で滔々と全容を講釈、と、これまでの作品では名探偵の引き立て役だったバトル警視が、堂々の一本立ちを果たし活躍する最初で最後の作品が、本原作である。

イギリス人であるクリスティがイギリスを舞台に作り上げた作品世界を、場所もフランス、人物も全てフランス人へと改変し、携帯電話が登場するなど現代の物語とされながらも、色使いや背景、語り口などから、原作当時の時代的雰囲気を醸し出しているのは、前作同様の特色であり評価点と言える。

物語は原作にほぼ忠実に進むため、既読の観客にとってはあまりのストレートさに逆に驚かされもするが、それだけ原作の完成度が高く、下手に弄ると破綻してしまうという事なのだろうか。

だが、真犯人が事前に綿密な計画を立てている、原作序盤の導入場面や、バトル(本作ではバタイユ)警視の娘の冤罪エピソードにて、警視が娘の無実を見抜くだけでなく真犯人を即座に見破るくだりなど、伏線や作品構成のキモとして必要であろう要素がカットされているのも気にかかる。娘の表情とオード(原作のオードリィ)の表情をオーバーラップさせ、その真相を観客に伝える展開はそのまま用いているのだから、何食わぬ顔でその傍らにいる真犯人、という相似も活かすべきではないか。

事件解決の鍵を握る自殺未遂男の描写も、かなり省略されている。クリーニングの取り違えをするくだりがカットされたのでは、彼が事件に関わる流れが唐突すぎるし、最終的に彼が迎える結末も完全にカットでは、どうして雨なのに月夜とウソをついたのか、その理由が明らかとならず、オチのための伏線になっていない。

メリーゴーランド楽団によるイメージ映像を、事態の転機を印象づけるべく用いていた事も、それ単独で見ればシュールでミステリアスな雰囲気をかもして、予兆の不安を強調する狙いは果たされ、うって変わってラストの脳天気な演奏とのギャップも面白い。

が、そうして強調される"転機"は、犯人にとってはあくまでも"過程"にすぎず、タイトルにある"ゼロ時間"とはいったい何時なのか、こそが本原作最大の興味点であり、本作以前のミステリー小説の定型を覆す新機軸だったのだから、この演出は、果たして本作の作り手はそれを理解していたのかと疑問に思わされるものだ。わかった上でミスリードを狙っているとしても、あまりに作為的すぎやしまいか。

その一方で、窓を閉めるフックなど、怪しいキーアイテムをいかにもとクローズアップする親切すぎる配慮が感じられたり、断崖や岩場の海岸、船の上での真相開示など、いつ片平なぎさや船越栄一郎が登場するのかと思わされる様な場面の多用など、これは原作通りなのだから仕方ないし、まさか作り手が日本の2時間ドラマなど観てはいないだろうが、ストーリーへの興味よりそうした邪念が浮かばされてしまう部分が多いのは困りものだ。

ただしストレートな王道ミステリーとして、極めて真面目に語られる原作に対し、二人目の妻キャロリーヌ(原作のケイ)の、これでもかとディフォルメされてキチガイ寸前のヒステリックな人物描写や、使用人男女によるフリーキーなエロネタの挿入(エロだけに)など、王道ではない歪んだ笑いを醸すギミックが用意されている事で、単なる原作の再現に終わっていないのは有り難い。

冒頭の断崖場面にて、岩陰でいちゃつくカップルから始まり、大きくカメラが回り込んで崖上の男に焦点を当て、ワンカット内の同じ地点ながら印象が様変わりするなど、これは2時間ドラマではなく映画なのだだと主張している本作、カタカナの長い名前ばかりで誰が誰かを認識するのに時間がかかるタイプの人なら、原作よりもこちらで観た方が楽しめるだろう。全ての登場人物が、顔つき、体型、髪型や色など、ことごとく明確な視覚差別化がなされた、キャスティングとヘアメイクも極めて親切。そう言う点を2時間ドラマ的と言われればそうかもだが。

原作の出来がいいだけに、大きな変更のない本作もまた、観て損はない出来ではある。2時間ドラマ好きなら必見か。


tsubuanco at 20:44│Comments(0)TrackBack(1)clip!映画 

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1. 【ゼロ時間の謎】  [ 日々のつぶやき ]   2008年04月14日 16:30
監督:パスカル・トマ 出演:メルヴィル・プポー、キアラ・マストロヤンニ、ダニエル・ダリュー 「リッチな叔母の別荘に集まった人たち。ギョームは若く美しいがヒステリックな妻キャロリーヌと共に訪れた。知的で物静かな前妻オードも参加すると聞いて妻はキリキリ

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