2008年03月09日

ドラえもん のび太と緑の巨人伝 13点(100点満点中)

大きな事はできません
公式サイト

新生ドラえもん映画の第三弾。初期映画(大長編)のリメイクだった前二作とは異なり、今回は短編『さらばキー坊』をベースにスケールをグレードアップさせた内容となっている。

短編『森は生きている』もベースだと言及している一部媒体もあるが、特に内容的な関わりはない。むしろ緑に侵されていく地球の描写などはSF短編『みどりの守り神』や大長編『雲の王国』の大洪水を意識したものだろう。

そもそも第一作目『のび太の恐竜』が既発表の中編の長編化である事からも、その企画意図自体は決して誤りではない。だが、オリジンを"第一話"とし、その"もしも帰した先が間違っていたら"としての続きを、非日常への冒険ストーリーとして発展させた『恐竜』に対し、メインストーリーは出会いから別れまで終始、あくまでもオリジンに沿ったものである今回は、短くて済む内容、いやむしろ簡潔に短編としてまとめられているからこそ含蓄や完成度が優れていたものを、無駄に水増しし膨らませただけの印象となっているのは問題だ。

様々な事物、事象がことごとく"その場限り"でしかない事が、その印象の元となっている。ところどころで挿入されるオーバーリアクションなギャグに関しても同様、ドラえもんが鉄塔に激しく頭をぶつけるギャグ場面では、キー坊が登場するだけでなく全体的な構図やテーマが似通っている『雲の王国』における"壊れたドラえもん"を想起させ、これがピンチの伏線になるのかと思わせておいて結局何もなく、変顔で笑わせる事と特定地点に墜落させる場面転換との、やはりその場限りの要素でしかない。

そうして、ブツ切りの単発要素が羅列されるばかりで、全体としての構成が極めて散漫に尽き、原作に準拠するエピソードと、オリジナルで追加したそれとが上手く絡み合わさっていないのだ。

全体的な演出および展開のテンポが悪く、冗長でダレを禁じ得ない事もまた、先述の水増し感の要因となっている。"その場限り"にも通ずるものだが、例えば植物自動化液を拾った苗木にかける場面にて、やたらと大きい瓶が取り出され、それを持ち上げようとドラとのび太が二人掛かりでヨタヨタする演出がやたらと長く、それをドバドバと苗木にかける動作もこれまた長く、かけすぎて溢れまくっている事を印象づけておきながら、結局そうした一連の行動が、ただ"薬をかけた"以上の意味、意義、あるいは効果とは全くなり得ておらず、ただ無駄に時間をかけただけでしかない。

そうした無駄なもたつき、無駄な反復が全編通して詰め込まれているため、レギュラー番組枠で済む話を2時間に引き延ばしただけとしか感じられないのだ。

今回、ドラえもんの使える道具が大きく制限されている事自体は、『大魔境』や『雲の王国』など、ドラえもん自身や道具の使用に制限を課す事で、冒険の必然やバトルのピンチを盛り上げ、そんな状況でも可能な範囲で工夫をこらし局面を打破させて物語を盛り上げた前例があるだけに、狙いは決して悪くない。にしても、現実として、単にドラえもんがあまり道具を使わない言い訳に用いられているだけで、そのマイナスをどうにかして解決する肝心の展開がないため、ただ大局的な流れに翻弄されているだけの、局面に能動的に挑めない無力な傍観者としての立ち位置に陥りがちとなり、これではドラえもんの映画である意味すら極めて希薄だ。

何をどうすれば最終的な事態が解決するのかの指針が不明瞭なまま、事象のスケールだけが無闇矢鱈と拡大し、ますます一個人にすぎないドラ達には手出しが出来なくなってしまう、クライマックスの展開そのものがその要因となっているのだから、盛り上がるべきクライマックスは当然、観客もまた"蚊帳の外"となってしまい全く盛り上がる事が出来ないハメに陥ってしまう。これは致命的。

先述の"指針"や、前半に登場した"緑アンテナ"など、その場における重要ファクターと思わせながら、それが具体的に何かという肝心な説明を充分に行わない事が、冗長感や内容の薄さ、観客置いてけぼり状態を更に推し進めているのだから、何よりもまずわかりやすい事が大命題となる、子供を中心とした家族向け映画としては完全に失格だ。

タンマウォッチの発動も偶然なら停止も偶然で、そこに何の人為も絡まないなどは究極だ。大長編では、早い段階でさりげなく提示されていた秘密道具に関する伏線が、後に事態の解決法として再び活きてくる、観客の納得とカタルシスを生む構成が王道であり、それを踏まえないなら代わる工夫が必要な筈が、何も無しとは呆れる。(桃太郎印のきびだんごで恐竜を手なずけ遊んでいた場面 → 恐竜ハンターがけしかけたティラノがその恐竜で大逆転『恐竜』、「全ての道具には効力時間がある」の台詞 → 処刑寸前にスモールライトの効力が切れて大逆転『宇宙小戦争』、などが相当)

ドラやのび太達が"異世界"へと冒険する、大長編ドラの定型パターンは、まず最初は遊びの延長線上として、冒険やキャンプの"楽しさ"を秘密道具の活用と併せて描き、観客の子供心をワクワクさせて作品世界への導入や共感、感情移入を図る上手さがその必然であった筈ながら、今回と監督が同じ『恐竜2006』で犯した失敗をまた踏んでしまい、そうした"楽しさ"を充分に描かないまま、異世界の恐さや苦しさばかりをクローズアップされては、観ている側は疲れるだけだ。

藤子原作のシンエイ動画作品なのに、何故か宮崎駿アニメの安易な模倣としか感じられない表現やキャラクター、展開、テーマが多用されている事も、作品の陳腐さをかさ上げしている要因だ。森の民の子供達や長老の棒読み演技や、彼らのビジュアルも明らかに藤子調ではなくジブリ調なあたり、何のアニメを観ているのかわからなくなってくる。

脚本の大野木寛は、TVシリーズのドラえもんも手がけているが、本作は過去にシリーズ構成を担当した、行き当たりばったりで思わせぶりにスケール大きいばかりのネガティブで苦痛な展開が延々続くエコロジーアニメ『地球少女アルジェナ』を彷彿とさせるもので、環境破壊が原因の地球滅亡の危機に際し、地球とシンクロするキャラクターの暴走と、それに振り回される無力な少年という構図まで同じなのはどうか。他作品を鑑みるに決して能力は低くない筈だが、環境問題を扱うと暴走する人らしい。

恒例のタレント声優。先述した長老役の三宅裕司は、過去の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『バットマン』で酷評された棒読み健在で興醒めだが、ヒロイン(?)リーレ王女を演じた堀北真希は流石の演技力、表現力を見せ、声質的にジブリアニメ臭の助長となっている嫌いはあるものの、心を閉ざして強がっている孤独な少女をよく演じきっていると評価出来る。くりぃむしちゅー有田は「いたの?」という印象(笑

『恐竜2006』が面白かったのは原作が面白かったからだけか、とすら思わされる程の失望に終わった今回、偉大なる天才藤子・F・不二雄に勝負を挑んで敵う人材などそうそういるわけもないのだから、素直に原作の微調整再生産に務めるべきではないか、というのが正直な感想だ。

子供に見せるにしてもあまり勧められない失敗作。大人なら尚更退屈なだけだ。家で旧作でも観ている方が有意義だろう。

エンドロール後の次作予告にて、一瞬だけ原作版のチャミーが見切れた事から、次は『宇宙開拓史』とほぼ確定か。ギラーミンとのび太の決闘場面が映像化される事を期待したい。

『のび太の恐竜2006』レビュー
『のび太の新魔界大冒険 7人の魔法使い』レビュー



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この記事へのコメント

1. Posted by なんちゃん   2008年03月12日 06:22
映画見てないんですけど
先生が亡くなってから暴走してますよね
たまに見るのが安らぎなのに、新しい映像も声も受け付けない
2. Posted by つぶあんこ   2008年03月12日 17:59
声は馴れでしょう。
3. Posted by 咲くや   2008年03月17日 15:47
つぶあんこさん、初めまして。
最近楽しく読ませていただいています。
昨日観たのですが、伏線と思われたのに、そうでなかったり、結局緑の巨人を召還(?)するのになんでキー坊が必要だったのか、など、一番重要なところすら理解できず、わたしゃいつの間にこんなアホな人間に成り果てたのか、と、とぼとぼ帰ってまいりました。5歳の次男に、冒頭のごみを片付けるところで、さつまいもみたいなのにはなんで豚の鼻が出なかったの?と聞かれました。子ども達にとっても重要そうなエピソードに、答えがなかったんですよね。子ども達が分かるようなあの機械の説明はいつあるんだろう、と思っている間に映画が終わってしまいまして。
4. Posted by 咲くや   2008年03月17日 15:48
すみません、続きです。
キー坊が歩けなくなった一番のピンチの場面。なんで抱っこして水場まで運んであげないのか?と、イライライライラ。
一時が万事そんな感じでしたよねぇ?
異世界が終始恐ろしい冒険になっていたことが一番残念。
そして、お姫様の声はとってもステキでした。
初対面なのに長文失礼しましたm(_ _)m
5. Posted by sai   2008年03月18日 00:50
私が観た中で最低のドラえもんだった。
ドラえもん達がいない方がすっきり話がまとまったような気がする。
一年かけてじっくり説明するなら、あの展開で説得力が出たかも知れないが…。
勢いで押し切ろうとして結局観客置いてきぼり。
誰か止めなかったのだろうか。
6. Posted by つぶあんこ   2008年03月18日 16:49
堀北真希の熱演も報われませんよね。
7. Posted by k281   2008年04月18日 15:01
一度、公式ページの「映画の感想大募集!」のところに感想文書いてみたらどうだ?
4月25日が〆切だ。
8. Posted by sai   2009年01月18日 01:37
話が全然違う漫画版はけっこう面白くてびっくり。
9. Posted by つぶあんこ   2009年01月20日 17:20
そっちの元になったのが本来の脚本だったのかも。

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