2008年03月10日

映画 クロサギ 1点(100点満点中)

シロサギさんたら読まずに食べた
公式サイト

黒丸原作(夏原武:原案)の同名詐欺バトル漫画を実写ドラマ化した、山下智久主演によるTVドラマシリーズの劇場版。

TVシリーズは、当該クールにおいてドラマ視聴率戦に惨敗したTBSとしてはマシな数字ながら決して大人気、好評とは言えず、それでも大々的に映画を作ってしまうあたりの強引さから、業界の力関係が否応無しに匂ってきて辟易する。と言っても、ドラマ放送前から映画製作まで決めてしまい、完全に引っ込みが付かなくなった『スシ王子!』よりはマトモだが。

金貸しではなく詐欺師が主人公となり、絵がスッキリした『ナニワ金融道』とでも言った趣の原作漫画は、金に翻弄され騙し騙される人間をステロタイプに描いて愚かしさを表現し、詐欺師がカモを騙す手法と同じ手法で詐欺師を騙す主人公の"手口"に焦点を当てた作劇によって、『必殺シリーズ』や『ワイルド7』などのにも類する、「毒をもって毒を制す」ピカレスク勧善懲悪ストーリーが小気味よい良作と言える。

その原作、かなりの御都合主義やあざといまでの登場人物の頭の悪さなどツッコミどころは多々ありつつも、ディフォルメされた絵で描かれている漫画だからと、所詮は"作りごと"である事前認識のため大して気にはならず、むしろ現実では有り得ないからこそ割り切って楽しむ事が出来るものだったが、これが実写になると途端に、見た目のリアリティがアップしながら荒唐無稽さだけが残される事で、子供騙しのマンガストーリーにしか感じられない状態となってしまうのだ。

ドラマ版ではその問題点に何ら対策を施さず、ひたすらに原作をベースとした詐欺合戦を繰り返すのみに終始し、とても大人の視聴に堪えうる内容足り得ていなかったものの、毎回の1話内に原作のお題を一つから三つ放り込んでサクサクとテンポよく話を進めた事で、何も考えずに観ている分にはお手軽な楽しみは得られるだけの、刹那的な娯楽作としてはツッコミも含めてそれなりの出来ではあった。

しかし今回の映画版、贈答品詐欺から連鎖倒産詐欺に発展するストーリーの大枠は原作そのままだが、TVシリーズであれば1話(約45分)で済む程度のボリュームを、無理から二時間に引き延ばしているだけなため、先述したテンポの良さは完全に消え、冗長感だけが強まったものに終わっている。これでは楽しむところが無い。

とにかく総じてテンポが悪く、カット毎の尺も間も無駄に長い。長く間を取る事で情感や情緒を表現したり、観客に考える猶予を与えるといった手法で用いるならともかく、そうではなくただ長いだけ、ただダラダラしているだけなのだから退屈極まりない。

自分の詐欺が原因で人死にが出て、グダグダと悩み続ける主人公の描写を延々と続け、主人公の顔アップをやたらと長く映し続けるなどは、完全にドラマの流れを停滞させているだけの無駄時間でしかない。悩みの内容が変遷していったり、解決や解消へ向けてのビジョンが見えてくるならともかく、ただただ同じ事で悩んでいるだけでいつまでも引張り続け、結局解決はないのだから、ただダラダラしただけの時間稼ぎとしか思えない。

同じく本筋とは無関係にやたらと尺を割いているシーザーとブルータスの逸話も、主人公と桂木(山崎努)の関係や、人の信用につけ込んで裏切る詐欺師そのものの存在などの比喩のつもりなのだろうが、やはり延々と同じ様な事ばかりを言葉で説明し続けるのみでは、比喩にすらなっておらずあまりに陳腐。劇中で行われる学生演劇と同レベルの幼稚なアイディアだ。これまた無駄な時間稼ぎでしかない。映像的な工夫や面白さがあって、画面を見ているだけでも退屈しないならともかく、ひたすらテレビ的な近くて狭い画面に終始されては、一瞬見れば充分で、つまらない構図をずっと見させられるのは苦痛だ。

そうした時間稼ぎ要素ばかりが多く、肝心の本筋もいちいちテンポが悪く間ばかりとっていては、詐欺バトルの緊張感も、スムーズに作戦が展開していく気持ちよさも、ピンチにハラハラする事もなく、ただ退屈なだけだ。暗いエピソードだから照明も暗いという安易さに至っては、ただ暗くて見るのが嫌になるだけでしかない。

映画用に話を大きくしたいのなら、敵の詐欺のスケールを大きくするだけではなく(それも出来ていないが)、主人公側をいつもの単独行動に終わらせず、手段は異なれど似た過去と目的を持ちながら、"似た者同士"である事をそれぞれ認めたくはない関係にあるレギュラーキャラ、白石(加藤浩次)や神志名(哀川翔)と"結果的に共闘"する事となる様に人物を絡ませて、映画ならではのお祭り感を出すと共にバトルを盛り上げていくといった王道展開にでもすべきだろう。

だが実際にはそんな工夫は特になく、適当に原作をなぞり適当に変えた適当な仕事に終始しているため、「現金で600万」を要求した事が、詐欺としてもストーリーとしても、結果に特に絡まないなど、中途半端な"改悪"ばかりが目立つ有様だ。白石の"仕事"がダンボール組立て補助だけなど、正気とは思えない。

警察の捜査と主人公の詐欺とが平行して目的が一致し、裏と表の両方からターゲットを追い詰めていくという構図にしたかったのだろうが、警察側のドラマにおいて、独自に証拠を固めるなどの展開もなく、ただ署内で演説しているだけでは成立していないしストーリー的な面白さも皆無だ。主人公が警察すらも利用してシロサギを罠に嵌める戦術を用いるなども描ききれていない。

映画だから金をかけたかっただろうか、警察の指揮本部(?)のセットが、ハリウッド映画にありがちな司令室の劣化コピーなあたり、作り手のセンスの陳腐さが象徴されている様で苦笑させられる。あんなに暗かったら日常の事務仕事に支障が出るだろうに。

入院中の子供(吉田里琴)が大金入ったズタ袋を引きずってきても怪しまない周囲の大人達、あまつさえ、ついさっきまで見捨てようとしていた背広男まで拍手しているに至っては、感動どころかツッコミまくりとなり、バカがバカを対象に作ったバカ作品だとつくづく思い知らされる次第だ。

笑福亭鶴瓶の出番や扱いも取ってつけた様なもので、何故コインランドリーにいたのか説明がないのでは、話として成立していない。堀北真希と市川由衣は完全に不要。岸辺シローが詐欺師の親玉なのは笑えるが、笑えてはダメだろう。

"テレビ局映画"の悪い部分が全て寄り集まった究極の作品であり、テレビ放送された際に早送りしながら観るだけで充分だ。

年内に公開を控えている、同じくTBSドラマの映画版『花より男子 ファイナル』も監督が同じというのがあまりに不安。



tsubuanco at 14:29│Comments(10)TrackBack(11)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 何も知らないんですね   2008年03月10日 18:07
スシ王子は映画が先に決まっていたんですよ。
あくまでも、映画の宣伝に過ぎないんです。
2. Posted by つぶあんこ   2008年03月10日 22:16
だからそう書いてるじゃないっすか(笑
4. Posted by うほっほ   2008年03月11日 18:32
ちょっと言葉使いが悪いかと…いくら出来の良くない映画でもあんまりキツい言葉が多いと反感持たれちゃうかもっす!
5. Posted by なんちゃん   2008年03月12日 06:19
5 1点でも多いですね(笑)
試写で観ましたが、評価するような映画でもないかも
6. Posted by つぶあんこ   2008年03月12日 17:56
「なんでこんなの観てるんだろう自分…」と、鑑賞中に公開した映画は久々です。
7. Posted by 力薬   2008年03月13日 00:39
ドラマ版視聴脱落されたのに、しかも大半のスタッフ続投の映画版に足を運ぶのは無謀かとも…(ドラマ本編が微妙なのは至極同意です)

まあ客の大半は「山Pの映ったフィルムが見たいから鑑賞にきた」のでしょう、この映画が「プロポーズ大作戦」でも問題はないんですよね(実際は大アリですが)…
スタッフもそう割り切ってたのでしょうか…酷い話です

花男は脚本が別の人なら問題はわずかでも解消されるかも、では…?
8. Posted by つぶあんこ   2008年03月13日 17:01
花男はストーリーが完全オリジナルというのも不安なんですよね。
9. Posted by まな   2008年03月24日 09:28
一点わらた(笑)
こういう大したことないドラマが映画化されてしまうのは、完全に局というよりはジャニーズ至上主義の業界が生み出した悪癖ですね
10. Posted by つぶあんこ   2008年03月26日 21:50
ジャニーズ主導=悪とも限らないんですけどね。例は特に浮かびませんが(笑
11. Posted by 飴   2008年04月16日 00:02
原作は結構面白いんですよ。だから映画にするんなら、キャストやスタッフ全部変えて、全く別物でやってほしかった。
ミナミの帝王くらいのノリで…(笑)
マイフェアレディ大地真央が銀座のママて…ぷっ。

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