2008年03月17日

ダージリン急行 41点(100点満点中)

ここに座ってくれ 足を組んでくれ
公式サイト

ウェス・アンダーソン監督による最新作。オーウェン・ウィルソンやジェイソン・シュワルツマンら"いつものメンバー"に、エイドリアン・ブロディが加わった三兄弟の、インドからヒマラヤへの旅を描いたロードムービー。

仲の良くない三兄弟が、親の死後に宗教色の強い地を旅行する、という内容は、近作『サン・ジャックへの道』にも似たものだが、これは寓話や昔話にも用いられる普遍的なギミックであり、特定作品を挙げてどうこういう類いの事ではない。(とは言え、性別こそ一部異なれど、三兄弟のキャラクター設定、特に女好きの末弟などは似すぎかもしれないが)

メインストーリーよりも、俳優のビジュアル的キャラクター性に依存した人物設定や、小道具や衣装、背景らの美術に見せるオシャレセンス、ベタでツッコミがない小ネタ、BGMまたは現実音楽として用いられる歌曲の選択、といったあたりが、同監督の持ち味であり評価を受けているところだろう。本作にもそうした傾向は強く見られる。

だが、初期作品『天才マックスの世界』などでは、その"個性"を新しいものとして受け止める事が出来、発見や感心の楽しみを得られたものの、流石に似た路線ばかりを繰り返されると辟易する。いくら評価されたからといってワンパターンに陥っては、新作を作る意味すら希薄だ。

結局、出演者や舞台が少しずつ変わっていく以外、何ら変化や進歩が見られない事で、本質的な部分での通俗性や陳腐さが見る見る露呈しているのが実情であり、本作も違わず。

本作においてメタファーとして用いられている大きなトランクが、その通俗性のメタファーともなっているのは皮肉か。確かに最終的にはそれを捨てて身軽になる展開とはされているものの、そこに至るまでの小道具用法として、特注デザインのブランドバッグである事を宣伝でも謳っている通り、劇中で連呼される"スピリチュアル"なる言葉に何ら疑問を抱かず心酔する類いの、憧憬や物欲を喚起するものである事は間違いなく、それをこれ見よがしに前面に押し出しているのだから、俗極まりないと見ざるを得ない。

"センスがいい"とされる音楽の使い方も同様。あまりにストレートで陳腐な歌詞を、作品テーマそのままの言葉として聞かせるなど、ベタを通りこして子供騙しである。それでいてラストが『オー、シャンゼリゼ』な事で意表を突き脱力させようとの狙いもまた、あまりに底が浅く、作り手の狙いとは違う意味で脱力させられる。単純に、女を招き入れるシチュエーションで決まって曲を流す末弟、といった、ネタ的用法では面白いが。

何より、宗教色の強い地域を舞台とし、「スピリチュアル・ジャーニー」と銘打っておきながら、ヒンズー教の法院にて主人公達に十字を切らせるなどえは、採り上げている異教を、サイケデリックでオリエンタルな"興味本位"としてしか扱わず、敬意というものがまるで見られない、キリスト教徒の西洋人特有の見下した姿勢以外の何ものでもなく、物事の上辺しか捉えていない中身のなさが完全に露呈している。

ヒマラヤの奥で修行しているといいながら、辿り着いた先がやはりカトリック修道院であるなど事も同様。まず作り手自身が、自分の小さく凝り固まった殻を破れていないのでは、自立や解放をテーマとした作品など、本当の意味で作れよう筈もないのだ。

ただし、靴を盗まれた後ずっと靴が左右違うままで、その事を殊更に突っ込む様な演出や映像を用いなかったり、長兄がメニューを勝手に決めるネタを二回繰り返してその場の笑いとし、かなり後の忘れた頃に、今度は母が同じ事をして笑いを倍加させる、といった、上辺としての小ネタコメディとしての要素において、秀逸なギャグセンスが光る部分が多々ある事は、素直に評価出来るところだ。

食堂で読まれた小説の内容が父の葬儀の日の出来事であると、これまた忘れた頃に判明し、書籍化されている小説の内容が、上映前の短編『ホテル・シュヴァリエ』の事であるとまた気づかせるなど、ダラダラとした一本道に見せかけ、観客の記憶を行き来させて感心させる様な構成も面白い。

後半でこれまでの総ざらえかと思わせる走馬灯演出を見せて、そろそろ終わりかと観客に思わせておいてまだまだ終わらないなどの、良い意味でバカにした様な構成も小憎いものだ。最初と最後にビル・マーレイを登場させて且つ似たシチュエーションを用い、その場での行動の違いを際立たせるなども、基本に忠実な構成と言える。

ただやはり、トランクに限らず、例えばベルトなど、物に対する執着を自己中心性、無意味な自意識のメタファーとして用い、その動向によって人物の性格や関係性変化を表現する小道具演出や作劇は通俗にすぎるもので、痛々しさを禁じ得ないが。

この映画を無思慮に評価していれば"センスのいい人"っぽく自分を見せかける事が出来る、との点においては、"スピリチュアル・ロードムービー"なる謳い文句に象徴される層にはズバリど真ん中の、上辺をそれっぽく飾って誤摩化す仕事は充分なされているものの、本当の意味での精神性の奥深さには及ぶべくもない、通俗、軽薄なオシャレ映画に終わっている。

同じネタでも面白いものが出来る事は『サン・ジャックへの道』が既に証明しているのだから、もう二、三捻りほど欲しかった。

短編に登場するナタリー・ポートマン、『マゴリアムおじさん〜』時の水前寺清子から転じ森昌子の様な髪型であるのは笑えつつも、どんな髪型でも美人に変わりない完璧な美貌は見事。全裸になり尻まで見せながら、盗撮画像で発表済みな乳首だけは死守する堅固ぶりには畏れ入るが。



tsubuanco at 14:37│Comments(3)TrackBack(12)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 佐藤秀   2008年03月18日 23:33
精緻な分析、恐れ入りやです。私は途中で心地よい眠気に襲われ、細かいことはどうでもいいや、てな気分になってしまいました。それもこの映画の魅力の一つかなあ。
2. Posted by つぶあんこ   2008年03月22日 17:16
細かい事を言うのが当ブログの方向性ですんで。スンマセン。
3. Posted by kimion20002000   2009年01月13日 20:20
>全裸になり尻まで見せながら、盗撮画像で発表済みな乳首だけは死守する堅固ぶりには畏れ入るが。

ああ、そんなエピソードがあるんですか。おやじはそのあたり、疎いもので(笑)

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