2008年03月22日

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 88点(100点満点中)

僕たちは、実は革命という言葉の格好良さだけでついてきたんです!
公式サイト

若松孝二監督が自ら資金と人材を集め、私財を投げうって製作(ついでに別荘も破壊)。連合赤軍の黎明からあさま山荘事件までの"道程"を、当の活動家達からの視点で追う、"実録"映画。

あさま山荘事件やその前段となる山岳ベース事件を題材とした映画は、これまでにも『光の雨』『鬼畜大宴会』そして『突入せよ!あさま山荘事件』らが存在する。

だが、人物名を実名と変えたフィクションの体裁である『光の雨』、事件そのものの描写のみを切り取った『鬼畜大宴会』、官憲側の外からの視点で事件を描いた『突入せよ!〜』といった風に、当事者のリアルに拠った作品は、本作が初と言っていいだろう。

実際に事件前から重信房子や遠山美枝子と交流があり、現在に至るまで存命の当事者達への取材を繰り返し、事の善悪ではなく事実を事実としてただ見せつけ、判断を観る者に委ねる"勇気"ある方向性をとった本作、まさに若松孝二でなければ成し得なかった仕事と断言出来る、極めて貴重な作品である。

実録、道程、のタイトル通り、ただ事件のみを描くのではなく、そうなるに至った社会的背景と、その中で個々人が辿った運命とを、多数の活動家達にそれぞれ視点を振り、時代そのものを描こうとしている事がまず、本作の評価点だろう。点ではなく線として、歴史の帰結として事件を捉えているのだ。

序盤では、実際の報道映像記録映像を多用し、60年安保闘争から活発になり始めた、組織化する学生運動の成り立ちを、再現ドキュメントの体で提示し、事情をよく知らない観客でも、ある程度の流れを掴める様に説明すると共に、低予算で撮られた事から画面に現われるチープさが、ドキュメントの体を成す事であまり気にならなくなる効果ともなっている。

もちろん、それに甘えて映画としての演出や作画を怠っているなどは決して無い。演説を聞いている重信房子(伴杏里)を画面の中心に据え、フルショットから徐々にクローズアップしていき、彼女がこの時点でのメインであると知らせた上で、そのアップ画面の手前に遠山美枝子(坂井真紀)がフレームインして2ショットとなり、活動に参入する二人の邂逅を印象的に描いているシーンなど、若松孝二の持ち味であるアナーキーさとは異なるが、要所要所に絵になるドラマティックな映像を用意しているのは流石。

実はあさま山荘よりこちらが主目ではないかとも思わされる、山岳ベース事件の描写は、有りようを極めて生々しく、執拗な言語と肉体の暴力を長回しを多用して見せ、リアルな臨場感を醸して観客を多いに戸惑わせ不快にさせる、入念な演出が恐ろしいほどに決まっている。

特に監督にとって思い入れのあるであろう、遠山美枝子が追い詰められ死んでいく様は、本作のクライマックスと称して過言ではないものに。特殊メイクによる、腫れ上がり変わり果てた面相のビジュアル的な凄惨さだけでなく、その顔をわざわざ鏡で自身に見せつける、永田洋子(並木愛枝)のとことんの鬼畜ぶりなど、精神面での追い詰めによる絶望と、今際の際に彼女が回想する、運動に加わった当初の希望に満ちた顔とのギャップにより、観客のテンションは地の底まで叩き落とされる事となる。

その永田洋子、実録を謳う作品ながら、次なるターゲットを背後から冷たく見据えるシチュエーションを多用するなど、サイコサスペンスに登場する悪女のごときキャラクター描写が徹底されており、腹が立つ程に恐ろしい名演技である。だが、彼女がそうなるに至る変容がさして描写されておらず、連合赤軍結成以前の段階から既に、冷酷に仲間を制裁、処刑する様を強調するなど、やはり監督の私情が入ったのか、本来の作品意図からは外れている感もある。

もう一人の指導者である森恒夫(地曵豪)は、一度逃亡した過去を持つ返り咲きである事を、時系列に沿って各所に挿入しているため、その過去への自身の中での後ろめたさが背景となり、殊更に地位と権力に固執する様になったと容易に理解出来るだけに、永田の背景が作中であまり語られなかったのは惜しい。3時間を超える長尺を持ってしても描き足りないだけの事実が、一連の事件にはあるのだと気づかされはするが。

「女を捨ててない」と粛正相手に突きつける永田自身が実は、その時その時のリーダー格に擦り寄って地位を確保しているなど"女"を利用し、他の女性に対しては明らかに嫉妬からとしか思えない難癖をつけて死に至らしめていくのは、中国史における呂后や西太后、江青らを彷彿させるものだ。悪女が権力を握ると、男の独裁者より歯止めが利かなくなる、歴史の必然がまさに再現されている様で興味深い。

メンバーの性愛関係を咎め、街に下りた際に銭湯に行った者を咎めておいて、自分達はきれいな布団の上でセックスしている描写を、暗く閉塞した山岳ベースの光景と対称の様に見せつけ、実は最も総括、共産主義化から程遠いのは誰なのかを明示するなど、直球と皮肉を入り混ぜた、森と永田の自覚無き非道ぶりは、観客をいちいち不快にさせるものだ。でありながら、最期まで己の内なる弱さに負け続けた森の末路と、現実を生き続ける永田の差異など、決して一面的なカテゴライズを行わない姿勢は見事。

彼らの情熱や志が空転し落ちぶれていく理由として、総じてあまりに未熟であった事が見て取れるのは、作り手の意図したものだろう。真面目で高学歴で、自分を捨てて世の中を良くするためと思って立ち上がった彼らが、内へ内へと向かい殺し合い、世間から見捨てられ、ただの犯罪者に成り果てていくという図式は、この事件に限らず、あるいは右左など関係なく、真面目で未熟な人間あるいは己を持たず一方的な価値観に寄り添う人間であれば簡単に起こりうるとは、オウム真理教などを例に挙げるまでもなく、あらゆるコミュニティにおけるイジメや差別を見れば瞭然である。

だからこそ、その必然があまりに極端なかたちで噴出してしまったこの事件を、単なるバカの内輪もめと切り捨てずに、本作の様に真っ正面から見つめ直す必要が、あらゆる人間に存在するのではないか。日本人なら必見の力作と断言する。

ただし、重信房子を演じる伴杏里の台詞回しがあまりに拙かったり(おまけに美人すぎる)、どこ出身だろうと全員が標準語を話す中、何故か一人だけ不自然な関西弁を話す男がいて興醒めさせれるなど、演技、演出面での不備がところどころで気になるのは、製作環境に恵まれなかったとは言え問題だろう。原田芳雄が総じて「ひ」を「し」と発音しているのも、ナレーターとしては失格。



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この記事へのコメント

1. Posted by 特撮ファンです   2008年03月22日 20:43
加藤長兄を演じているのは、加藤和樹さんではなく、高野八誠さんです。
風見志郎ではなく、一文字隼人の方です。
2. Posted by つぶあんこ   2008年03月22日 20:50
ギャー! 見間違えてました。ご指摘ありがとうございます。修正しました。
3. Posted by CRZ   2008年03月22日 23:27
久々に骨のある日本映画を見れた気がします。
当時をニュース映像でしか知らない世代ですが、わかりやすかったですね。(確かに原田芳雄のナレーションは聞きづらかった)

永田役の人はこわかったなあ。悪女っぷりが見事でした。坂井真紀もあそこまでするとは(入浴シーンも含め)熱演でした。
4. Posted by 妄想くん   2008年03月23日 14:13
坂井真紀があんなに嫉妬されるなら伴杏里が残っていたらどうなってたことか
5. Posted by つぶあんこ   2008年03月26日 21:46
坂井真紀は『赤い文化住宅の初子』で尻見せしてますが、上も脱いだのは今回が初でしょうか。どうせなら正面から撮ってほしかったもんですが。

実物の場合、遠山美枝子と違って重信房子はしたたかそうですから、仮に現場に居合わせたら、逆に論破して永田洋子が敗北死してたかもです。

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