2008年03月27日

デッド・サイレンス 66点(100点満点中)

震える舌
公式サイト

『SAW』の監督ジェームズ・ワンと脚本リー・ワネルが再びコンビを組んで送る、腹話術人形に込められた呪いを追うホラー映画。ジェフリー・ディーバーの小説『静寂の叫び』を原作とした、96年の同題映画とは無関係だ。

両人の出世作である『SAW』は、密室ゲームの閉塞感や、派手なギミックではなく理屈で興味を惹き驚かせるストーリーテリング、そして最後に明らかとなる真相の衝撃、と、低予算である制約をマイナスとせずむしろ活用して、ホラーやサスペンスの世界における新しいスタンダードと成り得た名作だったが、本作は、そうした特色も残しつつも、あらためて原典である王道ホラー映画に挑戦したものと見受けられる。

殺人人形の恐怖を題材とした作品としては、過去に『ドールズ』(86年、北野武作品に非ず)や『チャイルドプレイ』(88年)など、更に遡れば、68年に放送された日本の特撮番組『怪奇大作戦』内の『青い血の女』など、既にホラーの1ギミックとして定着したものだ。『SAW』に登場するジグソウ人形も、その路線上に位置する用法と言えるだろう。(本作にもコッソリ登場しているが、これは悪ノリがすぎる)

本作はそうした「人形は怖い」との一般認識を踏まえた上で、古典的欧米ホラー映画のカラーを踏襲しつつ、『リング』に代表される日本ホラーをも強く意識した作りとなっている。

始まって早々に最初の呪いを展開させ、その恐怖と衝撃で一気に観客を引きずり込んでおいて、そこから本筋である謎解きドラマが進んでいく導入部や、舞台上で恥をかいた女性がキーパーソンとなり、無念で無残な死を迎えた女性の呪いが人々を襲い、主人公は謎を追ってその女性の故郷を訪ね、いろいろあって解決し助かったと思ったら実は…とのオチに至るまで、『リング』の構成に酷似している事に気づいた人は多いだろう。

これは、日本はおろかハリウッドのホラー映画のスタイルを変貌させた『リング』なる作品が、テンプレートになり得る高い完成度を誇っている事の証であり、また同時に、『SAW』を作り出したクリエーターですら、『リング』の呪縛を乗り越える事が出来ないでいる証でもある。だがしかし、流石は『SAW』の作り手だけあって、単なる模倣には終わっていないのだから見事。

徐々に明らかとなっていく真相は実は、謎解きトリックにおいてはさして重要ではない事は、人に話を聞くだけでサクサク進んでいく展開からも瞭然である。本当の狙いは最後の最後で明らかとなる二段オチにあり、そこまでのストーリーが全てそのオチの準備であると提示される構成は、『SAW』と同様のものだ。

二つのオチそのものは、過去のホラー、猟奇作品などに同種のギミックが見受けられもするが、そこに至る直前まで真相に気づかせない様に、描写、演出が徹底されている事に注視すべきである。「途中で予想出来た」との声は、それは画面上に用意されている要素からではなく、脳内で先回りして思い描いたストーリーにおけるものに過ぎない筈。

そのオチを提示される事で、これまでの展開、描写において、オチへと導くための必然が用意されていた事にまで思いを至らせられ、納得、感心させられるべく、丁寧にフラッシュバックにて提示する手法を用いているのは、『SAW』と同様であり、作品の主目がここにあると確信出来る。

結局はそのオチの前振りに過ぎなかった本編ストーリーにおけるホラー描写も、「くるぞ、くるぞ〜」とジワジワと焦らし、緊張と期待を高めた上で急転させて驚かせ怖がらせる、という、やはり『リング』を強く意識したと思しく、呪い、幽霊ホラーとして的確な表現を巧みに重ねており、飽きの来ない様に構成されており娯楽性は高い。

『SAW』シリーズの様に、殊更に鮮血や臓物が飛び散るといった激しい残酷描写は控えめで、あくまでも呪いや人形による不気味さを主軸としつつ、全くの異形ではなく普通の人体から少し歪めた様を、呪い殺された犠牲者の姿として見せる事で、人体および人形を題材としている作品の特徴を活かした、ビジュアル的おぞましさを表現しているのも巧い。

人間を模した人形が持つ、人間でありながら人形の意匠を加えられた存在の持つ、それぞれ同じく不自然なおぞましさを同期させて観客の不快を生むべく作られている、ビジュアル的な要素をどう見るかで、本作の評価は大きく分かれそうにも思えるが、それは個々の感性の問題だろう。

刑事を悪役とし、いちいち主人公の邪魔をさせる事で、観客は刑事をイヤな奴だと思い、主人公の心情とシンクロして感情移入が果たされる事となる、人物配置や動かし方も的確だ。

ただし、いくら重要ではないとしても、何故今になって呪いが再開されたのか、完璧な人形が完成したからだとすれば、誰が作ったのかが気になるところだし、既に殺された人と生き残っている人の違いや、人形が発端となる事はわかっても、どんなシステムで呪いが発動し人を殺しているのかなど、曖昧な部分が多すぎるのは、脚本として乱暴に感じる。

惨殺死体が家族写真のごとく配置されている写真群も、視覚的なおぞましさは確かに強いが、ストーリーとしての必然が薄いのは困る。劇場の壁の隙間に主人公が入り込んで消える場面も、単に観客を驚かせたいだけとバレバレで、そう行動する必然が全くない、作為的にすぎるもので逆に興醒めさせられる。

オチを見た後にまた最初から見直したくてたまらなくなる『SAW』とは異なり、本作は確かに楽しめたが一度観たら充分と思わされてしまうのは、そうした至らなさによる部分が、あるいは大きいのだろう。

だがそんな不満も、オチからくる納得で綺麗に一掃され鑑賞後感はスッキリなのだから、作り手の狙いは充分に果たされているのだ。人によってはそれを、思うツボ、とも言うだろうが。


tsubuanco at 15:05│Comments(1)TrackBack(7)clip!映画 

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1. Posted by momo   2008年07月14日 00:59
4 ジグソウ人形どの辺で出てました?
見逃した〜〜〜〜(涙)

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