2008年04月06日

夜顔 58点(100点満点中)

箱の中身は何だろなゲーム!ピードンドンパフパフー
公式サイト

スペインの映画監督ルイス・ブニュエルが1967年に手がけたフランス映画『昼顔』の続編として、リアルタイムと同様に約40年後が描かれる、マノエル・ド・オリヴェイラ監督作品。このオリヴェイラ監督、本作が作られた2006年の時点で98歳で、現在もまだ新作に挑み続けているのだから凄い。

『昼顔』は、カトリーヌ・ドヌーヴ演じる人妻セブリーヌの内に潜む被虐願望をシュールな白日夢としてフェティッシュに映像化し、昼メロやエロ劇画めいた大筋ながら、独特の作劇と演出によって強く印象を残した作品であったが、本作の主人公となる40年後のヘンリは、前作と同じミシェル・ピコリがそのまま演じ、時の流れを顕著としているのに対し、セブリーヌを演じているのは何故かドヌーヴではないため、違和感は否めない。

本作はこれ一本で独立した作品と言うよりも、あくまでも『昼顔』を観ている事前提で作られたリスペクト的作品であるとは、前作から引き継がれている事物や事象に対しての説明が不足しすぎている事や、作品時間の短さからも明らかだ。それなのに肝心のヒロインが別人というのは、ドヌーヴ自身が現役なだけに、残念どころでは済まないだろう。

ただし、その事に眼を瞑って受け入れれば、時にストレートに、時に婉曲に、随所に仕込まれている前作を想起させるネタや演出の数々を見て取り、オリヴェイラが『昼顔』をお題に遊び尽くした成果を、ニヤニヤと楽しみ続ける事は可能。

たとえば終盤、激昂したセヴリーヌがテーブル上の食器を引っくり返して退場する場面は、『昼顔』にて彼女が花瓶を床に落とす場面を彷彿とさせるものだ。過去に彼女が動揺から引き起こした事象の近似を見せる事で、彼女の内面的な心象を観客に想像させる仕掛けである。酒場においてヘンリが、二人組の娼婦に目もくれない描写は、『昼顔』にてカフェに入ってきた二人組の若い娘に目を惹かれる描写との対比であり、40年を経ての彼の内的変化を表現する演出となっている。

など、あらゆる部分で『昼顔』と表裏一体のワンセットで楽しませる仕掛けが散りばめられている。これはオマージュ的意味合いとして作られた続編という、本作の性質からは必然であり、これだけ観てよくわからないと感じるのは、観る側の認識の問題だ。

事象的なシチュエーションの踏襲による仕掛けだけでなく、男女それぞれの執着と、それによって起こる皮肉な結末を描いていた『昼顔』と同様に、"執着"をストーリー展開の主軸に用いている事も見逃せない。

男の執着による急転をクライマックスに配置していると見せかけて、その後に実は女の執着こそが最も救いの無い状況を導いているのだと、終盤に突き放して見せた『昼顔』、今回もまた、セヴリーヌを執拗にストーキングするヘンリの"執着"のストーリーと思わせておいて、最後の最後で実は執着していたのはセヴリーヌの側だった、と、今度は必然の様に描いていみせて納得させる構成となっている。

それらの様にことごとく『昼顔』の要素を引き継ぎ、前作ラストにて敢えて明示されなかった最後の疑問を、今回も最後の駆け引き材料としておきながら、やはり解答は明示せずにそのまま終わらせてしまうのは、オリヴェイラ監督の原典に対する敬意がよく表れているところだろう。

何せ勝手に作った続編にて、オリジンで敢えて明かされなかった疑問を勝手に解釈し解答と言い張ってしまうなど、原典への陵辱と呼んで全く差し支えない暴挙であり、無粋、陳腐にな愚行に他ならない。いや、たとえオリジン製作者自身によるものだとしても、今更答えを見せて前作の構成を無意味化させるなどは、誰一人望んでいない筈。少なくとも、ものの分別のつく鑑賞者ならば。

そうして、ブニュエルあるいは『昼顔』に対する入念なリスペクトが満たされている上で、オリヴェイラ自身の作家性をも表出させ昇華させている事こそが、本作の最大の存在意義ではないだろうか。長回しによる出と入り、移動だけでストーリーを進め、饒舌に話し続ける局面の一方で、全くの無言で食事を続けるだけで、駆け引きやスタンスの変化を表現するなど、老いて尚衰えない演出、表現の巧みさには目を奪われる。

のだが、ドヴォルザークの楽曲を現実音楽とBGMの双方にて多用し、それに乗せて昼と夜の遠景を延々映し続けたり、種々の女神像を印象的に捉えてみせるなどの、ドラマ展開の間を繋ぐイメージカットのあれこれは、それをそこに用いる意図は理解出来るものの、ビジュアルよりも音楽を優先させたかの様な長尺はあまりにも長すぎ、ただでさえ単純な物語を、更に希釈して引き延ばしたとの印象を受けてしまうのは問題か。これなら本当に短編としてこぎれいに引き締めた方が、より完成度は高まっていたとも思わされる。

やはり正体を明かされないままマクガフィンであり続ける"箱"の登場させ方も、面白くはあるが、何故彼がその箱の事を知っていたのかまでが謎なのは乱暴か。

兎にも角にも『昼顔』を観ていない事には始まらない。ミニシアターで上映される際はセットで観られる場合が多いだろうから、心配ないとは思うが。



tsubuanco at 13:28│Comments(1)TrackBack(5)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by わとそん   2008年11月05日 21:17
WOWOWで見ました。
ブニュエル好きだからかまあまあ面白かったです。
つぶあんこさんの感想も私自分が表現しにくかった印象をコトバにしてくれたようでいいですね。
たしかに冗長で眠たくなるとこあったし。

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