2008年04月08日

悲しみが乾くまで 65点(100点満点中)

Red desire 悲しみを焼き尽くせ
公式サイト

デンマークの女性監督スサンネ・ビアの、ハリウッド進出第一弾作品。

家族を題材に、人物の対比や投影表現を駆使して苦難や克服を描くヒューマンドラマ、との基本スタイルは変わらないが、これまでの本国作品の域を出る事なく、むしろ自家中毒に陥ってしまった嫌いまで感じられるのは、監督以外のスタッフがハリウッド人へとなるなど、製作環境の大きな変化によって新しい試みに躊躇したためだろうか。

本作が同監督とのファーストコンタクトであれば、その解釈や表現の巧みさに驚く事も出来るかもしれないが、映画好きならばさすがに『アフター・ウェディング』くらいは観ているだろうから、本作に幾分の物足らなさを感じた人も多いとは想像に難くない。

とは言え、舞台をデンマークからアメリカに移した本作、ストーリーのキーとなる事物においても、銃やドラッグなどアメリカの暗部を象徴するものを用いているあたりは、ビア作品が現代の寓話であり、普遍的な人間像やコミュニティ像が戯画化されたものである事の、変わらぬ証と言える。

理不尽な犯罪で夫を失った痛手を抱える主人公オードリー(ハル・ベリー)の、内面的な現実逃避の傷深さの投影として、夫の親友ジェリー(ベニチオ・デル・トロ)の薬物中毒を、次元をシフトさせた相似形として配置している事が、本作の主軸となる。

オードリーの内的問題を、目や表情をクローズアップする監督お馴染みの手法によって、あるいは子供に対する極端な態度変化や、ちょっとした一人作業における破綻によって表現してはいるが、それだけに終わらず、ジェリーが逃避として薬物を用いる描写および、中毒症状の苦悶、およびその克服といった、わかりやすくインパクトの強い事象を意図的に強調する事で、オードリーの中でもまた、目に見えないところで同様の辛苦が存在し、克服が困難であると、心の痛みを観客に伝えるべく描かれているのだ。

そうしてオードリーの内的苦痛までもが婉曲に且つ確実に提示されているからこそ、彼女が特にジェリーに対してとる、一見身勝手に思える行動のあれこれからも、むしろ彼女の傷の深さの方を感じ取れてしまう事となり、彼女を嫌悪する気持ちなど生まれよう筈も無い。観客の印象や感情を狙い通りにコントロールする巧みさも変わらず。そうした身勝手ささえも、表向きは贖罪など上辺の行為で覆ってしまい、人間の心理や動向を一面化させていないのだ。

再び薬物に逃避したジェリーを探しにスラムへと足を踏み入れる展開が、目に見える事象としては危険に赴きながらも、内面的にはいまだ内向が続き解決が遠い、と、外と内の乖離、正対を表現する秀逸な対比表現として成立しているなど、二人の相似を用いた作劇、演出の確かさが、リアルな寓話という相反する状態をも成立させている。

男性像と女性像、あるいは子供の使い方の上手さもまた、これまでと変わらないもの。だが、いなくなった夫の代わりに来た男に懐く子供達、との図式は『ある愛の風景』と変わらず、喪失によって心が壊れていく妻の変化も、同作の夫の変化の性別を逆転させたものでしかなく、安易に一線を越えない二人など、悪い意味でのパターン、マンネリが感じられる部分が多々見られる事は、作品の存在価値を損ねていると言わざるを得ない。

だが、原題『THINGS WE LOST IN THE FIRE』の通りに喪失を共通事項とし、家族だけでなく隣人にもそれを担わせ、失ってあるいは失いそうになって気づくものを、各々のドラマとして表現しているのは、今までの作品とは少し異なる世界の広げ方とも見て取れる。

変わらぬ上手さ、見るべき部分が多いだけに、ハリウッド進出により損なわれがちな面が目につくのは残念。ドリームワークス製作だけに、スターウォーズやETなど、スピルバーグがらみの小ネタが散見されるのは収穫か。黒人が主人公となったのも同様、ハル・ベリーの半ケツ水着姿や、アレクシス・リュウェリン演じる長女の美少女ぶりなど、文字通りのブラックイズビューティフルを堪能出来るのも嬉しい。



tsubuanco at 16:16│Comments(0)TrackBack(9)clip!映画 

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公式サイト。原題Things We Lost in the Fire(私たちが火事で失ったもの)。スサンネ・ビア監督、ハル・ベリー、ベニチオ・デルトロ。舞台がシアトルの住宅街だけで2時間の作品。一見、焦点が定まらないように見えるが、2人の葛藤が濃密な時間の中で流れている。
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