2008年04月09日

MONGOL モンゴル 50点(100点満点中)

角川春樹(笑)
公式サイト

ロシアの映画監督セルゲイ・ボドロフによる、チンギス・ハーンの半生を描いた、浅野忠信主演映画。

浅野忠信がチンギス・ハーンを演じた、との情報を聞き及んで、彼がかつて『五条霊戦記』にて牛若丸(=源義経)を演じていた過去を想起し、ニヤリとさせられた人は多いだろう。

それはさておき本作、テムジン個人の人間形成や、夫婦関係に代表される人間関係に主目を置き、そうして描かれる人物像を、モンゴル帝国の成立に投影させるスタイルにて製作されている。描かれるドラマもまた、大幅に創作を加えた、むしろ神話とも称せる類いのファンタジーとなっており、史実に沿って征服者の足跡を描く歴史大作を期待した向きは面喰らうかもしれない。

だがそれ自体は観る側の問題である。父の死や自らの凋落など、古い慣習が意味をなさない様をシニカルな受難劇として展開させ、一方で自らの信念によって作り上げた規範によって勝ち得るものを匂わせていくといった様に、偉大なる帝国を築くに足る秩序をテムジンが作り出すにあたり、少年期よりの経験がいちいちそのバックボーンとして活きてくる構成は入念。略奪とレイプと裏切りなどの非道を非情で正していく様から、テムジンの王道を感じ入る事が出来る。

そのテムジンを、モンゴル人ではない浅野忠信が演じている事も、効果としては大きいのだろう。無頼を思わせる異端の風貌が、その他大勢のモンゴル人とは一線を画す存在感を醸し、無言の説得力を与えているのだから、ロシア人監督がモンゴル帝国の英雄を描く、近しい外部よりの視点だからこそ成し得たであろうこのキャスティングは正解。

一方でテムジンの妻ボルテの風貌はリアルすぎる(笑)嫌いはあるものの、備えている芯の強さは確かに感じられる表情を持っており、ルーシー・リューなどを見ても欧米人には受けるタイプなのだろう。見ようによっては貞操に無頓着ととられがちな彼女の行動の背景に、テムジンの見据える新しい秩序やモラル、王道が存在し、それは実は、二人の出会いからも瞭然な通り、そもそも彼女がテムジンに示唆したものである、との相互関係も興味深い。

囚われた妻を夫が救い、後に囚われた夫を妻が救う、逆転構図を前半と後半の山場としているのも同様。その構図を作りたいために、テムジンが西夏に奴隷として囚われるとの、史実には全く存在しない創作を、作中における重要事として強く印象づける構成をとっているのだから、本作が史実を描く歴史大作でない事は当初より明白なのだ。

だがそれにしても、囚われから脱出する各局面に代表される、あからさまな御都合主義や、裸一貫からどうやってジャムカと雌雄を決する大軍を結成出来たのかとの、観客の誰もが知りたい事をアッサリとスルーしてしまうのは、いくらなんでも乱暴にすぎる。シュールなツッコミどころとして配置しているならまだしも、大マジメなのだからズッコケる他ない。いくらファンタジー、創作とはいえ、いやだからこそ、大嘘にリアリティを持たせるための説得力を重ねる作業を、映像脚本の両面で怠ってはならない。

雄大という形容すら陳腐となる平原や山岳の圧倒的な光景を、まるでそちらがメイン被写体かの様に大きくとらえた映像の迫力が、ビジュアル的な説得力を何よりも保持し、リアルに考証されたプロップやセット、薄汚れた人物の風貌などが、さらにその説得力を底上げしているからこそ、最後の合戦場面での、荒唐無稽とも見える騎馬剣術戦もまた、ズッコケる事なく迫力を持って見る事が出来るのだから、ストーリー展開においても説得力を忘れるべきではなかった。

その合戦の戦術でも、戦後の裁定においても、テムジンが非情な王道であると徹底する作劇、演出は見事で、征服者として君臨する今後へ繋がる説得力は与えられているのだから、前段の省略されすぎが却って気にかかってしまうのは皮肉か。

合戦描写においては、俯瞰の遠景においても両勢力の趨勢だけでなく、一馬一人の動きに至るまで視認出来て戦況を見据えられる映像設計は秀逸ながら、近接した画角においては、リアルな殺し合いを見せたいのか、それとも『300』の様なケレン味溢れる血飛沫剣劇アクションとしたいのかが曖昧な迷いを感じさせられるものに終わっていたのが残念。質感がリアルなだけに、よりリアル寄りに作った方が正解だったのではとも思わされる。

ホーミーをBGMとしても多用するなど、モンゴルのリアルにこだわった作風と、創作ファンタジーとしての展開が、幾分のミスマッチを起こしている感もなくはないが、史実に忠実な歴史物語を期待しなければ、それなりに楽しむ事は可能な筈。

実のところ本作はまだ序章の段階らしいので、これ一本だけで評価を決めてしまうのも憚れるが。



tsubuanco at 17:35│Comments(2)TrackBack(21)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 健太郎   2008年04月18日 20:13
4 こんばんは。
実は初日に観てました。

台詞がモンゴル語なのと、テムジンがちゃんとモンゴル人だったのでリアルでしたね。
他にも、何処かくすんだ感じの衣装や装飾品、粗雑な食事シーン等、リアルさが伝わってきました。
浅野忠信の寡黙さがテムジンにぴったりで、どんな逆境にもめげずに乗り越える様は、正にチンギス・ハンでしたね。
(どこぞのチンギス・ハンの映画とはえらい違いますね)


やはりロシア人が監督したせいでしょうか?
テムジンの描写に畏怖を感じました。
2. Posted by つぶあんこ   2008年04月22日 18:27
逆境を乗り越えるというか、逆境を気にしない様が印象的でした。

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