2008年04月10日

うた魂♪ 43点(100点満点中)

いくらなんでも、ふるちんで悪の帝王を倒すわけにはいかん!
公式サイト

『タナカヒロシのすべて』『おばちゃんチップス』『雨の町』と、マイナーかつ微妙な作品を作り続けている田中誠監督の、夏帆主演による最新作。

みんなで合唱するお話と言えば『天使にラブソングを』、とりわけ今回は高校生なだけに『天使にラブソングを2』を想起させられ、あるいは『スウィングガールズ』らの路線を狙った企画であろうとは、誰でも考える事だろう。

のだが本作、そう見せかけて実際は、やっとこさメジャー売り出しが始まった夏帆のために作られた、アイドル映画としての側面の方がむしろ強い。それは、先に挙げた作品に類するジャンルは総じて、主人公だけでなくグループメンバーそれぞれにもスポットを当て、それぞれの問題や克服のドラマを平行して描く群像劇の体裁が取られているのに対し、本作は徹頭徹尾ヒロイン一人の問題ばかりをメインに物語が進む事からも明白。

だがまずここで問題が生じてしまう。独りよがりだったヒロインが考えを改め、チームの一員としての自覚を高めていく事が、メインテーマの一つにありながら、実際には終始ヒロインばかり中央に捉え続け、他の部員達が全て、彼女の成長を表現するための引き立て役以上の役割を与えられていないのだから、言っている事とやっている事が違うのだ。大団円をスッキリと受け入れ難くなる最大要因は、この作品構造の矛盾にあるのではないか。

それでも、絶えず前面に押し出されるヒロインが、それに耐え得る充分な魅力を備えていたならば、アイドル映画としては大成功と評せられる筈だ。だが本作、主演の夏帆の魅力を全く捉えられていないと断じて過言ではない程に、彼女の良さを殺している。これは文字通り致命的。

確かに、ポカーンと口を開けっ放しのアホ面少女、の一面こそは、本当にアホに見えるレベルにそのアホ面を映し出せている。だが役どころとしてまず、合唱部の中でも飛び抜けた美少女という設定を、見た目で納得出来る様に踏まえておかない事には、アホ面が彼女のスタンダードとなってしまい、美少女顔とアホ面のギャップによる笑いとして成立しないのだ。ために、テレビ取材スタッフの一人が彼女にだけ愛想を振りまくパターンネタなど、美少女である事が前提となっている数々の仕掛けに説得力が生まれず、共感も笑えもしない結果を生んでいる。

夏帆の魅力を本来以上に捉えきる事に成功している『天然コケッコー』『東京少女』らが既に存在し、あるいは逆に、TVドラマ『四姉妹探偵団』でも本作ほどではないが夏帆の魅力を捉えられていなかった事などを併せ考えるに、メイクや髪型にも問題があるが、何より演出や撮影のセンスによるところが大きい事は瞭然。

そして、彼女以外に登場する他の少女達に限って、ツッパリ気味なキャラクターを絶妙に演じた部長役の亜希子に始まり下級生トリオなど、前に出ずともさりげない魅力を放つ美少女達が何人もキャスティングされている事も、ヒロインが一番の美少女である設定を、どんどん無理のあるものに貶めてしまっている。他の作品ではあまり可愛く見えない岩田さゆりが、本作に限って前田亜季似の美少女に見えてしまっているのも皮肉。

特に前半に多用されているコメディとしてのギャグが、ことごとくセンスに欠けている事も問題。間寛平がらみの展開や演出に代表される様に、笑わせたいのかそうでないのか曖昧で煮え切らない、テンポの悪いネタに終始し、祖父が蛾を殺す事は後の展開に全く関係ないなど、その場限りのブツ切りの羅列ばかりでは、見ている方が困ってしまう。

序盤でバス運転手にプレッシャーを与える事がその後何も展開せず、最後の会場でいきなり運転手に再登場させても、ストーリー的にも心情的にも繋がっていないなど、とにかバラバラに終始し、狙いが全く絞れていない。序盤のバス内で石黒英雄が吹っ飛び夏帆に倒れ込んだ事も、その後に何の影響も与えていないのだからビックリする。その吹っ飛ぶ描写にしても、彼の姿がフレームインするより前に叫び声だけが聞こえ、その時点で画面内で転びつつある少年がその声の主と誤解させておいて、後からフレームインした石黒が叫んでいたのだと気づかされるのだが、そのズレが演出効果として何の意味も成しておらず、単に誤解を与えるだけなのだから、ただ失敗しているだけだ。オマケにその転びつつある少年の顔が何故か半笑いなのだから最悪。

ゴリの心の女神のエピソードもまた中途半端。回想で見せる彼女の姿は、顔を半分隠しているが誰がどう見ても薬師丸ひろ子でしかなく、歌っているのだから余計に丸わかりだ。そしてそのまま正体を隠したいのかそうでないのかが曖昧なまま、そんな事は忘れたかの様に話はどんどん進み、最後の会場での再会シーンもまた、ここで正体が明らかになった事を驚かせたいのかそうでないのかもまた曖昧で、しかもその後の展開には何も繋がらないのだ。一体何をどうしたいのか。

とにかく終始ブツ切り、散漫、中途半端の連続を、最後の合唱のテンションだけでまとめてしまうのには無理がある。先述の類似作品であれば、ヒロイン以外の頑張りも展開を通じてわかっているだけに、全ての成果としてのラストソングに感動出来るのだかが、本作はヒロインの事しか描いていないので無理だ。最後の合唱場面にて唐突に各部員のアップを挿入しているが、どんな人なのか全くわからない部員その1その2をアップにされたところで、何の背景もないのだから感動を共有出来るわけも無い。

ゴリ率いるヤンキー合唱団が尾崎豊を熱唱するくだりから与えられるエモーションは、尾崎のメロディそのものの出来の良さから与えられるものであって、劇中で語られている様な、歌い手のソウルからではない事も、音楽を聞く耳を持っていれば気づく筈。反体制で後ろ向きな歌詞を、それに反して大衆受けするメロディで聞かされるところに尾崎豊の面白さがあり、だからこそ本作でも、数々の合唱曲よりも尾崎の歌の方が頭に残ってしまうのだ。その狙いはいいが、歌に込めたソウルを伝える事が出来ていたかはまた別問題。薬師丸ひろ子が尾崎を歌う事には感動出来ても、作中においては一ストリートミュージシャンにすぎない馬の骨が歌っているだけで、何故そこまで感動したのかは表現出来ていない。

あまつさえ本作では、歌の上手さ、あるいは感動を、聴衆にそのまんま言葉で語らせてしまうのだ。音が聞こえビジョンでも表現出来る映画として最低の愚を犯してしまっているのだから、工夫の足りなさ、センスの無さが極まれりである。

そして、変顔の写真を渡される場面や、ゴリ達の特訓場面など随所にて、これ見よがしにチープかつ大仰なBGMを前面に押し出してしまっているのも、合唱が題材である本作の意義を自らスポイルしている愚行に尽きる。とにかくセンスが陳腐。

ヒロインの魅力を引き出せず、キャラクターコメディとしてもお寒い出来で、歌う事の良さをも伝えきれず、ストーリーはバラバラ、と、映画としては完全に失敗作。予想外のゴリの好演や、薬師丸ひろ子の歌う尾崎ソングや喫茶店でのエノケン合唱ら、部分的に捨て難いところがあるだけに、何とも勿体ない。



tsubuanco at 16:51│Comments(5)TrackBack(18)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by kame   2008年04月09日 14:27
レビューは本当にその通りなりですが、思いの他点数が高くて驚きました。
2. Posted by ちゃぷりん   2008年04月09日 19:52
夏帆の見た目は「リトル・ヴォイス」のように、歌によって自分に欠けていた自信を獲得するタイプなんですよね。この役は長澤まさみの方が合ってるかもしれません。私はテレビを待ちます。
3. Posted by つぶあんこ   2008年04月10日 15:27
夏帆以外の少女達は良かったんで、少し点数プラスです。

長澤まさみはもう女子高生役はダメでしょう。
4. Posted by 咲太郎   2008年04月15日 01:04
予想通りの辛口ですね。
もし、あんこさんがプロデューサーだったら、かすみ役は誰をキャスティングしますか?
5. Posted by つぶあんこ   2008年04月15日 18:47
夏帆を可愛く撮れる監督を選びなおす方が前向きかと。

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