2008年04月11日

HEY JAPANESE! Do you believe PEACE,LOVE and UNDERSTANDING? 2008 2008年、イマドキジャパニーズよ。愛と平和と理解を信じるかい? 85点(100点満点中)08-110

2億4千万の瞳
公式サイト

東京郊外のとある一夜に繰り広げられる、オムニバス群像劇。タイトルは略して『ヘイジャパ!』。

雑多な人物達によるバラバラに別れたエピソードが、少しずつ絡み合いながら同時並行でザッピングされて進んでいく、とのスタイルは、特定のタイトルを上げるまでもなく、既に一つのジャンルとして定着しているものだ。最近の邦画でも『陰日向に咲く』なる残念作が存在する。

『陰日向〜』の問題点は、底の浅い人物描写や押し付けがましい泣かせ、笑えないギャグなど、枚挙に暇が無い。一方、本作はそれとは正対し、徹底したリアルを基盤に置き、それをカリカチュアライズ、ディフォルメする事で、納得や皮肉などで観客の心を抉り込む配置、設定、作劇、演出がなされている。これが本作の成功要因であり、作り手のセンスの抗えない差異である。

例えばアパートの一室で延々とダベリ続ける二人のフリーター男性のエピソード。この場面、本当にただひたすらどうでもいい話を続けているだけながら、全く飽きる事なく見続けてしまうのは何故か。この二人、社会的には明らかな"負け組"に位置する奴らである。そいつらが、終わったばかりの合コンの反省会を、男同士で行っているのだから、男女関係においても負け組である事も瞭然だ。部屋中に貼られたグラビアポスターが、その負けっぷりを文字通り背景として支えている。

合コンで気に入った女の子(大友さゆり)をお題に、勝手に人物像を妄想して不毛なやりとりを重ね、それでいて双方で腹の探り合いをしている、と、あまりのダメっぷり、負けっぷりには笑えるどころか逆に心が痛くなる程のリアルさである。そこに母親からの電話といった、あるあるとシュールを混在させたネタを投入してメリハリをつけるなど、興味を持続させ続ける構成も秀逸。一方はオカンで、一方は姉(小嶺麗奈)と関係させる事で、この負けている二人の中でも更に勝ち負けを対比させているのだから、とことん徹底しているのだ。

こいつら二人のやりとりだけでも、短編映画として成立する面白さを備えながら、そこから更に発展させ、お題に挙げられていた少女が現在置かれている状況を、別エピソードとして展開させる事で、そちらで見せられる少女の実像と行動から、アパートの二人の更なる救いの無い負けっぷりを強調する、という様に、各エピソード、人物が、場所は離れながら対比や皮肉、相似などの図式で絡み合い、ひとつの形を成している、脚本的な練り込みは尋常ではない。

一つの場面にて話題の対象となっている人物が、別の場面で登場している人物ではないかと匂わせるなど、人物移動による明確な繋がりだけでなく、事象としては交錯していないのに繋がりを感じさせて、観客に気づかせる楽しさを与えて作品世界に没入させるなど、ソフトハード双方に細かくこだわったリンク仕掛けの数々は秀逸。妊婦として登場する女性(原田佳奈)が、オープニングで風船を膨らませていた女性と同一だった、と気づいた時の気持ちよさなども同様、発見や理解で能動的に楽しまされるのだから、ボーッと見ているだけでは損だ。

R-15指定となっている本作、おそらくはエロ方面におけるレギュレーションであると思われるが、女性の裸体が露となる映像は用いられておらず、何パターンか登場するセックスシーンも、大事な部分は見えない様に撮られている。にも拘らず、エロさを感じさせる演出や画角は極めて優れているのだから凄い。序盤の、コンビニでの川合千春の行動を、店長の視点によって見せる映像の時点からそれは顕著である。川合千春自身が備えている淫美さを、煩悩にまみれた男の視点を通す事で、よりエロい妄想が広がるべく表現されているのだ。これは一重に、監督自身のエロイマジネーションと、それを表現する技量の双方が確かなものだからこそ成し得る結果と言える。

神田沙也加西田美歩辰巳奈都子の女子高生三人組が、同じくコンビニで行う所業も同様。あくまでも店長視点を軸とする事で、大人の男が女子高生に抱いている憧れと恐怖の入り交じった感情が、映像として見事に投影され、制服の少女に犯されたり殺されたりしたい願望を持つ男なら、この時点で感極まってしまう程に的確なツボを突いて作り込まれているのだから、裸などなくとも子供に見せられないのは当然である。

50人近い人物がそれぞれの役割を担い展開される人物構図において、概して男はセックスが最大関心事のヘタレで、女は自らの性を武器に男を利用するビッチ、と大別されているのも、勝ち負けの対比を強調するための設定以上に、監督の趣味嗜好が強く現われているのではないかとも、邪推させられてしまう次第。

いしだ壱成に「ああいう連中は皆ドラッグをやってるんだ!」と言わせたり、神田沙也加の両親がそれぞれ外人の愛人を作っていたりなど、キャスティングに絡めたブラックな小ネタも意地が悪く楽しい。特に神田沙也加のそれは、劇中における彼女の人格形成の理由として、オチ的に用いているだけに、作品世界の"リアル"と現実との境界を更に曖昧模糊に引きずり込んで、観客の感情をよりモヤモヤさせる事に成功しており小憎い。

ただし終盤の事象的クライマックス的にパトカー、救急車、消防車の各エピソードを収束させる仕掛けは、フリーターや女子高生、妊婦など本筋エピソードと異なり、取ってつけた様な作為性が強く、作品世界の"リアル"を損ねている様に感じられ残念。

おそらくは現実として負け組に位置し、それを少なからず自覚している人間が観れば、痛いところを突きまくられて立ち直れなくなるであろうとも想像させられる程に、現実社会のありようを、捻くれた視点で意地悪く戯画化した、良質の群像劇でありブラックなヒューマンコメディに仕上がっている。

それにしても神田沙也加は、こんな仕事を受ける程に追い詰められているのだろうか。謎だ。



tsubuanco at 20:25│Comments(5)TrackBack(3)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 【2008-94】ヘイジャパ!  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2008年04月27日 18:30
5 人気ブログランキングの順位は? 現代都市周辺社会× イマドキジャパニーズ= フツーにかなりヤバい バカでマジメで卑猥でストイックで あきらめつつも一生懸命。 Small Life is Beautiful!! しょっぱい人生は美しい!!!!
2. HEY JAPANESE! Do you believe PEACE, LOVE and UNDERSTANDING? 2008  [ ぁの、アレ!床屋のぐるぐる回ってるヤツ! ]   2008年12月14日 18:10
タイトルの長さからわかるけどスタイルありきというかカッコから入るタイプw HEY JAPANESE! Do you believe PEACE, LOVE and UNDERSTANDING? 2008 [DVD]posted with ama...
3. 【DVD】ヘイジャパ  [ 新!やさぐれ日記 ]   2008年12月17日 21:36
▼状況 レンタルDVDにて ▼動機 面白そうな群像劇? ▼感想 面白そうだったんだけどな・・・ ▼満足度 ★★☆☆☆☆☆ いまいち ▼あらすじ 2008年の東京。国道16号線沿いの郊外にあるとある街では、上京した“自称ミュージシャン”の若者や仕事と人間関係に疲れ...

この記事へのコメント

1. Posted by サスケ   2008年04月12日 06:16
目まぐるしい街の看板、電光掲示板などにキャスト名を紛らせるオープニングから細かいとこを注意してくれと言わんばかりでしたね。
紀子の食卓のような作品と期待したばかり完全に置いてかれました。
繋がりを見せるための編集により芝居が流れてしまっていて力が抜けてしまい唯一石田壱成の台詞には吹きましたが、扱ってる題材以上のものはなく、面白味を感じませんでした。
2. Posted by つぶあんこ   2008年04月15日 17:54
それは期待するところを間違えたのでは。
3. Posted by サスケ   2008年04月15日 19:43
その通りです…。予告編の印象と本編のギャップの差でした…。

しかしヤクザのやたらカメラを意識するようでしないような気配の振り向きと、アングルが忍び込むような…なんなのか、何を捉えたいのかが分からず見てて気持ち悪かったです。あれはどういう意図があるのでしょうか…
4. Posted by つぶあんこ   2008年04月16日 16:56
気持ち悪くさせる意図でしょう。
5. Posted by サスケ   2008年04月24日 14:42
ん〜なるほど、印象のまんまですね。DVD出たらもう一度観てみようと思います。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments