2008年04月21日

名探偵コナン 戦慄の楽譜(フルスコア) 50点(100点満点中)

エコーズact.1
公式サイト

青山剛昌原作のTVアニメシリーズ、12作目の劇場版。

アレもコレもと適当に詰め込んだ要素がとっ散らかったままで、箸にも棒にもかからない子供騙しの愚作に終わった前作『紺碧の棺』から一転、脚本家が交代した今回は、作品の本道である犯罪推理ドラマに立ち返り、大人が観てもウンザリする事のない手堅い作りとなっている。

新一と蘭の過去の思い出が、本筋のクライマックスに意味を持って絡んでくるなど、キャラクターものとしての側面も備えた本シリーズの持ち味も最低限残されているものの、今回はコナン以外のレギュラーキャラの活躍は限りなく控え、ゲストキャラクターである秋庭怜子(CV:桑島法子)を主軸に据えている。ミステリードラマとしての作劇を前面に押し出した本作においては、この方向性は正解だろう。

まず秋庭怜子がいかにも怪しく見える様に、ワザとらしく思わせぶりに描写して、最も安易な予想として彼女の自演ではと疑わせ、次に彼女の婚約者のエピソードと、実際に彼女を襲うが殺しはしない人物を登場させ、婚約者が実は生きていて〜との展開へと予想をシフト。その上で、実際の真犯人はまた別の人物だった、と、観客の推測をコントロールして興味を引き続ける手法は、ミステリーの基本に忠実なものだ。

犯人の目星がついたら楽しめない、ではなく、その犯人にどうやって辿り着くのか、具体的な動機や手口がどんな風に暴かれ、明かされていくのか、あるいは安易な予想を導く思わせぶり要素を、いつどうやって覆して"意外な真相"へと展開させてくれるのか、と、過程を楽しむべく書かれているストーリーが、マンガ的なレギュラーキャラを前面に出さない方向性と合致している。

といっても、人物描写が記号的、類型的に終始し、描かれる心理や情念までもが、二時間ドラマと同レベルの、テンプレートめいたものでしかないのは、今までのシリーズと同様。犯罪動機の基盤となる人間の情念や、警察や探偵を欺いている筈の犯罪トリックの両方が、やはり二時間ドラマレベルのお約束に終始している事が、本シリーズの底の浅さを決定づけてしまっているのだ。

場面場面で用いられるアイディアや演出は、特に目新しいわけではないが、人物設定や展開の必然として面白いと感じられるものがあるだけに、それらがディテール、あるいは前後への絡みとして徹底がなく、その場限りに終わっているものが多いの事も勿体ない。

たとえば代役歌手の千草らら(CV:水谷優子)の立ち位置、描写に関して。代役を自ら申し出るくだりの演出は、彼女が犯人ではとミスりリードさせたい意図が感じられるものだったが、それまでほとんど出番のなかった彼女が犯人なのは唐突すぎるため、誰も騙されないだろう。思わせぶりには前段の準備が必須なのだ。

彼女が自意識および怜子に対する対抗意識で勝負を挑み、舞台上で二つの曲が混成してしまう場面は、プロとしての女の戦いシチュエーションとしては魅力的なものながら常にコナンが付きまとっていた怜子は人物像が明確となっていたのに対し、千草がどんな人なのかは記号的な部分しかわからないため、勝負の白熱あるいは千草の心理が観客に伝わり辛くなっている。

千草が負けを認めるくだりにおいても、その後彼女がどんな気持ちで舞台に立ち続けていたのか、などが不明瞭で、棒立ち状態の彼女をどう見ればいいのか困らされてしまう。怜子の歌を長々と聴かせ続ける間に、彼女の退場をさりげなく演出しておけば、人物像としても記号の範疇を抜け出せただろうに。

声楽家の設定を活かして、声でプッシュ音を再現する、との展開は、ネタ的には想定の範囲内だが必然としては面白い。離れた距離まで声が届くのも、声楽家の設定ならではだ。

だからこそ、コナンの存在が問題となってきてしまう。彼が音痴なのは実はそう装っているだけで、それを怜子は見抜いていた、などの説明も無く、いきなり音程を合わせてハモッているのは不可解で不自然だ。定番のオープニングの段階から、音痴設定を散々強調しているのだから、それに対する何らかのフォローは必要だった筈。

外は大変な事になっているのに中では誰も気づいていない。とのシチュエーション設定は面白いが、そこから外の状況に気づいた段での聴衆の反応、騒動までは描かれず、それをどうやって鎮めるか、といった展開にはならないため、歌の場面をクライマックスに持ってきたいお膳立てのためだけにしか、面白くなりそうな設定が活かされていないのも勿体ない。

そもそも、犯人が聴衆全員を人質に取った事にも意味が無く、リハやゲネの時に関係者だけを巻き添えに自爆すればよかったのでは。と突っ込まされてしまうのは、やはり情念、狂気が上滑りにしか描かれない、本シリーズの問題点によるものだ。

演奏にクセがあると蘭にだけわかる何かを、新一が自覚していないのはいいが、観客には何なのか匂わせておかなければ、蘭の思いの強さを表す描写として不充分だ。後のシリーズまで引張る伏線ならば、現時点では不明のままでもいいが、おそらくそうではなく今回限りのネタなのだから、投げっぱなしは困る。

などと、詰めの甘さは感じられるものの、最初に述べた本筋の犯人予想の構成が手堅く、秋庭怜子とコナンの絡みに煩悩溢れる作劇と演出が仕込まれている事も加味し、突っ込みつつも観続ける事は嫌にならないレベルには仕上がっている。コナンにしては良くやった、と言ったところか。

それにしても、桑島法子はともかく水谷優子に声楽家役を当てるとは、何たるチャレンジャー。歌が吹替えで良かった。



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2 人気ブログランキングの順位は? クラシック界を揺るがす巨大な事件。 美しい旋律とともに導かれる真実。 この歌声を、消させはしない。
2. 名探偵コナン「旋律の楽譜」  [ Sweetパラダイス ]   2008年05月06日 19:08
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3. 名探偵コナン ―戦慄の楽譜―  [ 創作といろいろ ]   2008年05月13日 20:42
    音楽好き・コナン好きとくれば観るしかないでしょ♪(^0^) そんなわけで観に行っちゃいました、劇場版第12弾。 今回は音楽家をターゲットにした連続殺人事件。 音楽アカデミーの練習室が突然爆破され、事件が幕を開けます。 私は推理は全くダメなの...
4. 名探偵コナン戦慄の楽譜<ネタバレあり>  [ HAPPYMANIA ]   2008年05月14日 13:29
 最新作のテーマは 音楽 ですとコナンって 究極に音痴やってんな(^-^; でも絶対音感持ってるねん そしてバイオリンも弾ける  凄いんだか凄くないんだか・・・謎っ音楽家たちが 次々に殺されていくねんけど それぞれの人物の繋がりとか関係が徐々に分かって...
5. 名探偵コナン 戦慄の楽譜(フルスコア)  [ 欧風 ]   2008年05月16日 06:13
GW中の映画9本観まくり、4/30は、109シネマズ富谷で「あの空をおぼえてる」、<a href="http://minkara.carview.co.jp/user

この記事へのコメント

1. Posted by あきひろ   2008年04月22日 23:14
「アニメにしては良く頑張っている」というレベルに収まっているのは残念ですね。キーワードは「絶対音感」にあるようですが、そもそも世界的一流ピアニストであった堂本が絶対音感を持っていないというのは腑に落ちないし、オルガンの音色のズレにも気づかない(一応台詞でフォローが入っていますが)というのもおかしい。犯人の動機もわからなくはないが説得力に欠ける。幾ら防音防火耐震建築物とはいえ、あれ程の頻回の爆発に、音に敏感な音楽家が幾ら演奏に熱中していたとはいえ、外の異常に気がつかない、というのも変。一方で、「声楽家の戦い」というのはアニメとしては良い試みで、つぶあんこさんの言われるとおり、やはりここを深めれば凄く面白いものになったと思います。
2. Posted by つぶあんこ   2008年04月25日 11:57
いや、出来のいいアニメは他にいくらでもありますし、あくまでも「コナンにしては」ですので。
3. Posted by まさみ   2008年05月13日 20:46
こんばんは。
読み応えある記事を堪能させていただきました・・・☆

突っ込みどころ多すぎなコナン(爆)
これもコナンらしさな気がしたりして(≧ω≦)
4. Posted by つぶあんこ   2008年05月16日 14:40
ツッコミどころの多いミステリーってのもどうかと。

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