2008年04月23日

黒い家 35点(100点満点中)

ユビが1本ふえちゃった
公式サイト

貴志祐介による同名小説を、99年の森田芳光監督による映画化に続き、今回は韓国にて映画化。当然ながら舞台や人物は全て韓国に変えられている。

原作は、作者が元保険会社勤務であった経験を活かし、どうにかして保険金をせしめるための様々な手口と、それに対する保険屋の対策など、まるで『ナニワ金融道』のごとく、リアルかつブラックに描かれていく社会派チックな導入部から、徐々に狂気と恐怖が作品世界を支配していき、主人公同様に読者も追いつめられていく、秀逸なサイコスリラー小説であった。99年の森田版映画も、原作とテイストは大幅に異なるものの、シュールでサイコなブラックコメディの様相を呈した独特な作風は、一見に値するものだ。

そして今回の韓国版、よく紹介文などで「原作に忠実」と謳われている事が多いが、その実、中途半端に原作に沿っている事で却って、そうでない部分とのバランスが悪く、ちぐはぐな印象を受ける結果となっている。これは原作を読んでいれば瞭然であり、未読でも違和感は拭えない筈。

物語の核となる"サイコパス"関連において、それは顕著である。劇中にも、夫婦の小学校時代の作文や絵が登場するが、原作ではそれがどんな意味を持つのかを、専門家の分析と蘊蓄によって、説得力ある説明を入念に行っているのだが、映画ではただそれを読み聞かせ、あるいは見せるだけに留まっている。これでは専門家を登場させた意味が中途半端となり、実際にその専門家は、ただ殺されるためだけに出て来た様な、取ってつけた扱いでしかない。

これでは、犯人およびサイコパスである人物が誰なのかを、主人公に当初間違わせておいて、後になって真相が判明した時に、今までの描写が伏線となって恐怖が何倍にもなる仕掛けが、上手く機能していない。作文や絵だけでなく、現状での人物像あるいは証言による過去の描写なども、印象を誘導および真相の表明するには明らかに不充分で、表面的な怪しさばかりを感じさせているのでは平凡だ。嫁が何故サイコなのか、夫は何故そんな嫁を慕い続けるのか、背景が不明なままなため、理解による驚きや納得、そこから生まれる恐怖が損なわれている。

ラストの顛末が変えられている事も、原作との乖離による違和感を殊更にしている要因だ。主人公トラウマと犯人との対決を重ねる狙いは悪くないにしても、その段になって急に、程度の低い韓流映画の様にクドクドしく泣かせを押しつける様な演出を持ってこられても、あまりに唐突すぎ、そこまでのテンションをブチ切ってシラケさせるだけだ。

そもそも、"人の心が無い"人間の恐怖を描く事が原作の主目なのに、「彼女も人間だ」などとこの後に及んで偽善極まりない陳腐な言葉を叫び、それで観客が感動すると思っている事こそが理解不能なサイコパスだ。

まず心の痛みが描かれているからこそ、心の無さが恐怖となる。それは、先述した様な精神分析の欠如あるいは描写の少なさなど、心が描かれていない事とは意味が違う。原作のテーマを理解出来ておらず、あざとく下世話な泣かせに走ってしまっては、全てが台無しである。

主人公のトラウマが、実は思い込みによる勘違いだったと主人公が気づく展開も無くなり、トラウマがそのまま解決されていないのでは、お話としても中途半端だと、脚本家は気づかなかったのだろうか。疑問だ。

思わせぶりなラストシーンも、ブランコの絵の説明がなされていない事で、単なるありがちな投げっぱなしでしかない。大体、ブランコの絵を描いたらサイコパスなのだとすれば、『アルプスの少女ハイジ』のオープニングを描いた高畑勳もサイコパスなのか。最後に見せられる絵は、ブランコよりも色使いの方に異常性が感じられるものなのだから、ブランコだけを共通させたのは無理がある。

大体、ラストの対決では「彼女も人間だ」と泣かせようとしておいて、また最後にサイコパスを匂わせるのでは、どちらの方向に話を持っていきたいのかも散漫だ。

シチュエーション優先でストーリーや説得力が犠牲になっている部分も気にかかる。恋人のベッドに犯人が隠れていたのに、何故恋人は無事だったのか、何の説明も無いのは乱暴すぎる。消火器を使うのは原作通りだが、噴射した場所に自分から飛び込んで相手を見失い背後から刺されるとはあまりにバカすぎて、恐怖ではなく興醒めだ。大体何故あんな場所に廃墟の大浴場があるのだろう。

何度か登場する痛々しいシーンの痛々しさや、ユソン演じる嫁の、幸薄そうな美女がそのままの表情で動向だけが豹変するサイコな恐怖など、ところどころに見どころがあるだけに、今ひとつ原作への理解が感じられない脚本と演出が勿体ない。

金魚ミキサーネタは懐かしすぎて苦笑。



tsubuanco at 16:50│Comments(0)TrackBack(0)clip!映画 

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