2008年04月27日

紀元前1万年 37点(100点満点中)08-130

一万年と二千年前から愛してる
公式サイト

予算とCGの無駄遣いとしか思えない、ズッコケ超大作を作り続けるローランド・エメリッヒ監督による最新作。時に『ID4』の様に、偶然にズッコケがいい方向に働いて面白くなってしまう事もあるが、今回は普通にズッコケただけ。

恐竜と原始人とが何故か同時代に存在する『恐竜百万年』なる、映画史に残るトンデモ特撮映画を想起させる邦題の本作、歴史考証を完全に無視したトンデモ描写や、ヒロインだけがやたらと現代的な美人だったりと共通点も見られるが、これはオマージュと見て問題ない部分だ。

気になるのはむしろ、狩猟民族の狩りの様子から始まり、主人公の恋愛、進んだ文明を持つ異民族の襲撃、奴隷として連れ去られる人々、肉食獣の力を借りて逆襲に転じる、とのメインストーリー展開が、メル・ギブソン監督の『アポカリプト』に酷似している事の方だろう。こちらはあからさまに怪しい。

大枠からしてそんな有様な上、具体的な展開においても、印象的に登場するサーベルタイガーとの出会いが、サベッジランドの王者ケイザーの様に仲間になるか、あるいはクライマックスのピンチシーンに出てくるのかなど、王道的な展開を期待させておいて二度と出てこないとは、期待外れにも程がある。

奴隷達に匿われている預言者が思わせぶりに登場し、"神"の弱点として"しるし"を思わせぶりに語るも、結局それは主人公自身の戦いとは無関係で、預言者もその後登場しない。何のために出てきたのか意味不明

オリオン座の"しるし"が、北極星を"蛇の目"だと発見した事などとも関連せず、ヒロイン側の展開においても、しるしの存在は結局どうでもよくなってフェードアウト。更に主人公達が北極星を目印にした以降も、昼になっても歩き続けては意味がつながらない。

奴隷頭に「神には勝てないから戦わない」と言わせておいて、いざ反乱が扇動され始めると一斉に蜂起する奴隷達。そのままハイテンションで神殿に迫りながら、"神"が登場すると一斉にひれ伏す奴隷達。考え無しの行き当たりばったりなのは奴隷達ではなく脚本である。

奴隷達が殺到する神殿内にて、神官達が何か細工しようとしていた巨大なものが何だったのか、中途半端にブツ切りでこれまた意図不明な思わせぶりだけ。「この女は返すが神の奴隷は返さない」と言っているが、彼女も神の奴隷のうちだろうに。などなど、キリがない程に悪い意味でのツッコミ、ズッコケどころが連続するクライマックスシーンは、せっかくのテンションを停滞させまくりでガッカリの連続ばかり。

そこに至るまでの道中においても、ちょっと泳いだり槍を投げたりすれば届きそうな船をただ見ているだけだったり、様々な特徴を持つ部族が終結したのに、その特長が生かされるわけでもなく誰が何でもどうでもよくなったりと、やはり行き当たりばったりのダラダラに終始。同じく原始的な徒歩移動のみで全編描かれている、パクリ元の『アポカリプト』のスピード感や異様なハイテンションとは正反対に、嫌な疲れが残る鑑賞後感は厳しい。取ってつけたようなご都合主義ハッピーエンドもウンザリだ。傑作の上辺だけなぞっても、センスがなければ台無しと、至極当然の結果である。

ちなみに、全て古代マヤ語で通されていた『アポカリプト』とは異なり、本作の主人公達の集落はおそらくヨーロッパにあり、「山を越えて」アフリカへと移動し、エジプト周辺に到着した、との流れにおいて、アフリカの黒人達にそれぞれの部族語を話させておきながら、ヨーロッパ原始人が英語を話しているのは違和感が大きい。二つの言語が登場するため通訳を介する局面が多く、テンポを阻害している。アフリカ人とアトランティス人が同じ言葉なのだったら、いっその事全員が同じ言語でもよかっただろうに。この中途半端さが、エメリッヒ作品の大味感の元にあるものだ。

ストーリーは行き当たりばったりの思わせぶりばかり、そしてエメリッヒに人間の心情を描くドラマなど描けるわけもない事は、過去作からも瞭然とくれば、もはや見るべきところは、大規模な特撮やCGを駆使した、スペクタクル溢れる迫力の映像くらいなのだが、これまた、俯瞰の遠景が多すぎ、特撮を無駄遣いしている散漫な印象ばかりが強い。巨大感、スケール感で圧倒するために必須なローアングルを、あまり効果的に使えていない事が大きい

たとえばピーター・ジャクソンの『キングコング』中盤における、四足恐竜の疾走に追い立てられるシーンの様な、有無を言わさぬ迫力、スピード感、ハイテンションなスリル、などを、マンモスの群れが暴走する、序盤やクライマックスのシーンで全く表現出来ておらず、主人公目線で描きながら、ただそういう事があるとの客観的事象としてしか捉えられないのでは、あまりにセンスが凡庸すぎる。

現代人が演じる原始人というシチュエーションに期待される、裸族的な描写、つまるところおっぱいも皆無なのだからタチが悪い。こんなにガードが固すぎる原始人など、どれだけ汚らしく装束を作ろうがそれだけで不自然だ。

アトランティス人(1万2千年前である意味)がマンモスや原始人を奴隷として文明を築いた、との、子供向けオカルト読み物に登場する様なシチュエーションを、そのまま映像化してしまった意欲は買いたいが、構成や表現がこれでは、王道と見せかけつつツボを外しまくったズッコケエンターテイメント大作『GODZILLA』と同様に、企画倒れでしかない。

プラダガールカミーラ・ベルの、お宝扱いになって当然の飛びぬけた美貌は相変わらずだが、出演作に恵まれないのも相変わらず。



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25. 紀元前1万年 観てきました。  [ よしなしごと ]   2008年05月26日 00:23
 仕事のピークがとりあえず過ぎ、そうは言ってもやらなくてはいけないことが山のように溜まっていますが、とりあえず一段落。と言うわけで今回は紀元前1万年を観てきました。
26. 【映画】紀元前1万年…豹柄グラマー美女が出てこないだけ損な気が…  [ ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画 ]   2008年10月13日 20:34
一昨日(2008年10月3日・金曜日){/kaeru_fine/}は職場の健康診断(成人病検診)がありました。 昨年と比較して、体重は100グラム単位で微増{/m_0156/}。 ウエストは1センチほど微減{/m_0145/}。 …で、測定した人が「体重増えてるのにお腹周りは減ってますけど、何でですか...
27. 紀元前1万年−(映画:2008年67本目)−  [ デコ親父はいつも減量中 ]   2008年12月29日 22:55
監督:ローランド・エメリッヒ 出演:スティーブン・ストレイト、カミーラ・ベル、クリフ・カーティス 評価:62点 狩猟民族から農耕民族への移り変わりを描いた110分。 やっぱり地道に農作物を作ったほうが生活は安定するのだ。狩猟は闘争本能を満足させるけど、...

この記事へのコメント

1. Posted by 関東の貴   2008年04月28日 12:54
主人公が父親の親友に「食べ物をとってくる」といった後に動けないタイガーちゃんに遭遇したから、ああ、このトラちゃんが食料になるのか、と思ったら助けちゃった!あの状況で助けるに至った説得力が無いのがどうにも‥‥。

映像は見ごたえあるけど所々のブツ切り感がぬぐえず、鑑賞後の感想は「予告で流れたスピードレーサー面白そう!」という結果に。ヤハラ!
2. Posted by つぶあんこ   2008年04月28日 22:59
スピードレーサーはビジュアル再現度が高くて見入ってしまいますよね。
3. Posted by 松井の天井直撃ホームラン   2008年04月30日 00:31
都合の良すぎる予言に、まんま『アボカリスト』の逆バージョン。化粧バッチリのヒロイン。その他諸々(笑)
こうなると笑って楽しまな…無理矢理。
なんだかまた大画面でハワード・ホークスの『ピラミッド』が観たくなりましたな。
本作品とはハラハラドキドキ感が天と地でしたね。
4. Posted by つぶあんこ   2008年04月30日 17:38
ID4の楽しさは本当に偶然だったんだなあと、つくづく痛感です。
5. Posted by ふくすけ   2008年05月03日 20:10
2 天然ボケでしか笑いのとれない芸人のような監督ですから、本作のように知性を排除した設定ならば、本能を刺激する楽しさがあるかも‥‥と期待していたのですが、残念でした。

でも、いつかフルスイングのマグレ当りがあるかも‥‥と期待してます。

パワーはあると思うんですよね、この人。
6. Posted by つぶあんこ   2008年05月16日 11:44
パワーだけならマイケル・ベイもそうですが、やっぱ技がないとでしょ。

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