2008年04月28日

あの空をおぼえてる 28点(100点満点中)

死んだら驚いた
公式サイト

アメリカの作家ジャネット・リー・ケアリーの同名児童文学を、冨樫森監督により映画化。脚本の山田耕大は、実写版『鉄人28号』でも冨樫監督と組んでいる。

と、いきなり悪評高い『鉄人28号』を挙げたが、本作もそれと大して変わらない、原作の移植に失敗した残念作に終わっているのが実情。

原作は、10歳の少年が妹に宛てて書いた手記の体裁をとっている。すなわち全ての描写が彼の主観を通したものである事が、悲劇を扱いつつも泣かせに走らない、作品の評価点にもつながっている。

のだが本作、冒頭の臨死体験ビジョンに始まり、現在と回想が混濁する前半部は、概して原作同様に、主人公の少年視点で描かれていながら、徐々にそれ以外、母親や父親を単独で見る、説明的な客観視点が多用され始め、どんどん印象が散漫となっていく事となる。

品川の登場シーンなどは特に蛇足で陳腐なものでしかなく、竹野内豊を主演扱いとしたい営業的な思惑が強く感じられる改変の数々が、作品の質を落としている。

それに始まり、原作と変える部分と変えない部分のバランス悪さが、違和感の元となっていると見られる部分も多々ある。

たとえば小日向文世演じるカウンセラーの存在。原作ではカウンセラーが主人公に、人に言えない事を書いておけとノートを渡し、そこに妹へのメッセージを書き続ける。との存在意義がまず設定され、作品そのものが成立しているのだが、原作ではノートを渡さず、主人公が自発的に妹への手紙を書き始めるので、存在する意味が実はないのだ。実際、ヅラを取るギャグなど、ストーリーとは特に関係ないかたちでしか、存在感を示せていない。

髪の毛が逆立った子供などは、立ち位置はともかく設定は完全なオリジナルだが、全く面白くもなく寒いだけで、コイツが出る度にシラケムードが漂い、作品への感情移入を阻害している。先述のヅラギャグも含め、作り手に観客のエモーションを操作するセンスが全く欠けている事は瞭然だ。重い話に息抜きをさせる役割に、完全に失敗している。

死のトンネル内で犬が暴走した理由も、原作では明確に語られてストーリー展開に組み込んでいるのに、何故かスルーして不明なままでは、本当に原作の意味を理解しているのだろうかと疑わしくなってしまう。そんな有様だから、一時間もあれば読めてしまう原作を二時間に引き伸ばしたとしか感じられない、ダラダラした退屈な出来になってしまうのだ。

その一方で、ギプスにメッセージを書いたり唾の飛ばしあいをするなど、アメリカ人的な思想や習慣が基盤にある原作の描写を、舞台を日本としながらそのまま変えずに用いている部分も気にかかる。どうにも乱暴な仕事だ。

先述の、現在と回想あるいは幻想を混濁させる前半部の構成は、一家に起こった悲劇の真相を、当初は明確に提示せずに、観客を困惑させておいて事実に衝撃を与える、との意図によるものである。現在と回想が切り替わる瞬間を曖昧にし、その時に着ている服装を共通させるなどの仕掛けも、観客の理解を曖昧にさせるためのものだ。だが、では一体いつその真相が明確となり、観客にショックを与えるのか、の段までもが極めて曖昧で不明瞭なのでは、演出意図あるいは脚本構成が曖昧としか思えない。これではただ単に時間がいったり来たりしてややこしいだけだ。

また、原作では、"現実"に苦悩する主人公を描きつつも、トンネル探検の準備描写などで、子供心を喚起してワクワクあるいは懐かしくさせる様な描写も多く描かれており、それが悲劇や苦悩との緩急として有意に構成されていたのだが、この映画版ではひたすら重いだけで、ギャグは滑るのでは、テンションは沈みっぱなしで疲れるだけだ。

それでいて終盤の泣かせになると、急にクドく押し付けがましくなるのでは、残念ながら残された家族達のドラマに対し、泣く事は出来ない。

どうも冨樫森という監督は、映像的なこだわりに見るべきところが多い一方で、人間の心情をドラマティックにあるいはリアルに描く能力に欠けている。彼を起用した段階で、この結果は想定内だ。オマケに脚本家が鉄人コンビときては尚更。

そんな中で一人飛びぬけて光を放っているのは、妹を演じた吉田里琴の存在に尽きる。

『みこん六姉妹』『山田太郎ものがたり』『クロサギ』など、作品の出来は別として、ただ出てくるだけで特段の存在感を放つ彼女の魅力は、今回は特に物語のキーとなる存在だけに、大いに表現されている。

どこからどう見ても完璧美少女の天使的ビジュアルを、女優を美しく撮る事には長けている冨樫森だけに、殊更に美しく、可愛く映し出せているのは言うまでもない。主人公の視点を通して見るからこそ、愛おしさが最大となっているのだと的確に表現している映像および、父の視点にて撮影された、同じく愛おしさを最大とする写真の数々は、現時点における彼女のビジュアルの集大成として永久保存すべき価値がある。

そして、自分が可愛いと自覚しているからこその小悪魔的な奔放な所業の演技も、まるで本人が本当にこんな子なのではと錯覚させられる程に秀逸。これは天才的な演技理解センスを持つ彼女だからこそなせる業だ。兄を呼ぶ人称が「アニ」という、「それ何てシスプリ?」な、ツボを押さえた設定だけは、脚本家を大いに評価したい。

ラストシーン、"新しい家族"をフルショットで捉えた画面内に、唐突に登場する彼女の姿に、唯一ここに限り思わず涙してしまうのは、そんな彼女の持つ魅力によるものなのだろう。吉田里琴ファンだけは必見だ。

それにしても、一瞬の出番で顔もロクに見えないのに、「ノッポさんだ」と気づかれてしまう高見氏の存在感は凄い。



tsubuanco at 17:09│Comments(5)TrackBack(3)clip!映画 

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1. 【2008-106】あの空をおぼえてる  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2008年05月04日 16:11
3 人気ブログランキングの順位は? 娘を失った家族 子供が思うほど、親は強くなく──、 親が思うほど、子供は弱くない──。 みんな泣いて、強くなる。 いつか、心が壊れても
2. あの空をおぼえてる  [ 欧風 ]   2008年05月15日 23:00
GW中は比較的ヒマだったので、映画を観まくってしまいました。全部で9本観ましたが(^_^;)。 4/30は、109シネマズ富谷で3本観ましたが、1本目に観たのが、「あの空をおぼえてる」。
3. 『あの空をおぼえてる』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2008年05月19日 12:20
□作品オフィシャルサイト 「あの空をおぼえてる」 □監督 冨樫森□原作 ジャネット・リー・ケアリー(「あの空をおぼえてる」)□脚本 山田耕大 □キャスト 竹野内 豊、水野美紀、広田亮平、吉田里琴、小池栄子、品川祐、中嶋朋子、小日向文世■鑑賞日 5月10日(土...

この記事へのコメント

1. Posted by ぽん   2008年05月01日 01:01
寒いストーリーと臭い演技(竹野内&水野)にドン引きしてしまいました。
これじゃ本当にロリ映画(笑)。
少し泣けたのは、死んだ絵里奈の部屋を、ガキと水野が片付けているシーンだけ。
…ヤレヤレでした。
2. Posted by つぶあんこ   2008年05月01日 17:03
原作はもっとカルト宗教チックなので、更に引きますよ(笑
3. Posted by 新参者   2008年05月18日 22:01
ところで、つぶあんこさんは
映画を観て実際に涙を流されることはおありなんですか?

個人的な興味で質問してみました。
4. Posted by つぶあんこ   2008年05月26日 17:19
ツボにハマったらボロボロ泣きますよ。

一番最近だと、『最高の人生の見つけ方』の、「世界一の美女にキスする」のシーンできちゃいました。

男女間よりも家族愛の方に弱い模様です。
5. Posted by 新参者   2008年05月27日 18:53
丁寧なご回答、ありがとうございました。
泣かれることがおありなんですねー!
ちょっと意外でした!!

「最高の〜」は自分も気になってたので、
泣きに行ってきます。

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