2008年05月08日

パラノイドパーク 73点(100点満点中)

パラノイドなんか恐くないー
公式サイト

ブレイク・ネルソン(俳優兼映画監督のティム・ブレイク・ネルソンとは別人)の同名小説を、『エレファント』のガス・ヴァン・サント監督により映画化。

原作小説は日本では未だ翻訳刊行されていないため、本作の紹介や評にて「原作とは異なる〜」などと、曖昧な表現で具体例を示さず書いている場合、プレスシートやパンフレットに書かれているそのまんまを知ったかぶって引き写していると明白である。そんな知ったかぶりを恥ずかしげもなく弄する輩の言には、何ら説得力も信憑性も無いのだとも、これまた自明の理。閑話休題。

さて本作、アメリカのとある高校を舞台に、任意の男子生徒の内面にクローズアップするとの点にて、先に挙げた『エレファント』との、概略的な近似が見て取れるが、実在事件を元にした『エレファント』と、あくまで創作である本作とは、受け手側の意識、認識において、大きな差異が存在する。

主人公の周囲に配置される友人達の、等身大のリアルさが、観客の共感や感情移入を得、主人公を襲う特異な事象への導入ともしている事が、まず基本的な描写として挙げられる。

例えば、男子生徒の言う「別に好きじゃないけど、ヤレるからつきあってる」の言葉、あるいは主人公の彼女ジェニファーの、"つきあっている"という現象に対する憧れと自尊心がいちいち現われている言動、その究極として、初セックスの直後に嬉々として友人に電話報告する描写、など、10代に真っ当な青春を過ごしたものであれば、「あるある」と苦笑しつつ懐かしめる、極めてリアルな事象をリアルな視点で切り取っている。

その上で、主人公とジェニファーの別れ話シーンでは、敢えて声をミュートする事で、これまでのリアルの積み重ねと、友人が見ている前での別れ話という、これまたありがちなシチュエーションから、声は聞こえずとも何を言っているのかは簡単に想像出来、その想像は概して当たっている。そしてその光景を後ろで見ているジェニファーの友人達が考えている事さえも、手に取る様に理解出来てしまう事となる。(この場面の無音は、彼女が言っている事など主人公にとっては何の意味も無いのだ、との表現も兼ねている)

これは「あるある」情報の蓄積だけでなく、その局面の光景を一画面内に如実にレイアウトした、的確なフレーム取りと視点誘導の巧みさがあるからこその、総合的な映像演出完成度の高さゆえに誘導される"勝手な想像"である。

『エレファント』の場合は、実在事件の結末を知っているだけに、最終的な"勝手な想像"さえも、自明として導かれるもので、だからこその据わりの良さあった。だが本作の場合は、その様に誘導されるべき"自明の結末"が存在しない。それが据わりの悪さを生み、後味を悪い意味で濁している。

監督はその差異を認識した上で、この構成としたのであろうか。他の点で完成度が高いだけに、どうにも疑問である。「その先は皆さんの心で感じて欲しい」などと、わかってもないのにわかった様な事を言って見栄を張る、みっともない輩は言語道断。

本作の全体的構成は、主人公の主観を通じ、混乱、混濁しつつ特定の点にて収束する精神状態を表現すべく、時系列をシャッフル、反復させるかたちをとっている。そして主観で描きつつ、観客は当初それを客観視すべくなされている事も重要である。

すなわち、主人公の周囲で何かがあって、その事で主人公が何やら抱えている、との状態は薄々感じられても、それが何なのかは、主人公自身がその事を明確に再認識する、中盤の収束点となる場面まで、一向に明らかにはさせないのだ。この、情報操作による主観の客観視によって観客は、一体何があったのかとモヤモヤした興味を引き続けられてしまうのが、本作の構成のキモの一つである。

にも拘らず、日本における予告編では何と、中盤で明らかになる事件そのものを、あからさまに見せてしまっているのだ。完全なネタバレであり、作品の意味、意図を何もわかっていない。あるいはわかった上で、客寄せのためのインパクトとして見せたのだとしても、どちらにせよ作品への、そして観客への冒涜、愚弄行為である。このあまりにお粗末な仕事は、到底許せるものではない。ましてや、ネタバレなしの映画批評を謳いながら、冒頭に核心を書いてしまっているバカに至っては論外。

話を内容に戻す。"何が起こったのか"に対する収束点が、先述の事件回想であり、もう一つの収束点、"何をしているのか"の担い手となるのが、チョイブス女友達・メイシーの存在となる。

本作は基本的に、主人公を見る、あるいは主人公が見ているものを見る、との方向性にて形作られている。だがメイシーに関しては終始、"主人公を見ている"スタンスに配されており、終盤まで主人公は彼女を"見ていない"(眼中にない)。彼女が特異点となる根拠は、登場時より提示されているのだ。事件が(観客に対し)明らかになった直後の、主人公と警官の真っ正面アップの切り返しによる視線の応酬とは真逆の演出が用いられている。

彼女が主人公に話しかける場面にて、主人公の視点を表す映像は、彼女ではなく隣にいる友人・レイチェルの方に長くクローズアップされる。ただ立っているだけのチョイ役でしかないレイチェルに、殊更な美少女がキャスティングされ、一方実はメインヒロインであったと最後に判明するメイシーはチョイブスである事にも、紛う事無く必然があるのだと、この、主人公が彼女を見ていない事を表現する局面にて明らかとなる。同監督は、若者のビジュアルをキャスティングにて的確に配置するセンスに長けており、それを作劇に有意に活かす能力も優れていると、改めて認識させられるものだ。

16m/mフィルムの様な粗い画素で見せられる、スケボーと共に揺れ動く様な映像を多用し、構成的な混濁だけでなく、ビジョンとしてリアリティを薄れさせ、睡夢のごときエモーションを作り出した上で、突然に鮮明な画質にて、主人公の美しい顔のアップに切り換え、画質のギャップによっても美しさをより引立てるなど、映像効果による感情の誘導も巧い。

これまでのスケボー映像の集大成として、360°のパイプ内を滑走する様を後ろから捉えた、終盤のイメージ映像にて、当初はパイプの先に光の差す出口があり、そこから外へ出るまでを何度も繰り返しておいて、ラストの滑走だけは、その出口がフェンスで仕切られており、光は見えるが出られない状態が示唆されて終わる。スピーディーにスムーズに走りながらも、ゆらゆらと左右に揺れ動くのみで先へは進めない、との状態が、主人公とメイシーの自転車シーンの一見した爽やかさとは異なる感情を抱かせる。手紙を書いたところで解決にはならないという事だ。

だからこそ、もう一押ししてその先までを示唆してほしかったのだが適わず。選択肢が曖昧すぎるのが、監督はやれば出来る子だけに残念。



tsubuanco at 16:57│Comments(5)TrackBack(8)clip!映画 

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1. パラノイドパーク  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年05月08日 19:35
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2. パラノイドパーク  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2008年05月08日 21:57
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8. パラノイドパーク  [ つくえのすみのどんぐりぼうや. ]   2008年06月05日 04:42
渋谷で映画「パラノイドパーク」を観てきました。 ふ〜。こういうのは身近な映画館で演ってなくて、危うく上映期間に間に合わないところだった。もっと多くの場所で公開してほしいものです…。随分前から期待していた、ガス・ヴァン・サント監督の新作。 思春期の世代...

この記事へのコメント

1. Posted by ととろろ   2008年05月08日 19:56
質問。前田さん嫌いですか?
2. Posted by ととろろ   2008年05月08日 20:51
質問。前田有一さんの批評をどう思ってますか?
3. Posted by ととろろ   2008年05月10日 17:54
質問。前田有一のサイト「超映画批評」についてどう思いますか?
4. Posted by 名無し   2008年05月11日 15:46
4 最高(笑)

>>1
好きとか嫌いとかではなくて、優劣の問題。

NEXT(ネクスト)のように、内容を後から書き換える彼っていったい。。。
5. Posted by ラーメンマン   2008年05月11日 22:38
おっと…まだ前田批判やってたんですね。貧相な批評文を引き合いに出さなくても、つぶあんこさんが優れているのは明らかです!あんまり粘着していると自分の評価を下げちゃいますよ。前田も、それに関する批判も気分が悪くなるだけで意味ないと思います。

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