2008年05月09日

ペレを買った男 22点(100点満点中)

彼がいつ、またみんなの前に、姿を見せる事が出来るようになるのか、私にもわからない。
公式サイト

70年代か80年代にかけてアメリカに存在した北米サッカーリーグ(NASL)の、牽引的役割のチームであったニューヨーク・コスモスの栄光と落日の軌跡を追う、ドキュメンタリー映画。

アメリカではサッカーに人気がないとは、誰でも何となく認識しているだろうが、その理由の一つに「アメリカ人はノンストップのスポーツ観戦が苦手」というものがあるらしい。そう言われれば野球もアメフトも休み休みやっている競技だ。どちらかといえばそちらの方が、観戦テンションが持続せずにダラケてつまらないと思うんだが。

それはともかく、本作、監督がイギリス人だからか、先述の様な"アメリカならでは"の特異性を始め、プロスポーツにまつわる裏のネガティブな部分の方を、むしろシニカルにクローズアップしているかの様な構成は面白い。

コスモスのオーナーがワーナー・ブラザーズの創始者スティーブ・ロスである、というだけで、金満の臭いがプンプンしてくるのだが、表題のペレを獲得するにあたって、アメリカ政府を焚き付けてブラジル政府に圧力をかけさせたというのだから、思いっきり政府と大企業が癒着して、一私企業の利益のために外交問題に発展させているとは、現代にも通ずるアメリカの力任せな事運びそのままであり、これはもう完全なお国柄なのだと呆れさせられる。

ペレやベッケンバウアー、アウベルトらスター選手らのプレイ映像にももちろん目を惹かれはするが、やはり大企業が札ビラで頬を引っぱたいて運営していたチームだけに、各関係者インタビューから感じられるのは、金満チームの金に群がる欲望、世辞追従、嫉妬など、ドロドロの汚らしい人間模様の方が何より強い。

多数決的な印象によって、イタリア人選手ジョルジュ・キナーリャひとりが、金の亡者の寄生虫の様に扱われがちだが、つまるところどっちもどっち、サッカーを金儲けの材料にしていた事には変わりなく、ポジション争いに負けた者達の、引かれ者の小唄にすぎない。むしろ得点王として現場で活躍していたキナーリャの方が、金勘定ばかりしているフロントよりも、職業人としては真っ当だろうに。

金と宣伝に任せただけの、無駄に規模を膨らませたバブルブームは簡単に崩壊する、との諸行無常は、何もスポーツに限らずあらゆる文化に適応されるものだ。そして崩壊後の空虚さを知るだけに、関係者が語る栄光の思い出が、一層に白々しく空虚なものに思えてならない。これは作り手の意図したところだろう。

だがそのバブルブーム世代こそが、現代アメリカサッカー界の礎となり、ヨーロッパや南米の強豪国に匹敵するハイレベルな選手層を生み出しているのだから、大失敗に思えても萌芽は残されているのだとの、また別の真理も疎かには出来ない。この現象は、『キャプテン翼』ブーム当時に少年だった世代が、Jリーグブームから日本代表黄金期にかけての中心軸となっていた、日本サッカー界の状況にも似ている。とすれば、選手としては確かに日本サッカー界の向上に貢献した世界的スター選手だったが、一方で金や地位に固執した挙句に日本人のサッカー熱を大きく奪ってしまったジーコは、キナーリャに相当する存在にも見えてくる。同じくJリーグに大きく貢献しながら、権力を振り回し地位にしがみつき続けて日本サッカー界を迷走させている川渕三郎が、本作におけるスティーブ・ロスか。

しかし本作、当時の記録映像および現在の関係者インタビューがほとんど全てで構成される内容は、あまりに簡素にすぎ、金を払って映画館で観るだけのものとは到底思えない。NHK教育あたりで深夜にひっそり放送されているのをボーッと観る程度が、本作には相応しい格付けだ。事実の羅列だけでなく、興味を引き感情を揺り動かす仕掛けがない事には、あまりに物足りなさすぎる。

とは言え、肝心のペレが出演拒否した、との、最後まで"周りがギャーギャー言ってるだけ"状態となる、最大の大オチには笑わせられたが。



tsubuanco at 16:26│Comments(3)TrackBack(0)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by ふくすけ   2008年05月10日 20:06
“アメリカ人はノンストップのスポーツ観戦が苦手”と言うのは、CMを挿入しにくいスポーツにはスポンサーが付かない(付けたくない)と主張するメディアによる言い訳。
実際アメリカのサッカーの競技人口(アメリカ人とは限らず)は世界一らしいですし、たいして強化せずとも高いレベルを維持できるのは圧倒的な数によるピラミッド構成による部分が大きいっぽい。
アメリカでサッカーがメジャー競技として盛上がらないのは、様々な力が結託して封殺している感じがしまくりです。
2. Posted by のく   2008年05月12日 18:56
ジーコが金や地位に固執した?
3. Posted by つぶあんこ   2008年05月16日 11:35
サッカーはCMを入れにくいから、テレビ向きではないってのもあるでしょうけどね。

女子サッカーが盛んな事が、競技人口の多さに大きく寄与しているかと。

ジーコは日本サッカーから十年の時間と多額の予算を奪っていきましたよ。結果を何も残さずに。

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