2008年05月13日

靖国 YASUKUNI 34点(100点満点中)

100人斬っても大丈夫!
公式サイト

中国人監督・李纓によるドキュメンタリー映画。8月15日の靖国神社内の光景と、かつて靖国神社内に刀を奉納していた老刀匠へのインタビューの、大きく二つに別れた内容となっている。

偏った先入観を廃して鑑賞すれば瞭然だが、本作は靖国神社あるいはその肯定派を批判、というよりも、戦争およびそれにまつわる諍いや禍根に対し、批判、否定的な姿勢にて作られている。その上で題材となったのが、現代日本にて過去の戦争に対する一つの象徴とも見られる靖国神社であり、日本にとって現時点で最後の戦争である第二次世界大戦である、という事だ。

ドキュメント映画において、作り手の思惑による演出や誘導が存在する事自体は当然である。それを否定しては作品など作れようもない。問題は、その思惑や主張を伝えるのに適した作り方がなされているか、である。その上手下手によって、作品の完成度が左右されるとは言うまでもない。

そして本作はその観点において、残念ながらあまり上手く作れているとは見受けられない。

まず刀匠パートにおいて、監督自身がインタビュアーを務めているが、片言の日本語なのでかなり聞き取りにくく、更には刀匠の側も、いい歳をしたご老人なためか、かなり呂律が怪しくやはり聞き取り辛い。外国語には翻訳字幕を当てている(横で通訳が日本語に訳している時もだ)のだから、このインタビュー場面にも字幕が欲しかった。会話を聞き取ろうとするだけでイライラさせられるのでは、話の内容に興味を抱く以前の問題だ。

観客だけでなく、話している二人が互いに相手の言葉をちゃんと聞き取れておらず、何度も何度も同じ事を聞き返して、また観客をウンザリさせたり、言葉を誤解したまま話が進んでしまい、会話が真っ当に成立していないシュールコントの様相を呈してしまったりと、とにかく内容以前の問題が多すぎる。

質問の内容も、その真偽はともかく戦時中の日本軍の蛮行として話題に挙げられる、百人斬りなどに結びつけた、決まった解答を引き出したいとの意図があからさますぎる、あまりに稚拙、恣意的すぎるものに終始し苦笑させられる。

また、刀匠が監督に「あなたは小泉首相の靖国参拝をどう思いますか」と聞いたのに対し答えず、逆に「あなたはどう思いますか?」と、質問に対し質問で返す卑怯な逃げを行うに至っては、人としての礼を失した行為である。

自身の主張は直接的な言葉ではなく、映画に内包させて伝えたいというのであれば、その場でそう答えてその一連の会話はカットすればいいだけだ。にも拘らず、刀匠から「小泉首相の靖国参拝の是非」を聞き出したいとの思惑を優先させるあまりに、自らの姿勢の歪みまで露呈してしまったのだから、完全な自爆である。それに気づいていないのかそのまま見せているのが笑えるが。

この刀匠パートにては、「靖国神社にて製造された靖国刀」と、「百人斬り」を始めとした捕虜や非戦闘員への殺傷行為を結びつける方向に、印象を誘導している狙いなのは、これまたあからさまである。

戦争による悲惨な場面を見せる事で、戦争なんかもうゴメンだとのメッセージを伝える姿勢自体は、確かに間違ってはいない。だが、冒頭にテロップで「靖国刀は8100本」と表示されるこの数、どう考えても当時の日本軍人の数と比べて少なすぎる。作中にて再現された伝統製法により手間をかけて作られたその靖国刀が、虐殺を行ったとされる一般兵に支給される様なものではないと、これまた誰がどう考えても気づいてしまうだろう。この時点で印象誘導は失敗しているのだ。

そもそも、「靖国神社の御神体は日本刀」との記述も、確かに「日本の刀」ではあるが、いわゆる日本刀ではなく古式の直剣なのだから、作り手自身があまりよくわかっていないのでは、と萎えさせられる。

ただ、インタビューに答える刀匠の、己の仕事に誇りを持ちながら、あえて多くを語らず自己主張もしない、職人の鑑とも評せる立派な姿勢は、稚拙な作品の中でも充分に感じられ、一社会人として尊敬させられるものである。これだけは揺るがない。

一方の8月15日パートでは、いわゆる"信者""アンチ"イロモノ合戦の様相を様々に見せられ、作り手の狙いはさておき、右だろうが左だろうが、極端に走る人間は"普通ではない"と、半ば呆れて観る事は出来る。

コスプレ右翼など被写体とされている人物が、本作撮影スタッフのカメラだけでなく、一般参拝客や観光客からも囲まれ撮られまくっている様からも、彼らはあくまでも特殊なサンプルであると、普通の人が見れば理解出来る筈だ。ドイツのネオナチの活動を見せられて、「ドイツ人って皆ああなのか」と思う奴はタダのバカである。

とは言え見せられる光景のほとんどは、当日のテレビニュースなどで見られるものと大差なく、こんな汚い画質で揺れまくって見苦しい映像を、わざわざ劇場の大スクリーンで金を払って観る意味はあるのかと、自問させられもするが。

一番笑えたのは、追悼式典にて国歌斉唱が行われている際に、アキバ系男子二人が乱入し騒ぎ立てた一連のシークエンスだろうか。その青年を取り押さえるために、執拗にフェイスロックを決めようとしている男がまた笑えるが、出来レースなのかどう見ても決まっていないのに身動き取れずに固まっているところまでプロレス的に行われても困る。

敷地外に連れ出される青年を追って、一人のジジイがずっとついて来て「中国へ帰れ!中国へ帰れ!」と壊れたラジオの様にエンドレスで罵倒し続ける様も、サイコなシュールコントを見ている様で失笑。

また、この連れ出された青年が「袋叩きにされて負傷した」との展開になるのだが、最もインパクトがあるであろう、暴行を受ける場面は何故かすっ飛ばされ、いきなり口の周りが血まみれになった彼が、それでもこれまた壊れたラジオの様に小泉批判の演説を続けている様に切り替わるのは、何故だろう。更には、この青年がパトカーに押し込められて"保護"される顛末はずっと見せられるのに、彼を暴行した人間が逮捕される場面もまた、一切見せられない。何故だろう。

それにしてもこの青年。かつてオウム真理教が強制捜査を受けた際に、被害者ヅラしてマスコミの前でワザとらしく大騒ぎしていた、オウム信者と全く変わらない、何かに洗脳された様な気持ち悪い行動に終始しているのだから笑える。

台湾原住民代表を名乗る一団が靖国神社に抗議するシチュエーションにても、何故か通訳がやたらと汚い言葉を使って靖国側を罵倒するなど、アンチ靖国の側もまた、一部の声の大きい右翼バカと同様に、みっともない醜態を晒しているのだから、ある意味でバランスは取れている(笑)。

ただし、浄土真宗の僧侶である人物が語る反戦や靖国否定の言葉は、説教を常日頃から生業としているだけに、穏やかで丁寧な語り口と、説得力ある論理展開となっており見事。戦争で家族を失った理不尽さに対する悲しみや怒りが静かに伝わってくるこの場面は、少なくとも反戦のメッセージとしては秀逸

と、作り手の主張を的確に伝えるとの思惑においては、あまりに稚拙な出来としか言い様のないものに終わっているが、騒動の滑稽さをニヤニヤ笑ってウンザリする程度の楽しみは得られるか。

それにしても、本作に限らず、「こんな作品はあってはならない」などとと騒ぎ立てて封殺しようとする様な連中は、自分自身が作品に簡単に影響されて思想や人格を左右されてしまう、どうしようもなく主体性のないバカなのか、あるいは国民の多くがそうした主体性のない、洗脳されやすいバカばかりだと考えているのか。どちらにせよ、あまりに傲慢で視野狭窄にすぎる。これも左右問わずだが。

tsubuanco at 17:06│Comments(4)TrackBack(6)clip!映画 

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1. 靖国YASUKUNI  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2008年05月15日 21:39
公式サイト。李纓監督。連休が終わってまもなく、上映期間延長でそれまでの混雑が緩和されてCINEAMUSEへ。依然として館前には警官1人、劇場内のスクリーン横にはスタッフが1人警戒にあたっていたが、それ以外、なんてことない。
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この記事へのコメント

1. Posted by 爽泉   2008年05月14日 19:08
小泉の靖国参拝の後に、いきなり「休みの日に聞いている音楽はなんですか」とか聞いて、それをまた刀匠が「靖国で聞く音楽」と聞き違えたりして笑えました。
3. Posted by つぶあんこ   2008年05月16日 14:43
その後の、デッキ操作にもたつく刀匠の様が、ナイトスクープみたいで笑えました。
4. Posted by 二コール   2008年06月12日 14:33
その場面で、会場中で笑いが起きてました。

私も監督の質問返しの場面はズルイなと
思いました。
本当、あれ以降監督に対して怪訝な気持ちを持ったまま作品を見る事になって
最後の南京大虐殺の偽証拠写真を堂々と
出すあたりで完全に萎えてしまい・・・

言いたい事分かるけど、立場に徹しきれてないあたり
何だかなあで終わってしまいました。

公式HPの著名人コメントの
インリンがまた最後に決めているのが
ウケたましたよ。
5. Posted by つぶあんこ   2008年06月13日 17:54
反日エロテロリストのインリンは、両方の意味で確信的でしょう。

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