2008年05月19日

おそいひと 48点(100点満点中)

ファックスでセックス
公式サイト

実際の身体障害者を主演とし、ネガティブな面をも前面に出した事で話題となった作品だが、それだけの事で興味を引かれてしまう時点で、いかに障害者という存在が特別視、腫れ物に触る様な扱い、認識であったかと、あらためて感じさせられる。

障害者だろうが健常者だろうが、いい奴もいれば悪い奴もおり、その比率が障害の有る無しによって変わるわけでもない。海外のホラーやサイコサスペンス、あるいは昭和以前の日本の娯楽作には、凶行に走るフリークスなど当たり前に描かれている。

大体、行政として障害の認定基準の線引きこそあれど、単なるチビと小人症の境界など神ならぬ身で下せるわけもないのだ。にも拘わらず前者は嘲笑的ギャグの対象としても問題なく、後者を同様に扱うと抗議殺到となるのだから呆れる。

当事者でもないのに差別だ偏見だと声高に叫ぶ者こそが、偏見に満ちた先入観で相手を"可哀想な人"と決め付け、自分より下の存在を自分のために作り出して見下し、"弱者"を擁護する"善行"によって、自分が優れた人間であると思い込み、自分を高い位置に感じたいだけの、唾棄すべきエゴイストでしかない。本当に見下され差別されるべきは、不要なタブーを作り出して自由な言論や表現を阻害し、健全な社会のありようを歪めている、自覚なき偽善者どもの方だ。

閑話休題。本作の基本的なストーリーは、願望と現実のギャップに追い立てられた一人の人物が狂気へと転じていく、なる、サスペンスやミステリーにおける、犯罪者の誕生シークエンスと基本的に同一である。ある意味で王道的な狂気への変遷を、障害者とそれを取り巻く環境に有意に当てはめてストーリーを構成している事が、本作の特色といえる。

劇中における主人公の"出会い"が、彼が要介護の障害者であるゆえのものばかりである事が、まず基盤として用意されている。

障害者にとって必要不可欠な存在となる事で、自らの存在意義が向上したと思い込んで満足し、それが満たされないと本音を吐く、主人公の食事を作っている中年女性に象徴される様に、主人公を取り巻く人間達は基本的に、自身の欠乏を満たすために彼を利用し、主人公はそれを受け入れて、共生関係として成立している。

つまるところ劇中の健常者は障害者である主人公を、自分より下の存在と見下しているからこそ親切に接しているのだ。当初はビデオカメラを持って追跡盗撮し、その映像を仲間内で見て珍獣ショーの様に楽しんでいた学生達は、主人公の誕生日パーティを計画する段においても、リアクションに対する興味本位と、タブーめいた秘密を共有する事への陶酔に興じているだけに過ぎず、心根は最初から変わっていない。

マドンナとして現れる女性が、主人公からのセクハラFAXを送られた段にて、それまで彼女が障害者全般に抱いていた印象、思い込みが一変し、彼が一人の人間、男性に間違いないと、自らが性欲の対象とされる事で現実を突きつけられる。このシーンが、健常者側の描写としての大きなポイントとなる。彼が人間と認識してしまった時点で、彼女は彼の前から姿を消す。介護という行為が、ある意味で相手を同格の人間として見ないからこそ行えるのだ、との現実の皮肉を描いているのだ。

一方で主人公側のドラマとしては、自分が障害者だからこそ出会った人物達が、自分が障害者である事をダシに盛り上がっている様の、三角関係めいた人間模様を主軸に、自らが障害者である事を殊更に痛感させられる展開へと追い詰めていく描写は、普遍的なコンプレックスによる心の歪みを投影させたものだ。だからこそ主人公が、そのやり場のないコンプレックスにより憎悪を増大させて一線を踏み越えていく様を、リアルに感じ取る事が出来る。

あらゆる人物達の善意、悪意、興味本位などが一点に収束しつつ何一つ噛み合わない、あまりに空虚なラストシーンは、必然とも言える帰結である。家の外の野次馬を俯瞰視するショットは、自転車と車椅子の動きの差異を見れば瞭だが、健常者は巻き戻しの動きを、障害者は通常の動きをとっている。これは、すれ違いによる破綻を表現しているのだろうか。

と、基本的なストーリー面は、興味深く救い難い現実を投影させた残酷寓話として楽しめるものの、表現、演出面においては、いろいろと首を傾げざるを得ない。

オープニングから炸裂する、騒音に近い耳障りなBGMや、雑多にザッピングされてこれまた目障りでしかないノイズ的映像が、その代表となるだろうか。こんなあざとくこれ見よがしな変化球など用いずとも、普通の映像と普通の音響とで普通に描いた方が、却って異常な面が引き立って怖さも増すのだ。最初から最後まで映像も音響も騒がしいままでは、本来強調すべき部分が埋もれてしまい逆効果でしかない。

そうした表現バランスの悪さは全編通して顕著だ。劇中にてカメラで撮影された映像だけでなく、本編の映像もまた、カメラが近すぎたりぶれすぎて何をどう見せたいのかが不明な、素人が撮ったとしか思えないカットがあまりに多く、これではショッキングなシーンの何がショックなのかも、充分に伝わらなくなる。

狙いが面白く観るべき価値は大いにあるだけに、撮影や編集などの雑多さが惜しまれる。



tsubuanco at 14:38│Comments(2)TrackBack(0)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by 力薬   2008年06月04日 00:54
個人的には気に入った一作でしたが…
しかし字幕のつけるつけないに適当感は感じました…

アーミー人形(トイストーリーのものとは似てるようで違いましょうか?パラシュートは…)は作中の住田氏の凶暴性のメタファーと捉えてよろしいのでしょうか。
2. Posted by つぶあんこ   2008年06月04日 17:40
狙いは面白いんですけど、作りがどうも雑で。

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