2008年05月20日

トゥヤーの結婚 52点(100点満点中)

「この井戸が掘れたら、結婚申し込むんだ」(死亡フラグ)
公式サイト

中国、内モンゴル自治区にて、昔ながらの牧畜を生業とするモンゴル民族の一女性を主人公とした作品。

撮影の地となった内モンゴル自治区にて砂漠化が進行し、牧畜民の生活には適さなくなってきている様が、映し出される光景からも見て取れる。また、中国政府による、民族固有の文化や生活様式を廃させる、画一化政策により、家業を捨てて一般の"労働者"となり街に定住するモンゴル民族も増えており、時代の流れによる変化が顕著に現れている。

悠久の流れに身を任せてきた放牧民にとって、あまりに急転ともいうべき環境変化と、それに人生を左右される人々を描いている本作、古いものと新しいものの価値観の相克を詩的に紡いだ作品は、近年の中国映画のひとつのスタンダードでもあり、本作もそれに属するものと見ていいだろう。

冒頭、羊の群れが十戒の様に避けて通っていく場所に、男がバイクでコケて倒れている、との光景や、柴を大量に積んで去っていったトラックが、後のショットでいきなり横転している、との転換など、ドキュメントの様にも見えるリアルな風景、生活光景の中に、少しズラした事象を嵌め込む事で、無言でおかしさを伝える映像演出が印象的だ。

そうした"静"の画面構成による演出を用いる一方で、男が白馬に乗って車を追いかける様を、車内の窓越しに平行してフォローするなど、"動"を活用した映像も随所に登場させ、緩急によるメリハリおよび、ドラマティックな展開の導入ともしている。

ヒロイン以外は全て現地の素人を使って演技させている本作、泣いたり怒ったりと感情を露にするシークエンスになると、ノンストップの長回しが多用されるのは、演者のテンションとノリを損なわせず、リアルに近い感情を見せる狙いか。ヒロインが自殺未遂の夫の元に駆けつけて激昂するくだりでは、子供達はおそらく本気で泣いているのだろう。などと考えて観ると、様々な場面がより意味深く感じられてしまう。

その激昂場面では、死のうとした事に対し怒りを露にし、「誰も死なせない」と表明するヒロインの強さ逞しさを強調している。ここで思い起こされるのがチンギス・ハーンを描いた近作『モンゴル』だ。

『モンゴル』にて、テムジンの妻は敵に捕らわれ子を孕まされようとも、絶対に自ら命を絶とうとは思わず、夫であるテムジンもそれを何ら責めない。これが日本の時代劇ならば、妻は夫のために自ら死を選び、それが妻の鑑と賞賛される様な話か、あるいは死なずに敵の手に落ちて生き延びた妻が、命汚い不義者として罵倒されるといった事になるだろう。

どちらがいい悪いかではなく、モンゴル民族の結婚や生死に対する観念が顕著に現れており興味深い。だが、そうした事に頓着せずにあくまで強く生き続けたテムジン夫妻は、それは彼らが選ばれし英雄なればこその、究極の姿として描かれている事を、忘れてはならない。だからこそ本作に登場する、あくまでも一般の一人間にすぎない男女は、こだわっていない様に話を進めながらも、気にならないわけがない、と、終盤の結婚式シーンにて、男同士でみっともなく揉める様や、ヒロインが泣き崩れる様にて理想と現実のギャップを突きつけている。

それでも、強く逞しくあろうとする姿勢は女性に分があり、だからこそヒロインは誰にも見られないところまで行ってから一人で泣いているのだ。ただし、最後に回帰するまで、一体いつの話なのかすらよくわからない、意味のわからない冒頭の"泣いている"シーンが、最後になってようやく全て意味が通ってしまうのは、狙いは理解できるものの、有意な構成として作用していたかと見れば疑問だ。これが終わりではなく始まりだ、と、最初に持ってくる事で表したのか、とも思うが。

環境変化と政策の両面で滅び行く光景を捉える事も、製作意図に含まれている本作、"街"の話は出れどその光景は映らず、近代的な建物においては内部の映像ばかりで外観はほとんどわからない。これは当然、昔ながらの光景を可能な限りフィルムに収める上での、変わってほしくないとの意思表示だろう。後半に井戸を掘り続ける事、結婚式があくまでも伝統的に行われる事、などが、時代の流れへの反意を表している。

だがそれにしても、部族内でも飛びぬけた美女として、働き手にならないながらも求婚者が殺到するとの設定であるヒロイン・トゥヤーは、どう見ても単なる農家の母ちゃんにしか見えず、強さ逞しさの象徴としては問題ないが、女性としての魅力があるとは感じられない。演じるユー・ナン自身が、もともとオバチャンっぽい顔立ちなのが問題か。

とはいえ『モンゴル』もそうだが、モンゴル人の美的感覚は日本人に理解しがたく、仕方ないのだろうが。



tsubuanco at 15:56│Comments(1)TrackBack(3)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 真・映画日記『トゥヤーの結婚』  [            ]   2008年05月25日 20:35
JUGEMテーマ:映画 3月17日(月)◆747日目◆ 月曜日だが、以前のように特別に多くはない。 円高ドル安の影響? 午後5時半に終業し、渋谷「Bunkamura」6階にある「ル・シネマ」へ。 6時半前後に着き、整理番号は5番だった。 まあ、公開4週目だから仕方ない。 ...
2. トゥヤーの結婚  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年10月10日 20:53
 『そのとき、彼女は安堵の涙を流した……。 張藝謀監督、コン・リー主演『紅いコーリャン』から19年。 ベルリンは、凛として生きる美しいヒロインを、グランプリに選んだ。』  コチラの「トゥヤーの結婚」は、2007年ベルリン国際映画祭金熊賞グランプリを受賞した作....
3. mini review 08333「トゥヤーの結婚」★★★★★★★☆☆☆  [ サーカスな日々 ]   2008年12月26日 17:59
砂漠化の進むモンゴルの草原でたくましく生きるヒロインの姿を描き、2007年ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いたヒューマンドラマ。厳しい現実の中でも凛としたトゥヤーを、コン・リー、チャン・ツィイーに続く中国出身の国際派女優として期待されるユー・ナンが熱演。監督は、...

この記事へのコメント

1. Posted by kimion20002000   2009年02月12日 16:56
ユーナンが映画のような芋おばちゃんかと思って調べてみたら、ずいぶんと美人のポートレートがありましたよ(笑)

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments