2008年05月23日

ラフマニノフ ある愛の調べ 2点(100点満点中)08-160

ライラックにはラベンダー
公式サイト

旧ソ連が生んだ天才音楽家、セルゲイ・ラフマニノフの、生い立ちからロシア革命後の亡命生活まで、半生を描いた作品。

宣伝コピーにて「"不滅の名曲"誕生秘話が、今明かされる!」と謳っているが、作中にて、一体どうやって名曲が生まれたのかが明かされる事はなく、ワガママ意のままな女たらしの、自堕落で自分勝手な生き様を延々と見させられるだけだ。

確かに、天才とは得てして偏屈で人当たりの悪いものだ。だが例えば近作『敬愛なるベートーヴェン』では、間違いなくキチガイで社会不適格者ではあるが、憎めない愛すべき面もあり、何より、創作する芸術は圧倒的に素晴らしい、と、観客が対象を受け入れられる面をもバランスよく描いており、だからこそ観客は、彼や彼に尽くす女性に感情移入して、物語に興味を持てる様になっていたのだ。

だが本作は、本当にずっとタダの嫌な奴でしかない、無責任で不機嫌で悪い事は何でも他人のせいにばかりしている、最低のダメ男としての面ばかりをひたすらに見せられ、愛すべき面も、音楽の素晴らしさも、まるで表現されていない。

音楽家の映画で音楽のよさが感じられない時点で、作り手には音楽という表現、作品に対する敬意も理解も無いのだと瞭然だ。そしてラフマニノフという人物に対するそれもまた、全く感じられない。大して興味も無いのに仕事だからと適当に作った感が丸出しである。

亡命後の初コンサートシーン、客席にソ連大使がいるのを見たラフマニノフが、「私の大切何な人達を殺した人間には聴かせない」と、演奏を拒否し、聴衆の大使へのブーイングが始まり退散してやっと演奏が始まる。との導入部は、音楽や人生など彼を構成するあらゆるものへの、いい意味でのこだわりや自負が感じられ、強く興味を惹かれたが、面白いのはその最初だけなのだから困る。

ロシア革命前後を描いている場面にて、件の大使と主人公との出会いや確執が描かれているが、「大切な人達を殺した」と観客に伝える様な描写や展開が全く無いのだから驚きだ。これでは構成も何もあったものではない。

亡命後の現在と、それ以前の過去とを交互に平行描写していく構成が、何ら有意に絡み合わず、ただ事象をブツ切りの箇条書きにするための手段でしかない。各場面の間に何があったのかが、描くどころか匂わされすらしないのだから、全てが単なるイベント消化に終始して、その奥にある人間の心が見えてこないのだ。

だからラストがとってつけた様なシラケにしか感じられない。DVやギャンブル、借金から抜けられない人間を見るまでもなく、こんなダメ男は、一時は反省してもまたすぐ同じ愚行を繰り返すに決まっており、何らハッピーエンドとして成立してない。

音楽との関わりよりも重視されている様にも感じられる女性遍歴にしても中途半端だ。エロエロの美女、夢見るコミュニスト、一番近くにいた都合のいい女、と渡り歩くチョイスは、確かに的確だ。だがそれぞれ、出会いも結びつきも別れも、全てが次へと話を進めるための、唐突で取ってつけたものに終始。

特に二人目のマリアンナが、いきなり革命勢力の大物として再登場するくだりなどは、あまりにご都合主義、ギャグでやっているとしか思えない。背景となる革命も、エピソードの跳躍と共に飛ばされるのみで、主人公の心にどんな影響を与えたのかすら曖昧では、物語として成立していない。

亡命時の駅でのエピソードもまた恣意的にすぎる。許可証があるのに話が通じないなどありえず、その時点で話を特定方向に無理から進めたい意図がバレバレだ。案の定、現妻ナターシャと元カノとの対決が設定されて、今の妻だけでなく別れた相手からも強く愛されているのだ、と、都合よく主人公を持ち上げているが、何故こんなクズがそこまで愛されているのかが、そこまでの描写で全く伝わらないので、感動など出来る筈も無い。二人の女性の対比や対決は描きながら、最初の女性アンナには触れないのも中途半端だ。

初めて作曲し発表した曲の初演が失敗する展開でも、何故酔っ払い親父に指揮させたのかが不明では、失敗させたい事優先の無理からな展開でしかない。しかもその酔っ払いが責任を追及されたり揉めたりといった、事後の描写が全くなく、それに対し主人公がどう対応したのかもなく、当たり前に呆れて帰った女を追いかけてグダグダしているだけの様子を延々と見せられて、一体何が面白いのか。

本作の作り手は、観客がラフマニノフ像に求めているものを全く理解せず、人間の多面性を全くリアルに描けていない。ラストに「本作品は芸術的創作であり、事実と異なる」と表示されるが、創作する事で面白くなるのならともかく、つまらなくなる方へ作ってどうしようというのか。

芸術という言葉を、独りよがりで無価値なオナニーの逃げ口上という意味で使っているのであれば、まさにピッタリではあるが。



tsubuanco at 18:27│Comments(0)TrackBack(3)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 真・映画日記『ラフマニノフ ある愛の調べ』  [            ]   2008年05月25日 20:41
JUGEMテーマ:映画 5月13日(火)◆804日目◆ 午後6時に終業。 銀座にある「銀座テアトル」へ。 7時の回の『ラフマニノフ ある愛の調べ』は3、40人ほどの入り。 ロビーでチラシを何枚か取る。 その中で「タイ式シネマパラダイス」のスケジュールが載ってる...
2. ラフマニノフ ある愛の調べ  [ 利用価値のない日々の雑学 ]   2008年05月27日 12:31
不思議なのだが、日本人はなぜかラフマニノフ好き。モーツァルトが好きなのに、ラフマニノフっていうのも良く分からない。いいじゃない音楽なんだからって言われるかもしれないが、それは要するに何だっていいじゃないって事なんだと思うが、一方でこの国の芸術教育にも...
3. 映画『ラフマニノフ ある愛の調べ』を観て  [ KINTYRE’SDIARY ]   2008年07月27日 18:06
48.ラフマニノフ ある愛の調べ■原題:Lilacs■製作年・国:2007年、ロシア■上映時間:96分■字幕:太田直子■鑑賞日:5月10日、ル・シネマ(渋谷)■公式HP:ここをクリックしてください□監督:パーヴェル・ルンギン□脚本・製作:ミハエル・ドゥナエフ□脚...

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments