2008年05月25日

ジェイン・オースティンの読書会 62点(100点満点中)

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18世紀末から19世紀初頭にかけて、イギリスの女流作家ジェイン・オースティンが発表した六本の長編小説をお題とした、カレン・ジョイ・ファウラーによる小説を映画化。

ジェイン・オースティンの作品について登場人物が語り合う、との、外的な面でのお題だけでなく、各人物の人間関係や変遷、人物設定や背景など、物語自体の中に、オースティン作品からの要素を引用、内在させたストーリーとなっている本作は、当然それを理解し楽しむには、オースティン作品六本全てを読破している事が最低条件となる。

それでなくては、単に中途半端でお気軽なラブコメディとしか映らず、あまりの捻りの無さ、予定調和に呆れかえる事となるだろう。だがそれは、ガンダムを知らないのにケロロ軍曹を読む様なもので、受け手側の認識の問題である。

そうしたハードルの高さを一応は考慮したのか、この映画版では原作よりも不親切さを軽減させ、劇中にて事あるごとに、人物や事象とオースティン作品におけるそれとの近似に言及させ、理解を容易にしている配慮が見受けられる。にしても、人物名や作品名には何の説明も無いのだから、読んでいないと意味がわからない事には変わりない。

劇中で語られている通り、ジョスリンは『エマ』の主人公エマの投影だ。原作では少女時代の傲慢による失敗エピソードなどを描く事で、よりエマらしさを認識させ、その傲慢さと己の見えなさをアイロニカルに描きつつ、だが決して嫌な女ではない、と、多面的な人物像を描いていたが、基本的に映画版では、そうした各人物の過去は省略されており、人物像も単純化されている。それでも、ブリーダーである事を強調し、犬の配偶や交配を血筋や価値で決める様によって、エマの傲慢さをディフィオルメ気味に投影させて皮肉るなど、ポイントは押さえている。とはいえ省略の多さによる底の浅さは否めないが。

だからといって相手役となるグリッグが、『エマ』にてそうであるナイトリーと単純に位置づけられるわけでもなく、例えば、ジョスリンはグリッグとシルヴィアを結び付けようとするが、グリッグの本命は当のジョスリンだった、という展開は、『エマ』におけるエマ、ハリエット、エルトン師の関係展開をなぞらえたものだ。グリッグの第一印象がとんでもないのは、『自負と偏見』における相手役、ダーシーの第一印象の悪さであり、だがやっぱり最後はツンデレの末、予定調和に結びついてしまう事で、『エマ』に回帰する。

シルヴィアとダニエルの関係変遷が、『説得』におけるアンとウェントワースである事は劇中でも語られている。彼らの娘であるアレグラがクライミング中転落して負傷し、それがきっかけで復縁へとつながるのも、『説得』の展開によるものだが、物語の終盤になって、主人公または近しい人物が倒れ、周囲が混乱する事で、却って全ての事態がいい方向へとまとまっていくとの展開は、『説得』に限らず他作品にもよく見られる、オースティン得意のまとめパターンである。

アレグラが恋人のコリンに騙され利用していたと気づく展開は、『エマ』にて、実はジェインとつき合っていたフランクが、それを隠すためにエマを利用し騙していた展開を思わせる。臆病だが分別を譲らないプルーディーは、『マンスフィールド・パーク』の主人公ファニーだ。彼女の母親や夫のレベルが低く、それを恥ずかしいと思う様は、同じく『パーク』におけるファニーの父親像を想起させる。

『謎の円盤UFO』のエリス中尉にも似た髪形が印象的なプルーディーは、映画版ではムッツリスケベの堅物で文学以外に興味が無いかの様に描かれているが、原作では『アメリカン・ヒーロー』や『バフィー 恋する十字架』などテレビヒーローものを愛好する一面も見せている。また、映画にてプルーディーが映画館で出会う人物はバーナデットだが、原作で出会うのはジョスリンであり、己の正義に躊躇しない人物描写が、その時にも強調されているなど、細かい改変は多々見られる。グリッグも原作よりは10歳近く若い

「ひとつの表現に二つの意味を込めるのが皮肉だ」と原作で言及している通り本原作では、人間に対する皮肉をコミカル且つ痛烈に、しかし嫌味にならない程度に描く、オースティン文学の基盤にあるアイロニーをも作品に多用しており、それは映画版でもある程度再現されている。

女性読者が多いオースティン作品だけに、読書会メンバーは六人中五人が女性である。それぞれに個性を立たせてはいるが、一人混ざった男性との対比になると、単純に男に対する女として一様の反応になってしまうのが、まず皮肉の一段だろう。

オースティン作品に関する会話にて展開される持論では、女性はキャラ読み重視であり、男性は物語構造の解釈や、他ジャンル作品との類似を指摘するなど、ロジックや大系的視点をも考察し、更に作中で触れられている別作品にも興味を示す。一方女性はその別作品が実在する事さえよく知らずに、オースティン愛好家を自称していた、と、女性作家が女性作家の作品をお題に女性を描く作品だけに、女性を内省的に皮肉る描写が何とも小憎い。

オースティンに代表される恋愛小説とグリッグが愛読するSF小説を、女性と男性の対比を象徴させる様に用い、グリッグが『自負と偏見』を読んだ事がないと吐露すると、女性達は一様に勝ち誇った様に呆れかえるものの、その女性達は価値あるSFの名作などハナから馬鹿にして読んだ事すらないのだ。ここでも、"男をバカにする女性"を描く事で却って、女性の"自負と偏見"の愚かしさを皮肉り、ニヤリとさせられる。

そして、まずグリッグからオースティンを読みはじめ理解し、ジョスリンがSFを読むのは最後になってから、と、先に譲るのは男であり、視野の広さや懐の深さをやはりアイロニカルに表現。そしてこれはオースティン作品において、ヒロインが最終的に結ばれる男性像の定番である。何から何までオースティンが根底にあるのだから、読まずに観るのは大いなる損だ。

ラストシーンはオリジナルだが、全てがいい方向に収まってめでたし、との終わり方はオースティンの定番。どうせなら、アレグラもまた別の相手を連れている、とまで徹底させた方が笑えたか。

やたらと慌しいオープニングもオリジナルだが、オースティン作品にて描かれる優雅なスローライフが、現代のアメリカでは失われていると皮肉る意図は成功しているものの、本編のカラーにはそぐわないとも思える。

「オースティンは結婚後を描かない」と言いつつ、結婚、カップリングの成立をハッピーエンドとしているのは、これまた意図的な皮肉か。だがオースティン作品は、まず最初にヒロインを紹介するに当たって、その両親の馴れ初めから説明を始めるものが多い。つまりは結婚後の現実を描いているのだ。ここは突っ込んでおきたい。

オースティン作品を読み始めるなら、筑摩書房キネマ旬報社から出ている翻訳版が、読みやすくてオススメ。



tsubuanco at 17:04│Comments(1)TrackBack(8)clip!映画 

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1. Posted by kimion20002000   2009年01月08日 21:43
日本には、オースティンに匹敵するような近代心理劇の国民文学のようなものはないからなぁ。
あえていえば、夏目漱石なのかなあ、と。
漱石は、オースティンのこと、絶賛してるしね。

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