2008年05月28日

山のあなた 〜徳市の恋〜 5点(100点満点中)

シルバーめくら手裏剣
公式サイト

1938年の松竹映画、清水宏脚本・監督による『按摩と女』を、"完全カバー"と銘打ち石井克人監督が再映画化。何故か今回は東宝配給だ。

その『按摩と女』、とても戦前の映画とは思えない程に、映像構築と演出は極めて先鋭的であり、大いに感心させられる。同時期の他作品と比較しても、演出のテンポの良さは現代に通ずるもので、旅情を描く作品ながら、少しも冗長やダレを感じさせず、小粋な会話を軽妙なノリで楽しませてくれる。

冒頭でいきなり、二人の按摩が山道を歩き続ける様を、正面からトラックバックでフォローし続ける長回しにて始まり、山道を延々と歩き進んでいる事を的確に認識させる。と同時に、二人が交わす会話の説明臭さを、話すくらいしかする事が無いからと思わせて不自然さを軽減

更には二人が向かう先、すなわち画面手前側から向かってくるであろう事物、人物を、二人のリアクションによってまず知らせ、次いで現われる事で納得させる、との作劇を用いている。その手法にて馬糞を登場させておいて、まずクスグリ的な軽い笑いを起こさせた上で、しばらく後に馬車が登場する前フリともなっている。

その馬車は、最前まで二人がすれ違っていた事物人物とは逆に、背後の画面奥から二人の間を過ぎていくものとして、ここで初めて、カメラの向きが180°切り返され、二人の向かう先が見える事となり、この後の道中を省略する意味付けとなっている。

この様にファーストシーンだけでも、監督のセンスの高さは充分に見て取れ、次はどんな風に見せてくれるのかと、最後まで目を離す事は出来ない。旅館場面で多用される横移動ショットにて、隣の部屋へと視点を移動させる映像は、舞台劇にて照明の移動で視点を誘導する仕掛けを、映画として再現したものとも見受けられる。終盤の、"東京の女"が渡り橋を歩いて行く様を、黒フェードを交えたジャンプカットにて飛び飛びで見せる映像など、観客の印象をコントロールする手腕は秀逸。

女にマメな徳市、歯磨きにこだわる福市など、按摩達のキャラクター立てとは逆に、旅人として旅館に滞在する者達は、ストーリーのメインとなる"東京の女"や"東京のおじさん"と"坊主"らですら、名前さえも明らかにならず、背景も曖昧なままで終わらせているのは、行きずりの旅人をメタファーとして配置しているからだ。何から何までを興味深く読み取って楽しめる、傑作中編と評価出来る作品が、オリジンの『按摩と女』である。

そしてそれを現代に甦らせようとの企画にて、"カラーによる再現"を意図して作られた本作。だが、色も含めた画質と、音質が良くなった以外で、オリジンよりも作品として優れているところが一つもないのだから困る。それなら、出演者の好き嫌いを別にすれば、オリジンを観るだけで充分だ。

まず気になるのは、カバー、再現といいながら、オリジンにはない風景やアップのカットをやたらとインサートしている事だ。これにより、先述した長回しの意義は軽減し、作劇のテンポも間延びする。

オリジンでは正面から撮っていた構図を、背後からに変更したり、画面内のレイアウトを、背景あるいは奥のフレーム内フレームとなる事物はそのまま、手前の人物だけを左右逆に変えていたりもする。その事によって作品の質が上がるのならともかく、特にそうはならずただ違うと気づくのみでは、再現とは反するものでしかない。

カラーで再現したいとの意図にて、脚本からカット割りからトレースを行いながら、中途半端に自己主張を挟み込む様なマネをしては本末転倒だ。再現も徹底せず、といって作家性の主張も中途半端では、どちらの方向性でも完成度を評価出来ない。

現代的なテンポがオリジンの良さの一つであったのに、内容が同じながら66分の尺を94分に引き延ばしている本作は、当然ながらテンポも遅く冗長となっている。これでは良さを殺し逆行していると批判されて仕方ないものだ。

大体、目明き、目明きとやたらと連呼していながら、ただの一度もメクラと言わせないのは、あまりにも不自然すぎ、そもそも再現出来ていないではないか。クリエイターとして悪しき自主規制と戦う志も無いクセに、わざわざメクラが主人公の作品を選ぶ意味がわからない。清水宏作品なら、他にも出来のいいものはある。

こんな、「自分が作りたい」だけの習作で、会社からも観客からも金を取って懐を肥やすとは、何と羨ましい、もとい、けしからんお仕事だろう。呆れ返る。

とは言え演じる出演者達に罪があるわけではない。草なぎ剛は相変わらず過剰演技にも感じられるが、気持ち悪いの一歩手前で踏みとどまる、キャラクターナイズされた演技を見せてくれている。ヒロインのマイコも、オリジンの高峰三枝子の魅力に敵うべくもないが、戦前美人の雰囲気は出せている。最近やたらと大活躍の広田亮平も、記号としての子供を的確に演じる事で、何度も泣くパターンによる笑いなど、子供らしさを子供らしく演じている。

鯨屋の仲居お菊を演じた黒川芽以も違和感無く存在を発揮。野村佑香伴杏里、尾野真千子、金田美香末永遥の女学生五人組は、チョイ役とは思えない豪華キャスティングで印象を残している。だけに対となる男子学生四人組の大根演技は興を削ぐ。

出演者ファン以外には無意味な作品だ。興味があるならオリジンを観て、完成度の高さに驚愕すべし。


tsubuanco at 16:03│Comments(2)TrackBack(7)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 【映画】山のあなた 徳一の恋  [ 新!やさぐれ日記 ]   2008年05月31日 14:26
■動機 草彅剛と加瀬亮 ■感想 ほんのりほんわか ■満足度 ★★★★★★☆ いいかも ■あらすじ 目の不自由な按摩(あんま)、徳市(草なぎ剛)と福市(加瀬亮)が温泉場へと徒歩で向かっていると、2人の横を東京から来た三沢美千穂(マイコ)を乗せた馬車が通り過...
2. 【2008-126】山のあなた 徳市の恋  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2008年05月31日 18:10
3 人気ブログランキングの順位は? 見えない目であなたを見つめていた。
3. 山のあなた 徳市の恋  [ シネマログ  映画レビュー・クチコミ 映画レビュー ]   2008年06月01日 00:30
♪ないしょ、ないしょ、な〜いしょ■ストーリー昭和の時代、山奥の湯治場で働く盲目の按摩、徳市。徳市は、目に見えないが故か鋭い勘を持ち、それは前を歩いている人間の数から性別までをピタリを当てるほどだった。そして湯治場で客として出会った東京から来た若い女に、鋭...
4. 映画「山のあなた ??徳市の恋??」  [ 茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり?? ]   2008年06月01日 02:16
山のあなたの空遠く、「幸」住むと人のいふ ああ、われひとと尋めゆきて、 涙さしぐみ、かへりきぬ 山のあなたになほ遠く 「幸」住むと人のいふ・・・ 山のあなたの空遠く・・幸せというものは、いつもいつも手の指の間をすり抜けて、何処か知らないところの遠...
5. 山のあなた〜徳市の恋〜  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2008年06月04日 23:29
公式サイト。石井克人監督、草磲剛、マイコ、堤真一、広田亮平、加瀬亮、三浦友和。清水宏監督・脚本の「按摩と女(1938年)」のリメイク。何とまあ、三角関係ならぬ四角関係のラブコメディ。
6. 真・映画日記(1)『山のあなた 徳市の恋』  [ CHEAP THRILL ]   2008年06月11日 18:04
JUGEMテーマ:映画 5月30日(金)◆821日目◆ なんとか仕事を午後5時40分に終え、 御成門→日比谷→豊洲へ。 ちょいとわけあって、「ららぽーと」にある「ユナイテッド・シネマ豊洲」へ。 売店でここでしか売っていない“ある物”を買う。 ついでなので、『山の...
7. 草彅剛の「山のあなた??徳市の恋??」を観た!  [ とんとん・にっき ]   2008年06月13日 17:54
世田谷の三軒茶屋にそびえ立つキャロットタワーの中にある世田谷パブリックシアターの掲示板に、草彅剛の「瞼の母」のポスターが1ヶ月ほど貼ってあり、嫌でも目に入りました。作は長谷川伸、演出は渡辺えりです。ん?渡辺えり?そうです、美輪明宏の助言で「渡辺えり子」

この記事へのコメント

1. Posted by ぽん   2008年05月26日 21:20
オリジナル未見なので、その点はなんとも
言い難いのですが、この映画、良かった
ですけどね−。オリジナルと比べての評価と
いうことなんでしょうが、それにしても5
点とは…。残念です。
ダメとされている理由も、今回あまり説得
力がないような…。まぁ、とりあえずオリジナル
捜して観てみますけどね…。
2. Posted by つぶあんこ   2008年05月30日 17:21
オリジンを観ればわかると思いますよ。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments