2008年05月30日

幸せになるための27のドレス 59点(100点満点中)08-170

悪い時は どうぞぶってね あなた好みの女になりたい
公式サイト

『プラダを着た悪魔』と同じくアライン・ブロッシュ・マッケンナが脚本、『ステップ・アップ』のアン・フレッチャーが監督を、それぞれ務める、そのものズバリ"結婚"をお題としたラブコメディ映画。

カッコ悪い出会いから始まり、何故か片方が夢中になって、仕事と私情の板挟みに悩みつつ、上手くいくと思った途端にピンチ、でもやっぱり自分を見つめ直して決心し、会場に駆けつけてハッピーエンド、と、基本的な流れはとにかく何のヒネリもなく、どこかで見た様なありがちな、同ジャンルの王道そのままに沿って進められる本作、だがそれで構わないのだ。

近年のガーリッシュムービーで言えば、主人公姉妹のキャラクターは『イン・ハー・シューズ』のそれに似ているし、全体的な流れは『ブリジット・ジョーンズの日記』を思わせる。が、『イン・ハー』はジェーン・オースティンの小説『分別と多感』の姉妹をモデルとしたものであり、『ブリジット』は相手役の名前ダーシーから明確な通り、同じくオースティンの『自負と偏見』がベースにある。

200年前にジェーン・オースティンが作り出した、この王道パターンが、如何に人の心を掴む的確なものとして、既に完成されていたかがよくわかるというもの。時代につれ風俗は変われど、人の心の根本は変わっていないという事だ。閑話休題。

キャサリン・ハイグル演じる本作ヒロインの、自負心の強さ故に陥りがちなアンチスパイラルが、実際にありがちな心情や事象としてリアルに描かれており、だからこそ観客は、男でも女でもまるで自分の事の様に、何とも気まずくバツの悪い感情を掻き立てられる事となる。

彼女とウッチャン似の上司、彼女とキャメロン・ディアス似の妹(マリン・アッカーマン)の関係性において、それは顕著となる。彼女は上司に対し、どれだけ近しくなろうとも、恋人や妻ではなく、母親と息子の様な関係に陥ってしまっている。これは仮に恋人や夫婦であっても、近しい男女間に発生しがちな関係性であり、極めてリアルだ。

「あの人は自分がいなければダメ」と思う事で存在意義を自負している彼女と、それに任せておけば楽だからと甘え放題な上司、その関係は、ネクタイを締めたり、どこに何があるのか完璧に把握していたりと、「お母さん、パンツどこ?」状態。そんな関係が"対等な恋愛"に成就するわけもない。後半のキスシーンは、その結論を提示するものだ。

妹に対しても同様。「妹は私が育てた様なもの」の台詞が象徴している通り、甘え放題な妹に困りながらも、頼りにされる自分こそが自意識を支えている。つまるところこれは、一方が一方を利用しているわけではなく、互いに寄りかかって共生している関係だ。ただしこれらは、どちらの側にも自覚がない事が問題となる。

その様に、自らを無意識のうちに"賢母"として位置づけていたからこそ、母親のドレスに対する思いが執着と化し、人間関係のバランスを壊すブチ切れの要因として配されている。

妹との関係崩壊が、互いのネガティブな心情やコンプレックスをも吐露し合う、コミカルながらウェットでシリアスなものとして描かれているのは、血縁という断ち切り難い関係ゆえに、死ぬまで関わり合うからこそだ。この時主人公側の歪んだ自負心とコンプレックスだけでなく、妹の側の、"出来のいいお姉ちゃん"に対する憧れ依存コンプレックスが入り交じった、「大好きだけど大嫌い」な感情が描かれている事で、妹は記号的な"悪役"から人間へとシフトされる事となる。

一方で上司の側は所詮は他人だからこそ、主人公が「自分はこの人を必要としていない」と気づいた途端に、素っ気なくお別れしてアッケラカンとしている。血縁だけでなく性別も関わる、この扱いの差は、恋愛をリセットし上書き保存すると比喩される、女性特有の割り切りをリアルに表現したものだ。

上司は主人公の一面しか見ていなかったのに対し、カッコ悪い出会いから始まり、散々衝突した王子様(ジェイムズ・マーズデン)は、悪い部分も含めて自分を認め、受け入れてくれる事を気づいたからこそ、主人公は彼を選択する。これまた王道的な必然が、しっかりと描かれている。

そのメイン二人の距離感を描く作劇、演出もまた、極めてベタの王道ストレートだ。監督の前作『ステップ・アップ』と近似した構造とも併せ鑑みると興味深い。

序盤の掛け持ちシーン、パーティの進行を共にシンクロさせながら、光景のビジュアルを異とする事で、同じ事と違う事の両方が入り交じった効果を表現する手法は、『ステップ』序盤の、異なる場所で行われている二種類のダンスを交互に見せる手法と同一だ。場面は切り換えながら、現実音楽を含めて流れる音楽は連続しているのも同様。

中盤の自宅ファッションショー場面、および泥酔してのダンス場面は、『ステップ』中盤における、クラブでの群舞シーンと同じく、PV的な演出によって観客のテンションを高め、同時に劇中人物のテンションをも高めて、二人の距離が一気に縮まる展開に、テンポと説得力を両立させたものだ。

ヨガ教室場面や、嫁入り道具(?)の物色場面などでは、行動目的のアクションを絶えず起こさせながら、主人公ともう一人とでやはり絶え間なく会話を展開させ、両方のテンポを相乗させて、実際以上にテンポの速さを感じさせ、大した事を話しているわけでも、大した事をしているわけでもないのに、観客の興味を引きつけるべく作用している。これはこの種のオシャレムービーに多用される、手堅い演出法だ。

他人の結婚披露宴で幸せのご相伴に与っていた主人公が、最後は他人の結婚披露宴で、自分の幸せを決定づける、脇役から主役へと変転する展開も王道。二人の関係を一時破綻させた記事が、ここにきていい方向へ作用する仕掛けも気持ちいい。

もはやスッカリ映画ファンに周知してしまったジェームズ・マーズデンの法則、今回はメイン王子様役ではあるが、過去を語るシーンにてやはり"寝取られ"を告白しており、過去出演作の有様を想起させられる事となる。これが単なるキャラネタではなく、失敗して臆病になっているからこそ、結婚に対し純粋で真摯なヒロインを選択する、展開上の必然ともなっているのだから上手い。

ヒロインの近くにいながら、その奔放なキャラに反し、客観的に事象を見据えている親友(ジュディ・グリア)の配置も王道にして的確。"大人の女"ながら愛らしい表情を見せており、むしろ主人公姉妹より魅力的だ。

まだ子供なのに既に"悪い女"に引っかかる素養が全開な、上司の義弟ペドロのキャラクターも小憎い。誠実を絵に描いた様な父親など、ベタながらツボを押さえた人物設定が安心感を生む。

だがあまりに安心出来すぎるために、これといった突き抜けが見当たらないのは、あまりに無難すぎるか。観れば面白いが観なくても困らないのは困りものだ。

今回の日本語字幕、バー場面での「飲むっきゃない」に引っかかった以外では、部下が上司に敬語を使っているなど、かなり自然度が高いものだったが、最後に"字幕:戸田奈津子"と表示されて驚いた。

本当の自分に立ち返りつつ、過去の自分も決して無駄ではなかったとしてハッピーエンドを更に盛り立てる、"27のドレス"がズラーッと並ぶラストシーンの光景は、昭和仮面ライダー劇場版における、崖の上にズラーッと並ぶ再生怪人軍団の様で壮観。




tsubuanco at 18:08│Comments(1)TrackBack(19)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by ryoko   2008年06月09日 15:33
とっても説得力のある分析で、嬉しくなりました。
ジェーンとテス、ジェーンと上司、どちらも共依存の関係であること、姉妹間の葛藤は続くが、上司は他人だから熱が冷めればどうでもよいというのは、すごくよくわかりました。

ラブコメといって軽く侮るなかれ、ですね。

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