2008年06月01日

ラスベガスをぶっつぶせ 39点(100点満点中)

この世に果たしてロマンはあるか、人生を彩る愛はあるか
公式サイト

ブラックジャック必勝法を実戦したMIT学生達の実話を取材した、ベン・メズリックによるノンフィクション本『ラス・ヴェガスををブッつぶせ!』を原作に映画化。

映画版の原題は『21』だが、原作の原題は『Bringing Down the House』。邦題は1998年のテリー・ギリアム監督映画『ラスベガスをやっつけろ』に沿ったものだが、それ以前に、本作の題材となるブラックジャック必勝理論を最初に発表したエドワード・オークリー・ソープの著書、1962年出版の『ディーラーをやっつけろ!(原題:Beat the Dealer)』が、その根底にある事は明らかだ。

その底本、原作内では必勝法を説明する段にて当然の様に紹介、引用がなされ、今回の映画版でも、主人公が講義中にテキストに隠して同本を読んでいるシーンが挿入されるなど、オリジンに対する言及はなされている。

だが今回の映画版にて問題となるのは、原作では一から筋道立てて説明され、読者がその意味を理解した上でストーリーが進められる、肝心の必勝法・カードカウンティングに対し、場に出たカードの種類ごとにポイントを振り、現在何ポイントかを常に数えていく、まではいいとして、ではそのポイントが、どの様に勝負に左右するのか、どんなポイントの時にどんな行動をとると勝てるのか、逆に負けるのか、といった説明が何らなされていない事だ。

そもそも、数あるゲームの中で何故ブラックジャックを選び、それのみに固執するのか。原作では、純粋に確率的に、ディーラーよりプレイヤーの方が有利となる唯一のゲームだからだと、やはり事細かに説明がなされ、なるほどと納得が得られてからお話に突入するからこそ、ストーリーの起伏を楽しめるのだ。映画版ではまずそれがない。根本が周到されていないのだ。

だから当然、実際にゲームが始まっても、主人公が何をどうして勝ったのか、常に"勝っている"結果しかわからない。これでは主人公の頭の良さも活きてこず、"仕事"の過程も楽しむ事が出来ない。ゆえに主人公に感情移入する事も、ドラマ展開に没入して一喜一憂する事も出来ない。

尚、本作のストーリーは、原作とは大きく異なるものだ。何せ主人公の設定から全く違う。原題が原作と違う由縁は、そうした大幅な改変によるものだろう。それによって全く実話ではなくなっているのはご愛嬌だが。

原作では主人公は金に困っているわけでもなく、下層カーストのオタクグループに属しているわけでもなく、普通に彼女もいて成績も優秀で、何不自由ないエリートであり、チームに参加するのも、単に面白そうだと思ったからだ。

その意味では、本作の主人公は、原作に比べると、観客の感情移入を誘い、時に同情的になり応援したくなる様な意図を込めて、改変がなされていると考えていいだろう。にも拘らず、原作よりむしろ入り込めないのは何故なのか。

それはその改変が、BJ必勝法の内実が語られないのと同様に、人間の心情や人間関係の変遷までもが、アメリカン的定番における決まりきったお約束の上辺だけを追っているものに終始するからだ。定番は面白いから定番となる。だがそれは、登場人物に感情移入して共感出来る描写がなされてこそだ。

必勝法に対する不足と、人物描写に対する不足の双方が相乗し、完全に観客の心的乖離を生んでしまった局面が、主人公の暴走による挫折シーンと言える。

ここに至るまで、どうすれば勝てるのかの説明がなかった事により、逆にどうなると負けるのかも掴み難い。感情に走ったから、との説明はつくが、だからと言って結局は確率論でしかないBJに、そこまで負けが込む事になるのには、感情以外の理由も必要とされる筈だ。そうした必然や納得が何もなく、主人公の感情描写もまた、表層的なお約束に沿ったものでしかない事で、その場面がただ取ってつけたものとしか感じられず、観ている側は何の感慨も湧かない。

そうして全く感情移入が行えておらず、また、そうなるのも仕方ないとの必然が描かれていない事で、その後の主人公の転落は、まずは自業自得としか感じられず、全く同情出来ない。だから主人公の再起を応援する気にもならない。および、離反後に教授が行う仕打ちもまた、無理からな取ってつけたものとしか思えない、今までの描写からの納得がない事で、更に醒めてしまう。

よって、その後の再起や逆転、どんでん返しなどで主人公が成功し、教授は転落する、とされても、どっちもどっちとしか映っていなかった観客にとっては、主人公は主人公だからハッピーになる御都合主義としか感じられない。あまつさえ最後まで悪役扱いなカジノスタッフが、何のペナルティも受けずハッピーなのでは、教授だけが転落する事に対し、余計に据わりが悪くなる。

ヒロインとの恋愛絡みのストーリーも、同じく上辺だけをなぞったものに終始。人間の心というものが全く描かれていないどころか、何故この二人がくっつくのかにすら必然がない。序盤の体育館シーンにて、つきあっていたらしきマッチョ男の存在が、その場のギャグにしか使われず、その後何の関係もないあたりからも、ちゃんとしたドラマを作ろうとの意志が、そもそも欠落していると瞭然だ。

原作の展開とも一部シンクロする、フィッシャーとの確執や離反のストーリーも、脱けたらそれっきりで、最後に友人が勢揃いする場面にも登場しないのでは中途半端すぎる。いつか戻ってくると思って待っていたキーファが最後まで帰ってこないドラクエ7かと。

これなら『100万$キッド』でも読んでいる方が楽しめる。



tsubuanco at 14:01│Comments(4)TrackBack(21)clip!映画 

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19. 「ラスベガスをぶっつぶせ」  [ 心の栄養♪映画と英語のジョーク ]   2008年10月29日 09:49
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21. ◆DVD・ラスベガスをぶっつぶせ  [ 映画大好き☆ ]   2009年01月31日 22:28
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この記事へのコメント

1. Posted by 放課後のペテン師   2008年06月02日 15:56
チキンディナー14回だの14年前のことだの、何かと14という数字が使われてたのは何故ですかね?
2. Posted by ララー   2008年06月03日 01:44
点数つけるとしたら、私も同じくらいだとおもいました。原作読まれたんですか?
3. Posted by つぶあんこ   2008年06月04日 17:36
原作は日本語で読めるものは大抵読んでますよ。本好きですから。
アメコミは原書でも読みますし。
4. Posted by モスラ   2008年07月27日 02:23
10カウントのルールやらブラックジャックのルールを細かく説明していたら観客は飽きてしまうよ。
映画は映像がメインになってくるし、小説みたいに細部は描かない。細部を表現しようとすると全体のテンポは間延びして尺も足りなくなってくる。
その点、この映画は展開も分かりやすくいいバランスだったと思う。
ただ、主人公とヒロインの中途半端な恋愛描写は蛇足。
その分を教授の過去に当ててほしかったです。

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