2008年06月02日

長い長い殺人 48点(100点満点中)

俺は天才だ〜!
公式サイト

宮部みゆきによる同名小説を原作に、WOWOW放送用にドラマ化したものを劇場公開。

一つの事件に関わる人物達の、各々が所有する財布を擬人化した視点で語られる本作は、一編ずつ独立した視点により完結するエピソードの中に、それぞれ事件に関わる事象を当て込んでいき、最終的に一つの全体像として完成されるオムニバス長編なる、少し変わった手法にて構成される。

その各エピソード、どれか一つだけを独立した短編として扱っても、一本の作品として成立するだけの、基点となる人物の背景や心情、起承転結のストーリー展開が用意されているもので、人物描写に定評のある宮部みゆきならではだ。だがそれを今回映画化するに当たり、一応視点が切り替わるごとに章題が表示されるものの、あくまでも全体としての流れを重視した、流れの一本化が図られているために、各エピソードおよびそれを構成する、メインの事件との関わりが希薄な人物の、その存在意義までもが希薄となり、原作を知らずに映画だけ観た場合、「この話は必要だったか?」あるいは「結局あの人はどうなった?」と思わされる局面が多々ある事となる。

それはメインストーリーに大きく関わる人物に関しても同様、例えば事件を追う刑事(長塚京三)の心臓が弱い事やローンに困っている事などは、事件捜査の展開とは特に関係なく、物語後半に至っては何の意味も成さず、普通の刑事さんでしかなくなっているのでは、一体何の意味があったのか、よくわからなくなる。彼を買収しようとする女性(上原美佐)のエピソードに至っては、思わせぶりな彼女の不倫が事件に関わらないため完全に尻すぼみだ。

平山あやと佐藤めぐみのエピソードも同様。ただ死体を見つけるだけのために、二人の友情だの恋愛だのが壊れていく話を、中途半端にダイジェストで挿まれても、一体何の意味があるのか、映画だけ観ても理解出来ないだろう。

これらは、原作の特殊な構成を完全に諦めて普通の一本ストーリーにするのか、あるいは原作のオムニバスを再現するのか、どちらにも寄る事が出来なかった中途半端さに、全ての原因がある。これは財布の視点云々以前の問題だ。

本原作は、そうした各個のエピソードおよび人物像が必要以上に描かれている事からも自明な通り、事件の謎解きそのものよりも、単純に事件と言っても多くの人が関わって動いている事、その一人一人にも、生きた人間としての人生や背景が背負われている事を重視して、各人物を綿密に追った蓄積こそを最大の伏線としている事が、最大の特色であり、面白どころと言える。

以下真犯人に関する言及あり、未読または未見の人は自己責任で。


親の育て方によって培われてしまった、自分が特別な存在であるとの自負心と、だが実際には有象無象の一人にすぎないとの現実、そのギャップによって人格が歪み凶行へと走る、とのキャラクター造形そのものは、フィクションにおける殺人犯の像としては特段に珍しくもない。だが本原作では、彼が登場する以前からずっと、あらゆる有象無象を一人ずつ丁寧に採り上げて人物像を描いていく事で、彼の存在がとるに足らないその他大勢にすぎないとの事実を、殊更に強調し、犯人像がそうである事が、ストーリーではなく作品構成として当然の帰結であるべく配されている。これが原作の秀逸な点である。

一方今回の映画版では、その要点は特にクローズアップされず、ただありがちな頭でっかちのサイコ坊やとして描かれているにすぎない。これでは作品の特異性が引き立たず、平凡なミステリー、刑事ドラマと変わらない印象しか残らないのだ。これが致命的。

と言っても、もう一つ題材的に特色として挙げられる、いわゆる三浦和義のロス疑惑を元としたと思しきメイン事件において、興味本位が優先されるメディア報道を皮肉るだけでなく、それに無思慮に踊らされる愚衆をもディフォルメしてクローズアップし、愚かなメディアを支えているのは、何よりも大衆の興味本位である、と突きつける点においては、原作よりもオーバーに表現される事で、皮肉を強調しており、人によっては居心地が悪く、人によっては痛快に感じるのではないか。

そして、当事者でもないクセにわかった様な口をきくな、と批判するまでは、本作以外でもよく見られる主張ながら、本作では更に、当事者をわかっているつもりの人物でも尚、本当のところなどわかってはいないのだ、と皮肉って、人間の、自分自身の願望による思い込みの愚かしさ、および結果はあくまでも結果でしかないとも突きつけて、主観と現実のギャップを描く教師のエピソードは、教師を演じる大森南朋と、女子生徒を演じる谷村美月の演技力も下支えとなり、強い印象を残す。

その大森南朋や谷村美月の様に、枝葉のエピソードとして少ししか登場しないのに、やたらと存在感の強いキャスティングがなされ、彼らの演技によって興味を持続させるている事も、本作の評価点となるだろう。だからこそ、その各エピソードの扱いが半端な事が惜しまれるのだ。

犯人の財布の声があからさまに悪人声なのはギャグなのか。本来のあり方を考えれば相反すると思えるのだが。

tsubuanco at 16:39│Comments(4)TrackBack(1)clip!映画 

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1. 長い長い殺人  [ 映画鑑賞★日記・・・ ]   2008年06月02日 17:10
2007/11/04放送(11/12鑑賞)製作国:日本、WOWOW 監督:麻生学原作:宮部みゆき出演:長塚京三、朝加真由美、金子賢、伊藤裕子、谷原章介、西田尚美、仲村トオル、平山あや、窪塚俊介、酒井美紀、石井正則財布は知っている・・・

この記事へのコメント

1. Posted by 通りすがり   2008年06月02日 20:41
駄作製造マシーン宮部みゆきの当作品は、原作からして宮部作品中5指に入るほど非常につまらなかったんですが、やはり映画もつまらないんですか。
考える財布(笑)
2. Posted by つぶあんこ   2008年06月04日 17:38
駄作でつまらないのにいっぱい読んでるんですね。すごいや。
4. Posted by ばろん   2008年06月05日 14:10
なんだかもったいない感たっぷりですね。
2,3度は読み直した作品ですが、犯人像を少しずつ読者の脳裏に組み立てていく様は活字だからこそ、読み戻れるからこその業かも知れませんね。なまじ映像があるから活字で可能だった事がぼやけてしまう要素が増えてしまうのかも。
5. Posted by つぶあんこ   2008年06月05日 14:50
各エピソード30分くらいで、連ドラとしてじっくり作れば上手くいったかもです。

これは映画としては少し長めですけど、それでも足りてないんですよね。

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