2008年06月05日

神様のパズル 68点(100点満点中)

こいつ、完璧超人かー!?
公式サイト

物理学のロジックを用いた作品を得意とするSF作家、機本伸司による、小松左京賞を受賞したデビュー作を、昨年からのコミカライズに続いて実写映画化。

監督は三池崇史、脚本はNAKA雅MURAとくれば、まず浮かぶのは『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』という残念作だが、一方でこのコンビは『46億年の恋』なる秀作も作り上げている。両作の大きな違いは原作の有る無しであり、原作アリの作品を大胆にアレンジする分には、NAKA雅MURAはいい仕事をするのかもしれない、と、『46億年』と本作を鑑みるに思わされる。

のだが実際には、NAKA雅MURAは『どろろ』『ドラゴンヘッド』の脚本も手がけているのだから、上述の仮説は的外れだ(笑)。では成否の鍵は一体どこにあるのか。同氏の脚本は、説明台詞の多さや、カタルシスの無さが、欠点として挙げられる事が多い。

のだが、『46億年』も本作も、ストーリーの必然としてカタルシスは必要ない。ゆえにこれは欠点とならない。そして『46億年』は聞き込みや取り調べ、本作はディベートと、必然的に説明台詞が多い事が逆に作品の特徴であり、面白さを担っているのだ。おそらくはこの点が理由だろう。材料との相性が極端に別れる人な模様。

大まかな流れは原作通りながら、主人公の設定から細かい枝葉に至るまで、かなりのアレンジが加えられている事が、今回の映画版の特徴となる。明らかに『神様のパズル』なのに『神様のパズル』とは違う、この絶妙なバランスは意図的な計算ではなく、宇宙が誕生したのと同程度に偶然の産物だろう。

しかし多くの改変は、そう変えるだけの必然や納得が充分に得られるもので、原理主義者は別として原作読者であっても、敢えて違いを楽しんで受け入れる事が出来るものだ。

まずいきなり、主人公が双子でしかも学生である弟の身代わりとしてゼミに入る、との大胆すぎる改変に、読者なら面喰らうわけだが、これは、小難しい物理学に関する議論が延々続く原作の内容を、子供や頭の弱い大人でも楽しめる様にと、主人公自身を物理学に無知な人間とする事で、一から説明を始める必然を持たせ、観客を主人公に共感させるためだ。

同じ理由により、中盤のディベートで交わされる議論内容も、極めて初歩的な基礎段階にとどめられているが、マニアックなSF小説ではなく大衆向け娯楽映画として作られているのだから、それで正解だ。むしろ題材に関する興味を喚起する役割を果たしていると見てもいいだろう。

無知だがツッパリたい主人公像を設定して、知ったかぶり逆ギレのリアクションで細かく笑いを取り、堅苦しい内容を柔らかくする効果にもなっている。市原隼人はオーバーにオドオドする演技は以前から絶妙に上手く、訛り設定も台詞回しに奇妙なテンポを与える事に寄与している。

主人公がロック好きとの設定もオリジナルだが、原作でも用いられていたベートーヴェンを、映画版ではよりストーリー展開に絡めて印象づけ、野良仕事の際にも『田園』をBGMとして流すなど、とことんベートーヴェンを認識させておく事で、クライマックスの歌唱(これもオリジナル)が有意な着地点として成立している。

同じくオリジナル要素の寿司も、アインシュタインとの関係を早い段階で示唆し、歌唱と同じくクライマックスに絡めて、展開に納得させるだけでなくテーマにも帰結させるものだ。

盗撮犯を早い段階で見せてしまうのも、観客をミスリードさせてオリジナルの真相で驚かせ、クライマックスを盛り上げてまたオチで納得させる、と、オリジナル要素がストーリーに絡んで構成されているために、余計な改変と映らず、楽しめるのだ。それによって相理(黄川田将也)の人物像が全く変えられている事で、興味を惹く前段ともなっている。

その一方で、壮大なスケールの宇宙創造および膨大な知識と情報との対比として、極めてミニマムな世界で何も知らないまま死んだバアさんを配置し、人間の存在意義というテーマを更なる観点から描いていた、農業絡みの展開が、映画を見る限りでは対比の意味を成していないのが気にかかる。この部分の改変は、橋詰老人(笹野高史)との絡みも含め、安易すぎてマイナスとなる。寿司と絡みそうで絡まなかったのも惜しい。

だが、原作では議論と農業が交互に延々と続き、クライマックスが占める割合はさして大きくないのだが、映画としてのテンションを考慮して、前半はインテリディベート&シュールコメディ、後半をパニックサスペンスと、全く異なるカラーに切り換えた構成は正解。これにより長めの上映時間も飽きる事無く興味を持続出来る筈だ。

とはいえ、インドで弟が楽器を手にしたのは、物理学に目覚めた兄とのシンクロだが、その事が帰国後の展開にオチがついていないのでは、インド絡みの展開は結局のところ不要だったろう。海外ロケの無駄遣いだ。このあたりも全て奇麗にまとめられていれば傑作になり得ていたのだが、NAKA雅MURAにそこまで求めるのは贅沢か。

宇宙が何故どうやって生まれたのかと、自分は何のために生まれてきたのかとを対比させ、ヒロイン(谷村美月)暴走への段取りとしているのは原作通りだが、彼女の母親(若村麻由美)の扱いがぞんざいなため、個人あるいは子供としての観点による苦悩と渇望には、今ひとつ迫れていなかった様にも感じる。これも三池作品だから仕方ないのか。原作では最後に正体が明かされる父親が、映画ではハナから全く登場しないのは、彼女の決着としては不充分ではないか。

ヒロイン穂瑞沙羅華を演じる谷村美月は、これまでも心的なエロを醸すキャラクターは演じていたが、肉体的なエロを強調したのは今回が初めてではないだろうか。ジャージの下のキャミソールの大きく開いた胸元から常に見えている、胸の谷間と胸肉は、色気の無いジャージの下だからこそエロが一層に強調され、部屋着の短パンから生えるフトモモとその付け根もまた、ジャージとの対比によって生々しさが最大となっている。早熟の天才ボクっ子引きこもりの谷村美月というだけでも凄いのに、このビジュアルは反則技だ。三池崇史は偉い。盗撮動画がノーカットだったらもっと偉かった。原作通りのメガネっ子ではないが、おそらく似合わないのでこれは構わない。

市原隼人のヘタレヤンキー、谷村美月のメンヘルボクっ子、黄川田将也のキチガイ学者、と、濃い演技を堪能するだけでも、存分に楽しみは得られる筈。

松本莉緒演じるゼミ生マドンナの名前が変わったのは、穂瑞と保積では音が似ていて混乱するとの理由だろう。石田ゆり子が「オバサン」と呼ばれても怒れないオバサンになっているのは悲しい。須藤のキャスティングは原作イメージでは小松左京タイプのメガネデブが頭に浮かんだが、フットボール岩尾でも良くハマっている。「何で関西人なのにつまんねーの?」は、キャスティングも活かしたナイスダイアログだ。エピローグでカルト宗教ネタをチラリと見せているのも、読者サービスとして的確。

小島よしおが普通の役で普通に登場し、一言も喋っていないのに、それで笑えるというのも凄い。
『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』レビュー
『46億年の恋』レビュー
『どろろ』レビュー



tsubuanco at 14:32│Comments(8)TrackBack(17)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by へちま   2008年06月10日 18:05
綾瀬はるかか谷村美月か、悩んだ末こちらを観ました。結局サイボーグにも行ってしまいました。
2. Posted by つぶあんこ   2008年06月11日 17:43
乳勝負ですな。
3. Posted by しびれクラゲでございます   2008年06月13日 18:12
またしてもオイラの松本莉緒ちゃんがこんな端役に!「リアル鬼ごっこ」ん時も糞ったれな役だったけど…まぁ、あん時ゃ出てくれただけで嬉しかった。しかし、続けてこんな役じゃあ納得いかんよ!しかもなんだ、白鳥っちゅう名前はよぅ!センスのかけらもねー。もっとこう、完璧な美貌を表してくれるような名前…まぁ、オイラのしびれた脳ミソじゃ思いつかねーけどさぁ。あんだろ、なんか。これじゃあ変えた意味ねーよ。だから物理のゼミ生なのに、間抜けキャラに見えたんだよ!あれじゃ、まるっきりこっちの住人(頭の弱い大人)じゃんか!さらになんだ!また谷村にオイシイとこ総取りされちゃって。テルテル坊主のライダー1号が羨ましいくらいだわ。インパクトあったもん、あれ。しかし、なんだな、谷村が変態医者にモミモミされただけで、あんなデカパイになったんだから、莉緒ちゃんも王様にパワハラされるくらいしといたほうが良かったかもな。ちぇっ!
4. Posted by ベロ出しチョンマなアインシュタイン   2008年06月13日 19:50
おうおう!あんこさんよー!
そういやぁ質問があんだけどさー。
小島よしお(キモ怖かった)が市原クンをフルボッコにしたシーンの直後、市原クンと顔デカ谷村の場面でさー、市原クンが発した第一声が「そんなの関係ねぇ」だったんだけど、それってアレかね、製作者サイドの小島に対する配慮っちゅうか、そんな感じ?
それともやっぱ、そんなの…(笑)
5. Posted by つぶあんこ   2008年06月15日 19:46
松本莉緒の役名っすか。
竜崎麗香とか姫川亜弓でどうですか?
6. Posted by 咲太郎   2008年07月12日 23:56
何というか、もうジャージに谷村美月とか、ロックミュージシャン兼寿司職人見習いとか、嵐の中のスシ食いねえとか
この映画におけるセンスが感覚的に好きです。
7. Posted by つぶあんこ   2008年07月22日 17:36
三池&雅のヘンなところが奇跡的に上手くいった貴重サンプルですよね。
8. Posted by ちゃぷりん   2009年10月23日 04:28
クライマックスはかなり好きです。ヤシマ作戦+落ちない「メトロポリス」ですね。

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