2008年06月05日

シューテム・アップ 68点(100点満点中)

ひにゃあっ! ミルクでちゃうのぉ
公式サイト

クライヴ・オーウェン主演のクライム・アクション映画。

序盤、主人公が赤ん坊をとりあげるシーンは、あからさまに同氏主演の『トゥモロー・ワールド』を想起させるもの。終盤にて敵の番犬に懐かれてしまう、ストーリー的に全く意味のない描写や、「食料配給券」などの小道具も、同作に絡めた意図的なネタか。冴えないオヤジが実は凄腕のクライムファイターで、娼婦を守って戦う、との図式は『シン・シティ』だ。その場にあるものを利用し尽くして戦う、『ボーン・アイデンティティ』絡みのネタも散見。

ストレートに観ると、アクションの破天荒さと実は社会派だったと判明するストーリーのギャップに面喰らうだろうが、いきなりニンジンを貫通させて「野菜食え!」で始まる戦端を見て、本作が真面目な映画だと思う人はいる筈もなく、むしろ何が起こっても戸惑わない下地として的確かつ強烈。

だからと言って何も考えていないわけでもなく、各主要人物には、いちいち言い訳がましい程に背景や理由付けが施されている、無駄にも思えるディテール設定が奇妙で面白い。前を走るマナーの悪い車への仕打ちにて、主人公の性格を強烈に印象づけて、通りすがりに事件に巻き込まれた理由とし、これにて全てのツッコミをかわしているのも、強引すぎて気持ちいい。でも犬は好き、との小ネタが、先述の犬オチに結びつくなど、フリとオチがしっかり設定されているのも憎い。

指紋認証の銃と説明があった時点で、死体の指を使って撃つ、との流れは予想出来る。だがそれ自体をフリとし、素手で弾丸を発射したり、ニンジンで引金を引いたりと、更なる"どうにかして撃つ"力づくのオチへのフリとして機能しているのも、二重三重の仕掛けとして秀逸。

主人公アジトの入り口の仕掛けをまず見せ、敵工場内での仕掛けにて同じギミックを発展させて、銃撃アクションを単調に終わらせない工夫も楽しい。バカアクションの集大成とも言える、スカイダイビング中の銃撃戦では、空中ならではの位置関係や小道具を活かした工夫で楽しませ、戦闘員を大量に死なせた上で、着地点の惨状にて、文字通り天と地とも言えるオチとして苦笑させられる事となる。

その死屍累々描写は特に生々しく見せられるが、全編通して人がゴミクズの様に死にまくる作品において、妊婦の死以外の人死にが総じて、悲壮さのカケラも無く、芝刈機で雑草を刈り取るがごとき爽快さと痛快しか生じないのが興味深い。これは同じく人間がゴミの様に死にまくる『ランボー 最後の戦場』から受ける印象とは、全く正対するものだ。

同じ様な事をしているにも拘らず、印象と感情が異なるのは何故か。もちろんストーリー的な方向性も大きいが、何より"見せ方"によるリアリティの差異が最たるものだろう。階段の大殺戮場面に顕著だが、テンポの良さと見た目のわかりやすさを重視するあまり、軽くフラットな視点で殺戮を描いており、ゆえに真に迫るものが感じられない。殺される相手が、最初から殺されるためだけに登場する記号的な要員にすぎない事も含まれるだろう。

その割には銃社会への批判がストーリーの向かう先なのだから、皮肉極まりないにも程がある。主人公名がスミスなのは、名無しの匿名である以上に、スミス&ウェッソン社を意図したものだろう。

殺戮がらみの描写が、予想の少し上を行くバカバカしさを手堅く押さえているのと同様、駆け込んだ建物からシスターが出てきたと思ったら、後ろを向くとTバック、と、ベタなボケにて場所を認識させ、そこから「では赤ちゃんプレイ専門の嬢を?」などと予想を導いておいて、実際にはその上を行く母乳プレイ嬢(モニカ・ベルッチ)だった、と落とす、エロ絡みのネタ展開も手堅く楽しい。

そこでもまた、母乳が出る理由付けをちゃんと行い、彼女が赤ん坊に感情移入する本筋にも必要な理由付けを兼ねさせる、など、バカに見えて有意に構成されている、生真面目さが何とも笑える。ラストシーンのウエイトレス姿も、生真面目なボケとして王道的だ。(全く関係ないが、「ミルクでちゃう」でググると22万件以上がヒットする。日本終了)

彼女がイタリア系移民であるとの描写は、モニカ・ベルッチのプロフィールを用いた楽屋オチ赤ん坊ダミーをしつこく見せ続けるのも、同じく楽屋オチ的な意味合いを含んでいるだろう。様々に笑いを絡める仕事は手抜きがない。ウンコネタもただ汚いだけなら嫌悪しか生まないが、社会批判に絡めて皮肉る材料としており、大人でも笑えるものに。

のだが、殺戮シーンの血飛沫は必要以上に増量してレギュレーションを上げておきながら、人形丸出しの死体以外では、脱ぎ女優のモニカ・ベルッチですら、セックスシーンまで用意しながら、乳首の一つも見せないのは、一体どういう良識が働いているのか、と、納得がいく筈もない。

ポール・ジアマッティ演じる中間管理職のハゲデブメガネが、妊婦の死体を大切そうに扱っていたのは、嫁との電話から想像される倦怠へのカウンターか。死体そのものに何らかの価値でもあるのかと勘繰ったが無駄だった。

それにして日本語字幕の質が低く、いちいち違和感があるのは、テンポ良く楽しむタイプの映画としては問題だ。銃社会のテーマにも繋がる"ローンレンジャー"をそのまま訳さない意味もわからない。

『トゥモロー・ワールド』レビュー



tsubuanco at 13:38│Comments(2)TrackBack(11)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by へちま   2008年06月24日 23:25
本当に安心して笑えました。ラストの強盗がやたら汚いのも、ちゃんと意味あったんですね…。
2. Posted by つぶあんこ   2008年06月25日 17:38
ラストシーンはデブの顔射が見どころです。

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