2008年06月09日

休暇 70点(100点満点中)

Rの肉体は死刑を拒否した
公式サイト

死刑執行に立ち会う刑務官を主人公とした、吉村昭の短編小説を映画化。

とある死刑囚の死刑執行を基点に、その時点に至るまでの主人公の仕事の様子と、その時点より後の、主人公のプライベートの様子を、交互に平行して描いていく、基本的な構成は原作と同一。

だが、原作では、刑務官である主人公の視点による描写に限定しているのに対し、この映画版では、死刑囚である青年にも視点を大きく振り、そちら側にも感情移入させるべく作られている。

この点がまず、原作を着想に追加要素を大きく加え、ごく短いストーリーを二時間の映画とするべくドラマを膨らませて、死刑という制度が抱える様々な矛盾と現実を観客に訴え問いかけるべく、更なる解釈でテーマを盛り込んだ、映画版としての大きな特徴と言える。

主人公以外の刑務官にも、それぞれキャラクターと動向を当て振っているのも、同様にオリジナル要素となる。これは、同じ職業に従事する者の、主として世代による書き分けを通じて、一つの時間点にて一人の職業人生を見せきってしまう意図によるものだ。中年で中堅に位置する主人公を中心に置き、柏原収史演じる新人を、主人公を始めとする刑務官の"スタート"の記号とし、菅田俊演じるベテランを、彼らの行き着く先として同じく記号化。この二人の掛け合いの噛み合わなさが、職業が人を変えるリアルを同時共存の存在として戯画化し、特殊かつ重要な職業の厳しさを象徴させている。

その、"最初"と"最後"の間における葛藤が、主人公が選択する"割り切り"と、"割り切らない"大杉漣の対立として表されているのも、同様の手法に位置するものだ。そしてそれらの描写と展開を、特に結論づけないままとしているのも、切り取った現状を戯画化して、問題提起としているからこそである。披露宴にて、実際に手を汚して生きている男達と、その前で、現実を何も知らないクセに知った様な事をのたまう酔っぱらいオヤジとの、皮肉な対比は、当然ながら無知、無関心な大衆の投影だ。

死刑執行と新婚旅行が平行して描かれるのは、合法的に他人の命を奪う仕事に携わる事と、その人物が他人の人生を引き受けて生きていく事の、矛盾した交錯を意味している。これは原作の段階からのものだが、本作はそこから更に発展させて、"支え役"となる主人公が、死にゆく命を抱きかかえる場面と、新しい命の象徴である連れ子を抱きかかえる場面とを、矛盾した相似形として配し、より人間の矛盾を強調し、人の命を支える、背負う事の意味を問いかけている。

この、死刑囚と連れ子を、ことごとく相似、対比させ、テーマを浮き立たせている、細かい設定の積み重ねが興味深い。最もわかりやすいのは、死刑囚が描いている白黒の鉛筆画と、子供が常に描いている色鉛筆のカラー画の対比だろう。両者の文字通り心象風景を、色をももって表現しているこのギミックは、最終的に両者が主人公に贈る、"主人公と家族"の絵として、両極端の形にて決着づけられてしまう。

そうして、人の死の上に成り立っている人生というものは、ではそれは殺人犯のそれと何が違うのか、と、積み重なる"人の死"に思い至らせる構成が上手い。死刑囚の過去を殊更に描かない事で感情移入を促しつつ、意図的な類型化を図り、主人公が結婚相手の過去を詮索しない事とも重ね、人の行いと向かう先を、様々に象徴させている。

老夫婦の幻影を用いる事で、犯した罪は確としているとは押さえておき、それが余計な説明ではなく、あくまでも状況の描写として見せているのは、結婚相手が子供を連れている事だけで、過去を想像させ類型化させるのと同じ手法。ここにも相似と対比が用いられている。

そして何より、死刑囚を演じる西島秀俊による演技、リアクションの迫真のリアルこそが、意図的に類型化された本作の作劇を、普遍的なリアルに押し上げ、観客の感情に直にテーマを訴えかける事に成功している、最大の要因と言えるだろう。

執行当日の演技もさることながら、若手刑務官のウッカリによって"察して"しまった後の、壁に頭をぶつけて反応を受け、あらためて自らと他者の生と死の現状を認識し取り乱す様は圧巻。

原作発表当時の70年代と現代との、再婚に関する認識の差異が、結婚相手のキャラクターの差として現われているのも面白い。

死刑囚の金田真一という名前も、映画オリジナルの創作だが、この左右対称の字面が表している意図は明白だ。大島渚『絞死刑』へのオマージュでもあるのか。



tsubuanco at 15:56│Comments(2)TrackBack(8)clip!映画 

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公式サイト。吉村昭原作、門井肇監督。小林薫、西島秀俊、大塚寧々、大杉漣、柏原収史、りりィ。死刑執行の業務の後にその特別休暇を利用して結婚式と新婚旅行をするという奇妙な刑務官の物語。

この記事へのコメント

1. Posted by デリート許可されました   2008年06月19日 18:32
この映画マジで良かったんだけど、あんこレビューのおかげで、よりディープに理解できた気がする。超感謝!
だからオイラ決めたんだ。「ブタ野朗」と呼ばれても、あんこレビューをリスペクトし続けるぞって。ブヒー!ブヒー!
…ところで、よく分かんなかったことがあんだけど、金田の妹が面会に来たけど、アレはどんな意味があったんすか?死刑囚の身内として辛い生活を送ってきたっちゅうのを表現するために無言だったんすか?
ブヒー!ブヒー!(教えて!あんこ先生!)
2. Posted by つぶあんこ   2008年06月20日 17:37
それもあるでしょうし、あの状況で互いに何も言えないってのは、極めて自然なあり方かと。

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