2008年06月11日

パレスチナ1948 -NAKBA- 34点(100点満点中)

一方半島は南北に分断された
公式サイト

フォトジャーナリストの広河隆一による、40年の歳月をかけて現地取材を行った、イスラエル・パレスチナ問題のリアルを捉えた、ドキュメンタリー映画。

近代史的な観点においては、英米を後ろ盾としたイスラエル側の侵略行為と映るこの問題は、だが聖書や神話の時代からの、ユダヤ人やイスラム教徒らの成り立ちの経緯まで考え併せると、どちらかが一方的な悪とは言い切れず、客観的に決着づける事は不可能だからタチが悪い。

そもそもの元を辿れば、土地なんて誰のものでもないのだから、公正明確な線引きなど行えるわけがない。だからこそ人は神の名を騙り、神を拠り代に自らの正当化を図ろうとする。同様に自分達にとって都合のいい部分の歴史、史観のみを採り上げて根拠とする。いつの誰でもやる事は同じだ。

フィクションの世界でも、70年代の『デビルマン』や『海のトリトン』らに始まり、先住民族と現住民とのサバイバル抗争を題材とした作品は多々ある。それらは勧善懲悪のヒーローものも体裁をとって、先住民側を敵あるいは悪として描きつつも、元を正せば向こうの主張にも理があると気づかせられる点では、本質は現実と変わらない。そうしたパターンが多用されているのは、二人以上が揃えば殺し合う人間の深き業が、真理に他ならないからだ。

まずはイスラエル側の人間として現地で暮らしていた広川氏が、現時点での"先住民"となるパレスチナ人を迫害した末の、"現在"である、と気づいてしまうところから始まる本作。一方の側にいた人間が、加害者としての過去に到達する、との図式は、やはりフィクション『ウルトラセブン ノンマルトの使者』や『魔王ダンテ』などで、どんでん返しギミックとして用いられている様に、知った当人にとっては"衝撃の事実"に相違ない。

そうした"衝撃"から語りを開始し、二元論で語れない価値観を最初に提示するやり口は、題材に興味を持たせる方法としては的確だ。ナチスに迫害されたユダヤ人が、今度はパレスチナ人を迫害している、との歪んだ矛盾構造は、日本人でも一般常識として認識しているだけに、現地のリアルな光景を用いた導入部の説得力は強い。

基本的に、現在に至るまでのイスラエル側の行為を、人道にもとるものだとの視点で捉え、廃墟と化した市街地や、そこに転がる女子供を含む死体の数々、それらを蹂躙して跋扈する戦車、などを、ホンモノだからこそ伝わってくる、"近さ"を強調した映像とスチール写真で羅列している。

その一方で、多くを占めるインタビューにおいては、ユダヤとパレスチナ双方の観点、意見を、個々人一人一人のパーソナリティを重視して平行に羅列し、誰もが同じ人間である事、勢力に拘らず一人一人が個人の考えを持っている事を伝え、一義的な断罪とはならないべく構成されているのも、好感が持てる。生の映像、生の声に勝る説得力は無い。

のだが、そうした公正であろうとの姿勢、および、膨大な取材量によって得られた膨大な映像資料の中から、可能な限りのものを見せたいとの、作り手の思い入れとしては当然の意志が強く働きすぎ、映画としての構成との観点では、方向性が不明瞭で、流れも行ったり来たり迷走を繰り返し、整理が全く行われていないため、二時間を超える長尺も手伝って、冒頭の興味はどこへやら、退屈で散漫な印象となってしまう。

これは、真に伝えたい重大な事象があるだけに、作品として致命的な問題点だ。本作はあくまでも、興味を持つきっかけとして機能させるべく、入りやすく、わかりやすく、余韻や疑問が充分に残って、もっと知りたい、調べたいという気にさせない事には、本作が作られた本来の目的、完全版の製作と発表にはそぐわない筈だ。

起と結はあれ承と転が不明瞭な構成は、NHKなどが製作している興味深いドキュメントにも遠く及ばないものだ。制作スタッフに、編集や構成のセンスと能力に長けたものがいなかった事が、難点の要因だろう。

資料としては超一級品だけに、この出来はなんとも勿体ない。今一度の仕切り直しに期待する。完全版はそれからでも遅くない。

『パラダイス・ナウ』レビュー



tsubuanco at 16:22│Comments(0)TrackBack(1)clip!映画 

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